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16話 近い!!

 僕は高校入学前に、男性と女性のパーソナルスペースについての懸念をしていたと思う。男性よりも女性の方がパーソナルスペースが狭く、身体的接触も多い。

 個人差こそあるが、性差による距離感の違いは傾向として確実に存在しているのだ。ましてやめるちーみたいな誰とでもフランクに接することができる性格の女子となるとそれは顕著であって。


「……めるちー?なんで僕の膝の上に乗ってるのかな……?」


 今僕は、膝の上にめるちーを乗せたまま自席に座っている。星野さんはそんな僕たちを隣の席でぼんやりと眺めていた。

 至極当然の権利のように僕の膝の上に乗ってくるめるちーに、僕も最初は疑問を抱くことは無かった。あまりにも自然に座って来るから、何かおかしなことをされているという発想にならなかったのだ。


 前世において、僕もクラスメイトの女子が友達の膝の上に座っていたという光景を目にしたことはある。だから、身体的距離が近いめるちーは癖でこういうスキンシップをするのかもしれない。


 しかしよく考えてほしい。僕は男だ。異性を膝の上に乗っけているなんて、こんなのもうカップルじゃないと経験しない距離感なのである。

 めるちーは女同士の軽いスキンシップのつもりでやっているのだろうし、傍から見れば何もおかしなことはしていない。ただ、僕だけが全てを知っているが故に悶えているのが現状なのだ。


「えー、なんとなく~」


 僕の膝に腰かけているめるちーに聞けば、そんな返答が返ってきた。


 なんとなくで今僕は半殺しの状況になっているのだけど?女性経験がない僕にとって、この状況はあまりにもまずい。心臓の鼓動音がめるちーに聞こえるのではないかと不安になるくらいには動揺している。


 決して……決して!悟られるようなことが無いように振舞っているが。


 唯一の救いはあまり深く座っていないことだろう。僕に負担をかけすぎないようになのか、それとも流石にこれ以上近づくのは気が引けるのか、めるちーは僕の膝の先端にちょこんとお尻を乗っけているだけだ。


 ……今気づいたけど僕の膝の上にミニスカ女子の臀部が乗っかってるんだよな。

 ……やめよう。考えたらダメだ。出来る限り無心を心がけなければ。


 話は戻るけど、めるちーは僕の膝の先にあまり体重をかけないように座っている。だけど、これ以上深めに腰をかけられると色々とヤバいというか、あえて明言はしないけどそういう意味で僕は今二重に苦しんでいる。

 

「め、めるちー……?」

「どったのしぐれっち。あ、もしかして重い?」

「いや全くそんなことは無いけど」

「お、おう……」


 軽いよ。びっくりするくらい軽い。お世辞とかではなくてね。本心から軽いって思っている。女性の体ってこんな感じなんだね。あ、別にやらしいことは考えて……まあ少しは考えてるけどそう言う意味じゃないからね。


 しかし、何を言っても僕からどいてと言うには理由が足りない。重いなんて言う訳にもいかないし、嫌でもない。ただ、僕の心の問題なんだよ。

 なんというか、やってはいけないことをやっているような。そんな背徳感と罪悪感。それからちょっとした色欲に苛まれて悶々としている。


 嬉しいかと聞かれれば嬉しいが、これ以上続いてほしいかと聞かれるとそうでもない。


 そういう、相反する感情を抱えながら僕はこの休み時間を何とかやり過ごしている。ネットサーフィンでもして落ち着くか。


 僕はそう思い、現実逃避のためにスマホを手に取る。ロック画面を解除し、インターネットブラウザを開こうと親指を動かそうとしたその瞬間だった。


「そうだ!」


 と、めるちーが何かを思いついたのか体を動かす。その感触がスカート越しに僕の肌を伝った。

 あー煩悩が、煩悩がやばいですわ!このままじゃダメになってしまいますわ!


 心をお嬢様にしてやり過ごすしかありませんことよ!


 めるちーに動かれると、布越しに彼女の生命を感じるので非常に良くない。


 何かをひらめいた彼女は、唐突に僕の方へと振り返る。ほぼゼロ距離で彼女の顔が目の前に現れ、僕の心は限界を迎えそうになっている。


「今日の放課後、ファミレス行かん?この三人でさ~」


 僕と星野さんを交互に見ながらめるちーは言う。そんな彼女の提案に星野さんは嬉しそうな表情を浮かべた。


「いいね!私は賛成!」

「ぼ、僕も賛成……」


 異性との身体的接触と近すぎるめるちーの顔面に、僕の心はかき乱されながらもなんとか返答することに成功する。


 そうして、永遠にも思えた休み時間はようやく終わりを迎えた。なんとも言えない解放感が僕を包む。膝の先の感覚がおかしくなっており、なんかよく分からない感じになっている。


 去り際に、めるちーから一言。


「しぐれっち顔赤いけどだいじょぶそ?」


 と声をかけられたが、十割君のせいなので君に心配されるのはなんかちょっと癪だよ。




 ▽▽▽



 

 そして放課後。僕たちは近くのファミレスで集まっていた。各々好きな品を注文するべくメニュー表とにらめっこしている。


「とりあえずドリンクバーは頼むっしょ?」


 というめるちーの発言に僕たち二人は何も言わずに頷いた。

 友達とファミレスに来て、ドリンクバーを頼まないという選択肢は僕の中にはない。そもそも、僕はこういう外食の場では色々と欲張ってしまうタイプなんだ。


 欲張って、結局食べ過ぎて苦しくなるっていうのが定番なんだけどね。後はお金が無くなりそうで困るとか。目先の欲望を抑えられないのが僕の欠点と言える。


 そうして、店員さんに注文を伝え、ドリンクバーが解禁されたところで僕はオレンジジュースを注ぎに席を立つ。


「あたしもいくー。あゆむっちは何飲むの?なんか取ってこよっか?」

「じゃあメロンソーダお願いしようかな」


 一応防犯の観点から一人は席に残る必要がある為、星野さんが門番を務める。こういうの、男女で何も変わらないんだね。学生時代を思い出すなぁ……。まあ、現在進行形で学生だけどね。


 僕とめるちーが席を立ち、ドリンクを注ぎに行く。


「しぐれっち、さっき顔赤かったけど体調悪い感じ?」

「大丈夫だよ。さっきはちょっと暑かったというか……」

「ありゃ、もしかしてくっつきすぎた?」

「いやいや、そんなことないよ」


 むしろ役得でした。でも、それはそれとして精神的な疲労が凄かったけど。


 そう思いながら僕たちはドリンクバーへと向かう。そんなに距離は離れていないし、すぐに到着してコップを手に取り、それをセットしてボタンを押す。すると、水と原液が同時に注がれる。

 

 ファミレスのドリンクバーで炭酸飲料を注ぐときは、一度泡を全て消してからもう一度注ぐのがコツだ。一度じゃ泡のせいで満足に注がれていないからね。


 僕がゆったりと無心で飲み物を注いでいると、突然後ろから誰かに密着された。まあ、心当たりは一人しかいないんだけど。


「めるちー。どうしたのさ」

「スキンシップぅ~」


 後ろから割としっかりと抱き着かれる。近い。それと胸が当たってる。君はスタイルがいいんだからそう言うことを異性にしてはいけません。もう少し貞淑さを持ちましょう。


「ほら、僕は終わったから」

「うい~」


 そう言って、彼女を引き剥がす。密着されると自己紹介の時に言っていたスリーサイズが頭を過ってしかたがない。あれが83の暴力か……。


「しぐれっちってさ、もしかしてあたしのことあんまり好きじゃない?」

「……え?」


 唐突に発せられたその言葉に、僕は唖然とした。

 一体、どうしたのだろうか。彼女がそう感じる何かが僕にあるのだろうか。そんな考えが瞬時に脳を駆けまわる。


「距離感がさ、ちょっとぎこちないというか。近づいたらちょっと距離取るじゃん?もしかして、あたしのこの感じ、キライ?」


 そう問いかけてくるめるちーは、いつもとは違い少し真剣な様子だった。

 彼女にとってはこのスキンシップは当然の行為で、好意を示す手段として存分に活用しているのだろう。そんなめるちーに対して、僕は常に一定の距離感を保ってきた。


「嫌いじゃないけど。まだお互いに知り合って浅いでしょ?」

「うーん……。でもしぐれっちのそれはちょっと違うんだよね。どちらかというと男の子みたいな、そんな距離感の測り方」


 正解である。なにせ僕は正真正銘本物の男だ。


 ただまあ、なるほどね。僕はいつも通りに接しているつもりだったけど、めるちーには何か感じるものがあったのかもしれない。女装をしているとはいえ、僕の価値観は男のままだし。


「だから、あたしのこと苦手なのかなって」

「そんなことないよ。めるちーは僕の人生で二人目の友達だからさ。嫌いになるなんて絶対にない」


 少し陰りが出てきためるちーの表情を見て、僕は本心をそのままぶつける。


 君たち二人は僕の人生で初めての友達なんだ。今でも僕の心の中には嬉しさがこれでもかと込み上げている。社会から切り離されたのかと錯覚するような違和感まみれの世界に転生して、凡そ15年。


 君たちが、僕の中でどれだけ大切な存在になっているのか。君たち自身は知らないかもしれないけど、まだ数日の付き合いかもしれないけど、かけがいのない友達だ。


「めるちーの距離感にはまだ慣れないかもしれないけど、僕が嫌いになることは無いからこれからも友達でいてくれると嬉しいかな……なんて」


 言ってて恥ずかしくなるようなセリフを、僕は何とか口にする。

 気持ちというのは口にしなければ伝わらない。それは一度目の人生で嫌と言うほど思い知った。だから、僕は僕の気持ちに正直に生きている。


 とはいえ、かなり恥ずかしいことを言ってしまった。


 なんかちょっと後悔し始めた。あー別にこんな場所で言わなくてもよかったじゃんかよー。


 そう思いながらめるちーがどんな反応をしているのかも気になるので視線を彼女のいる方へと向ける。すると、そこには満面の笑みを浮かべためるちーがいた。


「えへへ……」


 普段の彼女らしくない笑みを浮かべながら僕の方へと近づいてくるめるちー。

 両手にドリンクを持った状態で、器用にこちらに頭をコツンとぶつける。


 どうやら、ちゃんと僕の気持ちは伝えられたみたいだった。


 満足した様子のめるちーを横目に、僕は星野さんが待つテーブルへと戻る。


 が、一言言わせてほしい。


 やっぱり近い!!

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