25話 百橋君
あの後、めるちーと日葵についても父さんと彩夢に伝え、僕の友人関係が詳らかになった。めるちーをあだ名で呼んでいることにまず驚かれ、友人が四人もいることに驚かれ。
彩夢からは星野さんを始めとした友達がどんな人なのか見たいと言われ、渋々スマホに保存している写真を見せれば全員が美形だったことに驚かれ、でも私には敵わないねなんてドヤ顔を浮かべる彩夢を引っ叩き、百橋君の写真は無いのかと追及してくる彩夢を躱した。
百橋君の写真はそもそも持っていないし、持っていたとしても見せるつもりは毛頭ない。
結局、事の詳細は母さんの耳にまで届いてこの日の夕飯は僕の友人関係を追及されることとなった。僕の思い描いていた通りの未来となってしまったわけだ。
どうやら僕は未来視の能力者であるらしい。いや何も嬉しくないな。こんな限定的な未来視。
「どったのしぐれっち」
「いや、ちょっと昨日色々あったなって思ってさ」
「いろいろ~?」
「色々というか、まあ一つなんだけどね」
要素で言えば色々もクソも無くて、たった一つの事なんだけど色々と言いたくなるくらいには追及されたのだ。
学校の休憩時間、いつものように四人で集まっていた時に僕がちょっとしたため息を吐いたことでめるちーにどうしたのかと聞かれてしまった。
「昨日、家族にみんなのことを話したら色々と聞かれてさ。ほら、僕って今まで友達いなかったって言ったでしょ?高校入って初めて友達ができたものだから、うるさくてさ」
どうかしたのかとめるちーに聞かれ、特に誤魔化すような事でもないので素直に明かす。こういうことは吐き出すことでストレス解消になるのだ。
「へー。いいじゃん、家族仲が良さそうで」
スマホから顔を上げて僕の話をしっかり聞いてくれる彼女は、柔らかな表情で僕の愚痴に付き合ってくれる。
そんな僕たちの会話に日葵が意外そうな顔をして混ざる。
「時雨って本当に友達いなかったの?」
「喧嘩なら買うよ」
「いや、そうじゃなくてさ。時雨って美人だから、誰か話しかけてくる人とかいたんじゃないかなって」
「そうだと良かったんだけどねー。僕はこの15年間、友達と呼べるような人は一人も……」
顔が良ければ誰かに話し掛けられる。そう言うことを考えたこともあった。しかし、僕との関係を深めようと近づいてくれる人は一人たりともいなかったよ。
何がいけなかったのかと彩夢に相談したこともあったけど、その時は『お兄はちょっと特殊だからね……』というよく分からない返答を頂いた。
今思い返せば、前世の記憶と価値観から振る舞いを間違えてしまっていたのではないかと思うところはある。
でもさあ、いくら男だからって全く人が寄り付かないなんてことは無いでしょ。
だが、女装をして登校した高校生活初日で星野さんに話しかけて貰えたから、男性として過ごしていたことが原因の一端なのは間違いないんだよなぁ。
そんな風に、今までの友達ゼロ人の人生を振り返っていた僕の様子に、日葵を始め星野さんもめるちーも心底意外そうに僕を見てくる。彼女たちは本当に僕に今まで友達がいなかったことが信じられないようだった。
いくら容姿が良くても、コミュニケーション能力が無ければ意味がないという良い例だね。コミュ力って案外バカにできない能力だから、得意な人は磨きをかけると良いよ。
まあそんなことはさておき、僕の家族の話は一旦置ておこう。
父親がいるという話をすると次はこの友人たちに根掘り葉掘り聞かれる羽目になるから、あまり父さんの話題は出さないようにしている。日葵は既に知っているから例外として。
そうして他愛のない会話を続けていると、周りの生徒が俄かに騒ぎ出した。
ざわざわと話声が各所で聞こえてくるこの様子に、何かあったのだろうかと辺りを見渡せば僕のすぐ隣に百橋君が立っていることに気が付いた。
クラスが騒がしいのは彼が僕の隣に立っているという事実からだと言うことに気が付いて、納得してから僕は百橋君に挨拶する。
「やあ、百橋君。何か用かな?」
「白々しいぞお前。学校でも気軽に接しろって言ったのは矢吹だろ」
「……僕、そんなこと言ったっけ?」
「さあな。だが、そんなニュアンスのことは言っていたな」
それは否定しない。僕は彼に馴染んで欲しいとは言ったし、多分メッセージか何かでそんなやり取りをしたのだろうと思う。
昨日の今日ですぐに僕たちに接してくるとは正直思っていなかったので、内心僕も驚いている。僕の近くにいる三人の方が驚愕度合いで言えば圧倒的に上なのだが。
身近に僕以上に驚いている人が居ると却って冷静になるもので、他の生徒たちが探るような視線をこちらに向けているのも目に入る。
そんな中、百橋君は空いていた席を借りてその上に座った。
休憩時間で誰も使っていない椅子を借りるのは学生あるあるだ。割とみんな誰のだろうが使っていなかったら好き勝手に拝借しているイメージがある。教室移動とかで他のクラスの他人の椅子に座ることが多い高校では自分の物っていう認識が薄いんだろうね。
「友達なんだろ?なら、お前らの中に混ぜて貰うのはおかしなことじゃないはずだ」
「その通りだね」
全く間違ったことは言っていないのだが、言い方と台詞の内容からして女子たちを一瞬で落としそうな気配がする。これが僕や星野さんたち三人でなければ一瞬で惚れていたのではないだろうか。
「……なんか、不思議な感じだね~」
「うん。こんなに近くで男子と話したのってあの時以来かも……」
「ボクも、あんまりこういった機会には恵まれてこなかったね……」
そう言う三人は、チラチラと百橋君を窺っていた。
昨日の今日と言うことでまだ彼には慣れていないのだろう。ちょっとぎこちない態度があるけれど、それでも僕たち男としては不快に思うほどではない。
「ま、これを機に俺のスタンスをクラスメイトに見せつけてってのがお前の考えるプランなんだろ?」
「おや、バレていたか」
あわよくば、彼と意気投合できる友人が見つかることを祈っているよ。
「そうなると、部活に入るのも一つの手になるのかもね」
「部活か……。あまり考えてなかったな。参考にさせて貰おう」
部活動や同好会。この学校にももちろん存在しているけれど、僕はこのひと月何も見学していないし何かに入ろうと考えてもいなかった。
「日葵はバスケ部なんだよね?」
「そうだね。ボクは入学してすぐにバスケ部に入部したよ」
「楽しい?」
「ああ。もちろん楽しいとも」
笑顔で頷く日葵を見て、僕は部活も良いかもねと思い始めてきた。とは言え、運動系の部活はNGだ。そもそも運動する気がないというのが一つ。そして何より、更衣室とかの問題が出てくる。
僕は本質的には男性で、女装こそしているけれどそれは変わらない。だから、体操服に着替えるときやユニフォームに着替える時、更衣室に入れなくて不審がられる可能性がある。
そういう物理的な要因があるから、運動系の部活動はNGだ。もし入るとするなら着替える必要がない文科系の部活動になるだろう。
「部活かー。あたしもまだ何にもやってないなー」
「私は、今のところ入る気はないかな」
めるちーや星野さんはどうやらあまり乗り気ではないらしい。そうなってくると、僕も無理に何かを探す必要もないのかもしれない。部活動に入ることが高校生活の全てではないからね。
しかし、候補としてそれとなく探してみるのも良いだろう。
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