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15話 幻の16人目

「ねえ知ってる?」


 お豆の柴犬かな?


「どうしたの?」


 入学して数日を迎え、僕たちもそろそろ学校生活に慣れてくる頃合い。クラス内のグループもある程度固まりつつあり、雰囲気が出来上がってきた時期だ。

 

 休み時間にめるちーがスマホを弄りながら僕たちに話しかけてくる。


「この学校で誰も見たことがない男子がいたんだって!」

「学校の怪談……?」


 それが俗に言う幻の16人目なのではないだろうか。というか、誰も見たことがない男子ってどういうことだろうか。別に学校に属している男子全員を覚えているわけでもあるまいし。


「あ、それなら私も聞いたよ。男性研究会の人が一度も目にしたことがない男子生徒がいたんだっけ?」

「なんだそりゃ」


 その珍妙な研究会は一体何。僕たち男としては沽券に関わりそうな危険団体の可能性がないかな?


「しぐれっちは男性研究会知らない?この学校にある同好会で、男性について研究している人たちのことだよ~」

「要注意団体とかではなくて?」

「表向きは数が少なくなった男性を女性が理解できるように歴史や生物学の観点から研究するって名目だったはず~」


 いつの世も、いかがわしいことをしている集団は巧妙な建前を用意して自分たちの居場所を守っているんだね。涙ぐましい努力だと思うよ。でも、多分そこに所属している人たちは男子生徒からは嫌われているだろうけど。


「男子生徒には嫌われてるらしいけどね……」


 僕の考えと同じことを考えていたのか、星野さんが付け加えて説明した。


 まあ、残念でもないし当然ってところだ。チラッと最近仲良くなった百橋君に目を向ければ、彼も僕たちの話を聞いていたのか呆れながら首を横に振っていた。

 

 彼は身内にキス魔という名のお姉さんがいるから、一層そう言う人たちが苦手だったりするのだろう。


「それでさー。そこの同好会の部長は今年入ってきた一学年を含めて全ての男子生徒を把握しているらしいんだけどね~」

「それって結構な数じゃない?どこから情報を収集しているのかとか聞かない方が良い?」

「自分の目で確かめてるんだってよ~」


 凄いなそれは。だってこの学校って僕たち普通科の他にもあと二つくらい科があったぞ。そこに入ってきた男子生徒も把握しているのか……。そうなると普通に三桁は行くのではないだろうか。流石に男が少ないとはいえ、この学校に所属している全員となると結構な数にはなる。


「それで、その部長が知らない男の子が発見されたんだって~」

「へぇ~」

「一瞬の出来事だったからよく見えなかったし写真も撮れなかったみたいだけど、少なくとも部長が知らない人っていうのは確定っぽい~」

「いや、写真は撮らないであげてよ」


 嫌われる要因がこれでもかと詰まってるじゃないか。


 とはいえ、そんな男性研究会の部長が知らない人間が現れたと。そんな超人でも把握漏れをすることがあるんだね。そう思って話半分に聞いていたら、星野さんが一言。


「幻の16人目かもしれないねっ!」


 と、ちょっと楽しそうに言った。


 ……ん?


「ありそー。ってかそうだったら超おもろくね~?」

「その部長が見たことがない男子生徒ってことは、ただの噂じゃなくて本当にいる可能性が出てきたよ!」


 めるちーは相変わらずふわふわとした雰囲気で、星野さんは楽しそうに会話している。そんな二人を横目に、僕は一つの可能性にたどり着いた。


 ……それ、僕じゃない?


 百橋君と会うために男子生徒としての格好をしたし、あの時は周りに人はいなかったとはいえ、着替えのために少し場所を移動した。その時にもしかしたら誰かに見られたのかもしれない。


「同好会の部長は特定に勤しんでるらしいよー。ま、全く手掛かりがないらしいけど~」


 もし僕が考えていることが正解だった場合、今後無闇に男装をするべきじゃなくなったな。幸いなことに顔をしっかりと見られたわけでも、着替え姿を見られたわけでもないようだし誤魔化しは十分に効くけれど、流石に入学してからまだ一ヶ月も経ってないのに女装バレするのは早すぎる。


 まあ、百橋君に信用してもらうための男装だったからそれ自体に後悔はないけど、学校内での男装はなるべく控える必要があるかもね。


 そう思っていると、僕のスマホが震える。どうやら百橋君からのメッセージのようだ。


『早速バレそうになってるじゃねえか』

『面目ない。ただ、そう簡単にバレるつもりはないよ』

『ならいいが。……気を付けろよ?』

『肝に銘じておくよ』


 意外に思うかもしれないが、女装姿の時の僕と普段の僕は写真か何かを用いて見比べれば同一人物だと分かるかもしれないが、普段の様子や記憶を頼りに女装時の僕と普段の僕を同一人物だと特定するのは難しい。


 確かに面影くらいはあるが、それでも僕自身女装姿を鏡で見るとまるで別人なのだから他人が特定するのはもっと難しいだろうと思う。それこそ、家族くらいじゃないと厳しいだろう。


 百橋君も女装姿の僕を見て驚いていたし、先日ラインで全く分からなかったと評価されたばかりだ。


 だから、そう簡単に特定されるつもりはない。


「男性研究会ねー……」

「ん?どったのしぐれっち。……あ、もしかして入りたいとか?」

「そうじゃないよ。ただ、どんなことしてるのかなって」

「そりゃ、男について語り合ってるとかだと思うよ?実際そんな感じだって聞いたことあるし。部活じゃなくて同好会だから、こじんまりとしてんじゃね?」


 めるちーはそう言いながらも、最後に「ま、部長はかなり変人だけどね」と付け加えた。確かにそうだろう。学校の男子生徒を全て暗記しているなんて、いくら男好きだからってそこまでしようとは思わない。


 本人の性格とか、好きなことに一直線っていう感じなのだろうか。一歩間違えれば犯罪者になりそうな感じはするけどね。


 そろそろ休憩時間が終わり、授業が始まる。

 この世界でも数学や理科などの理数系科目は前世と大差ないし、国語なども細部は違うが大枠は前世と同じような感じだ。


 ただ、歴史は結構変わっている。


 それに、前世の高校時代の勉強内容とか完全に忘れているから、転生者だからと言って高校の授業がヌルゲーということは断じてない。


 男性研究会とかもそうだけど、なんかハチャメチャな世界に来たんだなと改めて実感した。


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