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20話 三人目の友達

「矢吹さんのお父さんは178cm……。中々見ないくらいには身長が高いんだね」

「そうだねー。世間の平均身長より13cmも上だから、そんな遺伝子を受け継いでるのか僕も意外と身長はある方だし」

「矢吹さんは何cmなの?」

「僕は168。結構あるでしょ?」


 高校在学中に伸びたりするのかね。もしそうなら女装なんてしている場合じゃなくなってくるのかもしれないけど。でも、母さんは小さめなんだよね。


「そうだね。ボクは今175cmだから7cm差になるね」

「175cmなんだ。じゃあ僕の父さんよりは低いわけだ」

「はは。まあ、矢吹さんのお父さんほど高い人はあまり見かけないけど……」


 ぶっちゃけ、僕の父さんは希少種も希少種だがまあこの日本を探せば父さんと同じくらいの身長の人はそれなりにいるだろう。前世の男性の平均身長が170cmだったけど、それよりも10cm大きい180cmくらいの人だって全くいないわけでもなかったし。


 そう考えると父さんくらいの人もいるんじゃないかなって思えてくる。


 僕の持論だけど、身長とかあんまり気にする必要は無いと思う。別に平均より低くても高くてもその人が持つ魅力はどこかにちゃんと備わっている。そしてその魅力を好きになってくれる人もいるはずだ。


 一つの要素に引っ張られすぎると、本来持ち得ていた他の要素が見えなくなる。


「日葵はスポーツとかやってたりするの?」

「ボクかい?ボクはバスケットボールを少し。ほら、こんな身長でしょ?」

「センター張れるくらいはあるね」


 ゴール下で陣取っているだけで得点が取れるのではないだろうか。僕はあまり詳しいわけではないけど、日葵くらい背が高い人は重宝されるのではないだろうか。


「部活とかに入ってたり?」

「うん。バスケ部にね。練習はきついときもあるけど楽しいよ」


 そう笑顔で言う日葵の姿を見れば、本当に心から楽しんでいるのだと言うことが伝わってくる。日葵の中で、背の高さはどこか思うところがあるけれどそれはそれとして誇りでもあるのだろうか。


 バスケットボールという競技を楽しめているのだから、そこらへん割り切ってはいるのかもしれない。


 そんな他愛もない会話をしていると、そろそろ定食を食べ終える頃合いの日葵が優し気な笑みを浮かべた。


「矢吹さんって、意外と接しやすい人なんだね」

「ん?どういうこと?」


 そしてそんなことを言われる。僕が意外と接しやすい……?え、もしかして僕って傍目から見たら接しにくそうな人だと思われてたの……?


「気を悪くして欲しくないんだけど……。矢吹さんって、綺麗だしどこか見惚れちゃうような雰囲気があるから、話し掛けて良いのか躊躇う人が多くてさ」


「かく言うボクも最初見た時は凄く綺麗な人が居るなって思ったよ」


 そんな感想を言ってくれる日葵。綺麗だと真正面から言ってくれるのは非常にありがたいし、何より僕も嬉しい。いくら自分で自分のことを美少女だと思っていても、他人からそういった評価を下されるのは何より嬉しいし何より誇りになる。


 どこか遠い目をしながら思い返すように言う日葵に、僕は周りからそんな風に思われていたのかと戦慄する。しかし、そうなってくると僕に一番最初にコンタクトを取ってきた星野さんは何者なのだろうか。


 なんにせよ、僕は得難い友人を得ることに成功したようだ。朝留さんも下心があるとはいえ、僕たちに忌憚なくコンタクトを取ってくれた人だ。


「朝留さんは変わってる人だけど、スタイルは良いし可愛い。星野さんは何より清楚な大和撫子で、矢吹さんは何と言うか、触れたら壊れそうな繊細さがあるというか」

「僕はガラス細工だった……?」

「三人と友達になりたいと思ってる人は多いよ。ボクもそのうちの一人だった訳だし」


 なんというか、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどちょっと照れ臭い。


「そう言ってくれると僕も嬉しいよ。良ければ学校でも話しかけてくれると嬉しいな」


 高校に入学してから三人目の友達ができた。今までの15年間は何だったのだろうかと不思議に思うくらいスムーズに友達ができているけれど、女装ってやっぱりすごいね。相手が同性だと思っているだけで心理的なハードルが一気に下がるのだろう。


「あ、あと僕のことは時雨で良いよ。名前呼びなのが僕だけだとなんか悪いし」

「良いのかい!?なら、遠慮なく名前で呼ばせてもらおうかな」


 日葵には是非名前で呼んでと言われたけど、肝心の彼女は僕のことを苗字で呼んでいる。一体どういう線引きをしているのか知らないが、僕が名前で呼んでいるのだから日葵も僕のことを名前呼びしてほしい物だ。


 そう言えば、星野さんとは未だに苗字呼びだけど今度名前で呼んでもいいか聞いてみようかな。


 そんなこんなで、僕は日葵との親交を深めるのだった。


 


 ▽▽▽




 食事を終えて二人で伸び伸びと他愛もない会話に花を咲かせていた時の事だった。ふと、僕は思い出す。

 そう言えば、僕にはやるべき一つのミッションがあったではないかと。


 そう、皆さんご存知『百橋君友達大作戦』である。僕から百橋君に提案し、学校生活を送るなら一人くらい異性の友達を作ったらどうかという提案から始まった試みだ。


 百橋君からは、僕が推薦する人ならば関わってもいいと言われており僕の人を見る目が大事になってくる重要ミッションだが、日葵は結構良いのではないだろうか。


 まだまともに会話して一日目だが、十分候補になるくらいには良い人だし性格もしっかりしている。奇人変人の類じゃないし、百橋君とも相性が悪くなることもないのではないだろうか。


 そう思って、僕はぶっちゃける。


「日葵はさ、百橋君のことどう思ってるの?」

「……え?」

「ほら、クラスで唯一の(唯一ではない)男の子だけど、友達になってみたいなとか思わない?」


 僕のその問いにかなり驚いているようで、日葵は固まっている。


「えっと……。勿論、友人になれたらいいなと思っているよ。でも、ボクは男の子との接し方とかよく分からなくて……」


 大丈夫!今君の目の前にいるのがその男の子だ!何より、日葵くらい適切な距離感を保ってくれる人なら女性に対して距離を置いてしまう百橋君ともいい感じの関係になってくれると思っているんだよね。


「良ければ紹介しようか?僕、彼の連絡先を知ってるからさ」

「…………は?」


 良ければ彼と友達になってほしい。そう言う思いから連絡先を知っているし紹介しようかと提案したら、目の前の日葵は今までにないほど固まってしまった。銅像だろうかと疑うほどにはカチコチだ。


 あまりに長い時間固まっているものだから、おーいと声をかけたり手を振ったり色々と意識を戻すために試行錯誤する。

 そうしてどれくらいの時間が経ったのだろうか。10分くらいだといいな。日葵は意識を取り戻すと、身を乗り出して問いかけてくる。


 凄い迫力だ。


「え゛っ!?男の子を紹介!?連絡先を知ってる!?」

「う、うん……。どうしたのそんなに驚いて……」

「正気!?だって、百橋君の連絡先なんてクラスの誰も手に入れることができてないのに」

「いやあ、まあ色々あって彼と交流を持つことができてさ」

「百歩譲ってそれは理解したとして、何でボクに彼を紹介しようと思うのさ?普通、独占しようと思うものじゃない?」

「あー……。ほら、友達は多いに越したことは無いでしょ?」

「限度って言うものがあるよ!?」


 どうやら、迂闊なことをしてしまったようだった。うん。確かに少し考えればクラスの誰とも接していない百橋君と唯一コンタクトを取ることに成功した稀有な女子と見えるのか僕は。


 そうなると、日葵の発想に至るのも分かる。というか、それが普通なのだろう。百橋君を紹介しようなんて言う僕の方が圧倒的に少数派なわけだ。


 この後、日葵を納得させるのにかなりの時間を要した。


 もうちょっと男子関係は慎重になろうと思った僕であった。

 

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