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22話 顔合わせ

「紹介するよ。僕の友人である百橋司くん」

「百橋司だ。よろしく頼む」


 ファミレスに到着した僕と百橋君は、目の前で口を大きく広げて驚いている三人に対して自己紹介をする。

 僕の友達三人に百橋君を紹介すると思いついたその日には彼に連絡を入れ、全員の都合が付く日を把握しこの場を作った。


 このファミレスにやってくる道中で、僕と一緒にいる百橋君に少なくない視線が向けられていたけど、僕はその視線を歯牙にもかけずやってきた。


 ファミレスに男性がやってくること自体は何も珍しいことではないが、女子学生に囲まれている男子学生という絵面はかなり珍しい部類に入る。そのため、他のお客さんや店員さんからも何やら野次馬っぽい注目を集めている。


「…………まさか、本当にそうだとはね」


 呆然としていた女子三人組から、日葵が一番最初に口を開いた。日葵には百橋君と僕の繋がりを予め伝えていたからなんとなく予想をしていたのかもしれない。


「ひまっち、どういうこと?」

 

 未だ目の前の光景が現実だと思えないのか、半ば放心状態のめるちーがそれでも日葵の発言を拾う。それに対して、日葵は淡々と答える。


「ボクは時雨と百橋君が知り合いだって知っていたんだ。先日、良かったら紹介すると言われたばかりでね……」

「……と言うことは、日葵さんは何となくこうなるかもと予測してたのね……」


 日葵の発言に星野さんが反応する。


「ああ。だが、先日断ったと思っていたんだけどな」


 呆れ交じりの視線を僕は真正面から受け止める。今更何を言われようと既に百橋君と知り合ってしまったという事実は変えられない。


「矢吹には友達を作れと言われていてな。俺自身はあまり関心は無かったんだが、まあこいつが紹介する人なら大丈夫だろうと思ってな」

「そういうこと。百橋君はただでさえクラスじゃ孤立気味だからね。何をするにも人間関係は大事でしょ?」


 百橋君に続き僕も思っていることをそのまま口に出す。


 すると、何を考えているのか知らないが日葵は胃の辺りを押さえ、星野さんは苦笑いを浮かべている。めるちーに至っては男子が目の前にいる状況についていけないのか、百橋君とは極力目を合わせないようにしながらも目を回している。


「サプライズ的な感じで紹介しちゃって、ちょっと理解が追い付いてないのはゴメン。こっちの方が盛り上がると思ったんだよね」


 事前に男子を紹介するなんて伝えていたら、色々と騒ぎになるのは間違いなかったし説明も面倒だった。何より面白みがない。何も情報がない状態でゼロから百橋君を紹介してその場で全て説明してしまえば面白いのではないかと思ったのだが、思った以上に男子生徒の存在は劇薬なようだ。


 初恋の人が居るからと百橋君に恋愛感情を抱いていない星野さんでも、やはり目の前にいる異性にはどう対応したらいいのか分かっていないようだった。


「男子を紹介するなら事前に説明してよ」


 と、いつも以上に真面目な口調のめるちーに言われてしまった。

 普段のゆるーい雰囲気はどこへやら。今の彼女は真剣そのもので、失言、失態など以ての外というような雰囲気へと一変している。


 だと言うのに、未だ百橋君の方をまともに見れていないのはご愛嬌なのかもしれない。


 そんなめるちーの態度がおかしいのか、少し緊張がほぐれてきている星野さんが僕に対して疑問を投げかけてきた。


「それで、色々と聞かせてくれる?」

「勿論。質問には答えるよ」

「いつから知り合ってたの?」

「入学してから一週間くらい経ってからかな。偶々会う機会があってさ」

「なんで私たちに紹介しようと思ったの?」

「三人なら百橋君とだって友達になれると思ったから。それに、僕は彼にクラスで馴染んで欲しいと願ってるんだよ」

「馴染んで欲しい……?」


 百橋君を遠目で見ているだけではなくて、実際に一人の人間として交流を深める。そしてクラスで孤立せずに過ごしてほしい。

 そう言う考えがあるのだと僕は星野さんに伝える。


「百橋君はクラス唯一の男子生徒だから、あんまり馴染めてないでしょ。百橋君本人も、あんまり楽しくなさそうだったから」


 そう言えば、僕の横にいる百橋君は軽く口の端を吊り上げた。


「そうだな。矢吹の言う通り、一人は退屈だった。だからまあ、こいつの提案に乗ってもいいと思ったんだ。その第一歩と言うことだな。改めて、よろしく頼むよ」


 百橋君からそんなことを言われたら、三人は受け入れないわけにはいかない。一人は退屈だとぼやいている人間を放っておけるほど、三人は非情ではなかった。


「そう言うことなら、よろしく頼むよ」

「うん。私とも仲良くしてくれると嬉しいな」

「あたしのことはめるちーって呼んでね~」


 百橋君の意思を受け取った三人は各々彼に歩み寄る。めるちーもなるべく彼と目を合わせようとするし、星野さんと日葵も穏やかな表情を浮かべている。


 それに対して、百橋君もむず痒そうな笑みを浮かべて対応している。


 この分なら、僕の思惑は成功と見て良いだろう。





 ▽▽▽



 時雨を始めとした四人グループと連絡先を交換した司に対して、男性ならではの価値観から出る世間話に感心しっぱなしだった三人。だが、そろそろ夕方となって良い時間になってきた。


 男子生徒一人を遅い時間まで拘束するべきではないという常識から、この場はここで解散となった。


 司を送るという名目で時雨と司は抜け、三人はまだファミレスに残ると言う選択を取る。今日あった出来事を三人で整理する時間が必要だったのだ。


 司と時雨を見送り、会計はこの三人で出すよと渋る時雨を押し切った三人は神妙な面持ちでその場に座った。


 最初に感じていた懸念が的中してしまった日葵は頭を抱え、歩夢は苦笑し芽瑠は興奮状態だった。芽瑠に至っては自己紹介時に拒絶されたと思っていた男子生徒と連絡先を交換できたという事実に震えている。


「あたし、男子と連絡先を交換できる日が来るなんて思わなかった……」


 そんな芽瑠の独り言に、二人はしみじみと首肯する。男子の連絡先を手に入れる。生来、自分からガツガツと距離を縮めるタイプではない日葵や歩夢は高校で異性の友人ができるなんて想像していなかったし、芽瑠だってそれは同様だった。


「まさか、しぐれっちが既に百橋君と関係があったなんてね~」


 芽瑠や歩夢は彼本人から聞いているから知っているが、彼はあまり人間関係が広くはない。というか、まともな友人は本当に司を含めた四人だけだ。


 それ故に、クラスの唯一の男子生徒である司とどうやって知り合ったのか三人は少し興味が湧く。


 とはいえ、その興味は態々調べようなんて考えるほどの物ではなく、ちょっとした話題になる程度のものだった。


「矢吹さんと百橋君は似ている所があるから、意気投合したのかもね」


 歩夢のその発言に、日葵と芽瑠はなるほどと納得する。この短い時間で三人が感じた司に対する印象は、時雨と似ているというものだった。


 容姿や振る舞い、口調と言った物はあまり似ていない。というか、正反対と言っても良いだろう。ならば、そんな二人の間にある共通点とは一体何か。


「確かに、価値観というか、考え方が似通っていたね」


 日葵も先ほどの司と時雨のやり取りを思い出し、どこか二人の間には似たような共通基盤があったように感じていた。

 阿吽の呼吸とまではいかないが、多少通じ合うくらいの相性の良さが二人にはあったのだろう。


 それが、二人が実は同性だったからなんていう理由であるなんて露知らず、三人は司と時雨の関係について色々と話を弾ませる。


 果たして、時雨が男性だという事実が露呈する日は訪れるのか。


 そしてその時が来た場合、三人は何を思うのか。

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