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23話 男同士の会話

「それにしても、まさか一度に三人とは思わなかったな」

「人数指定されてたわけじゃないからね」


 百橋君と帰路を共にしていると、彼からそんなことを言われた。

 僕も当初は信頼できる一人に彼を紹介しようと思っていた。彼を紹介する人は少なければ少ないほどリスクは低くなる。人間関係のトラブルなんて、どこで何が起爆剤となって爆発するか分からないのだ。


 クラス唯一の男子生徒関係なら、余計に慎重になるべきだと僕も思った。


 けれど、そう思ったのは最初だけだ。結局、百橋君にも楽しい学校生活を送ってほしいという身勝手な願いが先行して、僕の友人三人に彼のことを明かす選択をした。


 それは今でも正解だと思っているし、この選択に疑いなんてない。


「とはいえ、いきなり三人を相手にさせられる俺の気持ちにもなってくれ」

「えー?ハーレム状態だよ、ハーレム。僕たちだってそういう欲望がないわけじゃないんだし、楽しんだら?」

「……正気か?」


 からかうように僕が言うと、百橋君は一体何を言い出したんだコイツは……。みたいな視線を向けてきた。まあ、多少なりとも忌避感はあるか。


「でも、あの三人なら行けそうじゃない?」


 我々男が嫌うのは、欲望に満ちた下卑た態度を隠そうともしない相手であって、真摯に接してくれるあの三人のような子を何の理由もなく避けるようなことはしない。


 そもそも、女性不信って訳じゃないからね。


 そんな意味を込めて、あの三人ならお眼鏡に適うのでは?という意図で聞いてみたのだが、求める答えは返ってこなかった。代わりに、複雑そうな目を向けて百橋君は僕に言う。


「……その姿でその話題を振るな。バグる」


 女装姿で下の話題を振る僕が異質に見えたのだろうか。


「言語化が難しいが、何と言うかその話題を振られると寒気がする。本能が警鐘を鳴らすとはこう言うことなんだろうか」

「……あー」


 多分、僕のことを女性と認識しちゃっているから、今までの経験から下品な話題を振る女性は警戒対象みたいなスキーマが作られているのだろう。でも、僕が男性であるという情報も加わってしまっているためよく分からなくなってしまう。


 僕の女装スキルが高いが故に発生してしまった悲しい事件だね。


「ただ、いずれ相応しいと思える相手ができたら俺も結ばれるのかもな」

「おや。珍しいね。そういうことを言うなんて」

「どこかのバカに影響されたのかもしれん。実はモテたいなんて考えながら女装するバカにな」

「ハハ……。……耳が痛いね」


 いやほんと。耳が痛すぎる。


 百橋君に、僕は実際女性に対してあまり悪感情を持っていない。と明かした時は、心底驚かれたものだしなんならお近づきになりたいと思っているとカミングアウトしたら彼は耳を疑っていた。


 男女比の差があるからか、男性は女性に積極的にならない。


「ただ、世間で騒がれている以上には悪くないと思えてきているな」


 各種ソーシャルメディアや報道機関などから、男性のリアルな声!とかそう言う話題が取り上げられて、女性のこういうところが苦手だみたいな意見が散乱するようになってきた。


 男性関係の法律は軒並み厳しく制定されているし、まあ色々と問題も多い。


 だからまあ、女性に対して積極的(?)な僕の存在は世界的にも少数派に当たるだろう。そんな異質な僕に対して、百橋君は驚いた訳だけど。


「でしょ?案外接してみれば相手もただの人。好みの子ができたらアプローチしちゃえば一気に落とせるよ。僕たちはそれくらい恋愛に関して優位な立場にあるわけだから」


 まあ、得てしてそう言うのは誇張されるものだ。その方が見る人も増えるし、それが悪いと言っているわけではない。


 百橋君を始めとしたこの世界の男性だって、最初から女性が嫌いなわけではないのだ。どちらかというと恐怖の方が勝っていると思う。僕たち陰キャなら分かると思うけど、クラスでワイワイ騒いでいる陽キャグループとかちょっと怖いでしょ?


 そうでなくても、街中でたむろしているヤンキーを見れば怖いと思う。それと似たような物。


 なんか母数が多くて性的に狙ってくるちょっと怖い人たち。この世界の女性に対する男性の認識は大多数がこれだろう。

 だから、一度接して悪い人ではないと思ってしまえばあとは単純。普通の友達として関係を築くことだってできる。


 ま、その過程でどんなアプローチを受けるかは僕が知るところではない。でも一つ例を挙げるなら僕の父君がいい例だと思うよ。


 数多の異性からそう言う視線を向けられて、そう言う態度を取られて辟易する人もいるわけだけどね。それに関しては僕がいい例だし。複雑な問題だ。


「まあ、男であることには変わらないからクラスで僕たちと接している所を見られたら今後アプローチは増えるかもね」

「……はあ。考えただけで億劫になってきた。やめてもいいか?」

「諦めたまえ。種の繁栄のために備わった本能だよ。僕たちは被食者。どれだけ頑張ってもシマウマ如きがライオンには敵わないのだよ」


 悲しき哉。これが自然の摂理……!


「だが、逃げることはできると?」

「そういうこと。一夫多妻も法律上は問題ないし、そう言う選択肢もあるかもね?」

「死ぬぞ」


 僕の提案に百橋君は間髪入れずに答えた。


 人間関係でこじれそうだし、何より体力的に一体多数は難しいという根本的な問題から一夫多妻が採用された家庭は少なかったりする。


「冗談だよ。でもまあ、そう言う視線に慣れてしまえば生きるのは楽になると思うよ~」

「それに耐えられず女装した奴が何言ってやがる」


 正論でパンチされ、僕は何も言い返せなくなってしまった。


 この勝負はドローと言うことで良いだろうか。


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