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17話 気になる人

「なんか、二人とも仲良くなった?」


 ドリンクバーから帰ってきた僕たちを見て、星野さんは開口一番そう言った。

 飲み物を注ぎに行くという僅かな時間だったけど、僕たちの心の距離はかなり縮まっているし、なんなら身体的距離も一気に近くなっている。


 僕としてはめるちーに嫌な思いをさせてしまったという負い目もあるから、彼女のスキンシップとか日頃の距離の近さとかには慣れておく必要があるけれど、それでもやっぱり僕からしたら異性との接触なわけで。


 めるちーは僕のことを女子だと思って接してくるし、彼女は生来の性格からか距離感がかなり近い。犬に懐かれたみたいな感じがある。


「そうだよー。あたしたちズッ友だからね~」

「……本当に何があったの?」

 

 星野さんが困惑するのもやむない。

 だって、ビックリするくらい今までとは距離感が違う。多分、本来のめるちーの距離感はこれなんだろう。思えば、星野さんと接している時のめるちーはこんな感じだった気がする。


 なるほどねぇ……。


 思い返せば、めるちーもめるちーなりに僕に気遣ってくれていたんだろう。星野さんがそもそもあまり積極的に距離を縮めるタイプじゃないけど、でも近づいてくるめるちーを嫌がるなんてことは無かった。


 自分のことが嫌いかどうかを真正面から聞いてくるのはちょっとびっくりしたけど、ふと口から出てしまった言葉なのかもしれない。


「僕、今までの人生で友達がいたこと無かったから、無意識に距離を置いちゃってたみたいでさ。友達なんだからもっとグイグイ行くべきかなって」

「そういえば、入学式の日に連絡先を交換するのが初めてって言ってたっけ……」

「ああ、星野さんも覚えてたんだ。そうだよ、僕は生まれてこの方友達と呼べるような人間がいなかったからね。正真正銘、君たち二人が僕の人生初めての友達だから」


 二度目の人生においては、という枕詞は付くけどね。

 それにしたってこの人生において初めての友達であるっていうのは何も間違いではない。


 めるちーのあの発言もそうだけど、長らく友達がいなかった上に女装姿で異性と接しているなんてテクニカルなことをやっているから、ちょっとギクシャクしてしまうことがあるかもしれない。


「だからまあ……お手柔らかにね?」


 何か違和感を覚えても気にしないでくれると助かる。 


「分かった。確かに、矢吹さんはどこか孤高って感じがしてたからちょっと納得かも」

「さっきはあんなこと聞いてゴメンねー?でも、誰かに嫌われてるかもなんて思うと居ても立ってもいられなくなっちゃうんだよね」

「……何を話してたの?」


 めるちーが僕に謝罪をしてくれるけど、ドリンクバーでの僕たちの会話をまだ知らない星野さんは困惑の表情を浮かべている。

 そんな星野さんに、めるちーは先ほどの会話をそのまま星野さんに伝える。


「なるほど。そんなことがあったんだね」

「なんか、しぐれっちにだけは嫌われたくないんだよね~。なんでだろ」


 首を傾げるめるちーに、僕も一緒になぜか考える。しかし、何も思い浮かばなかった。


 そうこうしているうちに注文した品々は猫をモチーフとしたロボットによって運ばれてくる。こういう何気ない文明の利器は前世と大差なくて安心するよね。


 そうして食事を共にすると、自然と心の距離も縮まるという物で。

 学生にとって、放課後に一緒にどこかへ出かけるっていうのはその人との関係値をより一層深めることになる。


 遠い遠い昔の記憶を掘り起こせば、仲が良かった人たちっていうのはみんな学校以外でも会っていたよなと思う。


 そんなリラックスした状態で、僕は注文したパスタを頬張りながらふとどうでもいいことに気が付いた。

 僕たち男って、ファミレスとかだと結構ガッツリした物を頼むけど、女性ってサラダとかサイドメニューとか片手間で食べられるものを頼むんだねー。あとは最初から甘い物とか。ま、個人差はあるだろうけどさ。


 こういった何気ない日常のワンシーンとかでちょっとした差異を見つけたりするのは、この世界で生きて行く上で楽しみなことだったりする。さながら間違い探しをしているかのような、日常をちょっと彩る些細な楽しみ。


「そう言えばさ、星野さんには聞いたけどめるちーは百橋君のこと気になってたりするの?」

「え゛っ!?」


 割と汚い声が出たな。


 まあそれは彼女の名誉のためにもスルーしつつ、僕はめるちーの目を見続ける。回答を待つ姿勢だ。

 百橋君に、女友達の一人でも作っておいた方が色々と楽だよなんて言った身であり、彼からじゃあ紹介してくれなんて言われた身でもある僕にとって百橋君に近づけさせる人間は選ばなくてはならない。


 そうでなくとも、最初の自己紹介で男子のタイプとスリーサイズを言う破天荒さを持っためるちーなら、百橋君を多少なりとも狙っているのではないか。狙っているんだったら僕が一肌脱いでやろうという気持ちもある。


 恋のキューピットってちょっとやってみたかったんだよね。僕は男でありながら女でもあるっていう二面性を持ち合わせた人間だ。あ、トランスジェンダーとかではなく。僕の場合はただの女装男子なのであしからず。


 そういう訳で、百橋君との個人的な交流を持っている僕ならばめるちーと彼の距離を近づけさせることもできるわけだよ。


 さあ、どうなんだい。


「え、えっと……。確かに気になってるけど、あたしは一緒にいて笑ってくれる人がタイプって自己紹介の時も言ったっしょ?……彼はほら、どっちかってっとツンツンしてそうじゃない」


 まあ確かに。というか、実際ツンツンしているけど。恋人に対する接し方って言うとまた変わって来るだろう。ただまあ、元来の性格が一変するなんてあまり考えられないし、どうなんだろうね。


 もしかしたら、この世界では彼はツンデレ属性を持ち合わせている人間なのかも。


 別にアンタの事なんて好きでも何でもないんだからねっ!って感じ?


 イメージしてみたけど、多分恥じらいとか無く素面でそういうこと言うと思うよ彼は。ツンの部分が10割とかになりそうだぞ……?

 というかそもそも、男のツンデレって何だろう。ツンデレって女子がやってこそ真価を発揮するものじゃないのか……?


 分からん。僕はそっち方面に教養が無いから全くイメージできない。


「でも、全く気にならないって訳じゃないでしょ?」

「そうだけど……。でも、タイプかどうかで判断するなら、百橋君よりもしぐれっちのほうがあたし的にはタイプかな」


 えっ。


 我、ここで男カミングアウトして持ち帰りをしてもええか?

 まあ、んな度胸があれば今更彼女の一人や二人で来てるはずなんですけどね!ここで心臓をバクバクに跳ね上がらせて何もできなくなってしまうから僕はヘタレのままなんですがね!!


「えっと、矢吹さん……?なんか満更でもなさそうな感じが……」


 僕が何も言わなくなったからなのか、星野さんがちょっと困ったように言う。よく分かったね星野さん。僕としては全然ウェルカムだよ。でも、勇気が出ないんだ!


 そんなことはさておき、まだ知り合って数日程度の関係だし、僕としてもちゃんと人となりを見極めてからだとは思っている。こういう関係は慎重になるべきなんだ。


 それはそれとして、僕を押し倒して無理やり彼氏にしてくれる人募集中です。


 応募条件は僕のことを男だと何とかして知ってからアプローチをかけてください。以上。

多分無理


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