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13話 からかい上手の……?

「朝留さんはどうして僕たちの所に……?」

「めるちーって呼んでよ~。さっき言ったっしょ、二人とも綺麗だったから友達になりたいなって~」

 

 確かに、星野さんも僕も傍から見れば美少女だ。文句のつけようがないほどにはね。

 自分で言うのは慎みがないかもしれないけど、まあ鏡で自分の姿を見てしまえば否定することはできやしない。


「綺麗な人とお近づきになれば、玉の輿狙えっかもしんないっしょ?」

「流石、初手でスリーサイズを言った人は違うね」


 こんなに下心丸出しで友達になろうなんて吹っ切れていて最早清々しい。ドヤ顔を浮かべながら言うめるちーは、言っていることは下品だが嫌味の類は一切感じない。


 清々しいほど自分に正直な人なんだろう。


「そうっしょそうっしょ?あたしってスタイルいいっしょ?」


 そんなことは言ってないけどね。スリーサイズを初手で曝け出すその豪胆さが凄いねって言っただけで、別に僕はスタイル良いねなんて言ってない。

 ただ、実際スタイルは良い。スラっとした足に均整の取れた胸や尻。引き締まったウェストはまるで芸術作品かと思うくらいには素晴らしい。


 別に特別デカすぎるという訳ではないのだが、上品な大きさとバランスが備わっている。


 総評すれば綺麗という評価に落ち着くだろう。


「しぐれっちはまあ……うん。ドンマイ!」

「余計なお世話じゃ」


 というかね、僕は男だ。

 ウェストじゃなくてチェストだし、胸なんてあったらまずいんだよ。もしあったとしたらそれは筋肉になるし、服だってパッツパツになるだろう。女性の胸のように柔らかいわけでもないし、面積だって横に広くなるんだから。


「およ?その感じ、時雨っちって気にしてたりする?」


 馬鹿なことを言うな。


「してないよ」

「あれ。マジで気にしてない感じだ」


 意外そうに言うめるちー。

 僕が胸の大きさを気にし始めたらそれはもう大惨事だよ。君たちは知らないかもしれないが、僕は幻の16人目と呼ばれている男子生徒なんだ。


 そのことを知っているのは先生くらいだね。さっきの自己紹介の時も、先生だけは僕のことを複雑な目で見ていた。表情が分かりやすかったとかではなくて、気持ち態度が固かったというか、僕が男だということを知っていると言うことを知っているから、僕から見ると他の人たちの時と比べて僅かばかり態度が違ったのが分かったんだよ。


「あゆむっちも、まあ無くはない……的な?」

「見境ないのか君は」


 今度は星野さんの胸を凝視するめるちー。


「え、えっと……」


 星野さんは恥じらいながら体勢を斜めに傾けた。めるちーからの視線を微妙に避けようとしている意思が感じられる。完全に隠すわけでもなく、ただちょっと体を傾ける。

 別に凝視されることが嫌という訳ではないけど、それはそれとしてなんか恥ずかしいという感情だろうか。確かに裸を見られているわけでもないし、制服越しだから反応に困るのは分かる。


 そんな星野さんの微妙な恥じらい姿に、めるちーは目を輝かせた。


「これは……絶滅危惧種と言えるほどに純粋な乙女だ……!」


 否定はしない。初恋の人に憧れて今でも追いかけているという星野さん以上の乙女なんて早々いないだろうし、この世界の女性たちはいっちゃ悪いが純粋さを失うのが早い。現実を知るともいう。


 高校生ともなれば、まああの自己紹介を見れば分かると思うけど尚更だ。


「そこらへんにしておこう。それより気になったことがあるんだけどさ」

「ん?なになに~?」

「めるちーって玉の輿を狙おうとして僕たちに近づいてきたって言ってたけど、百橋君に直にアプローチかけにいかないの?」


 分かっている。僕だってバカではない。彼にアプローチをかけると言うことがどれだけ難しいかなんてよく分かっている。しかし、そこまで下心があるのなら直接行くくらいの気概があるのではないかと思ったのだ。


 そう思って聞いてみれば、めるちーは信じられないようなものを見るような目でこちらを凝視している。なんか既視感あるな。


「しぐれっちは分かってないね。もしあたしが百橋君に話し掛けに行こうものなら、このクラスで晒し首にされること間違いなしだよ!」

「そ、そんなにか……?」


 僕が驚いて言えば、逆に二人の方が驚いたような表情を浮かべてこちらを見た。

 一瞬の出来事だった。晒し首なんて物騒な単語が聞こえてきたから、素の状態の口調が少し出てしまった。その瞬間に、星野さんとめるちーはバッ!という擬音が聞こえるくらい勢いよく僕の顔を覗き込んだのだ。


「ど、どうしたの……?」


 僕がそう聞けば、二人はとても困惑しているみたいで神妙な面持ちで顔を合わせている。


「い、いやその……」

「しぐれっちから男の子っぽさを感じたんだよね。あたしのセンサーに一瞬ビビッと来たよ~」


 前に、彩夢から女子は少しでも男らしさを見出せれば簡単に惚れるみたいなことを言われた気がするけど、多分これだな。


 ふと、悪戯心が芽生えた。


 確かに僕は周りからの視線が鬱陶しくて女装をした人間だけど、それはそれとして女性にモテたくないわけではない。ちょっとした知的好奇心。出来心。魔が差した。


 ここで、僕がわざと男らしい言動を取ったら二人はどんな反応をするのだろうか。


 そう思ったら、自然と口が開いていた。


「ふーん……。俺みたいなのがタイプだったのか?」


 少し挑発的な笑みを浮かべ、わざとらしく口調も変える。俺なんて一人称、言い慣れていないから少しぎこちなくなってしまったけれど、そもそも前世も今世も男なのだからそこまで忌避感は無かった。


 ちょっとくらいドキッとしてくれたのならイタズラした甲斐もあるかもねなんて思いながら、でもやっぱりこんなあからさまな態度は恥ずかしいと思う。まるで乙女ゲームに出てくるような攻略対象みたいな言動を取ってしまって、黒歴史入り確定かもしれないなんて後悔する。


 僕は恥ずかしくなって、その場しのぎの笑みを浮かべながら頬を掻いた。


 いやはや、慣れないことはするものじゃないね。


「なんちゃって。慣れないことはするものじゃないね。流石に僕も恥ずかしかったよ……」


 言い訳をしながら二人を見る。めるちーには何やってんの~なんて茶化されるだろうか。星野さんはどんな顔をしているのだろうか。何も反応されなかったらそれはそれで心に来るな。


 なんて考えながら二人の顔を見る。


 時が止まった。


 形容するならそれが一番しっくりくる。それくらい二人の表情は全く動かなくなっていた。

 反応が無いのが一番心にクるんですけど……。え、僕ってそんなに男としての魅力がなかった?なんかそれはそれでちょっと傷ついちゃうんだけど?


「ふ、二人とも……?大丈夫……?おーい?」


 言いながら、僕は二人の目の前で手を振って意識を確認する。

 そうすれば、しばらくして二人の目に光が灯った。どうやら戻ってこれたようだ。


 と思った瞬間に、ボッという効果音と共に二人の顔が一瞬で赤くなる。


「し、しぐれっち……」

「や、矢吹さん……」

「ど、どうしたの二人とも……」


 顔をリンゴのように真っ赤にしてわなわなと震える二人は、僕を指さして同時に言う。


「「当分の間、それは禁止!!」」


 最早怒っているのかと見間違えるほどに勢いよくそう宣言された。

 なんと言うことだろうか。僕の本来の性別を真正面から否定されてしまった。


「えっと。そんなに変だった?」

「変だったじゃないよしぐれっち。しぐれっちは見た目が男の子なのか女の子なのか若干分かりづらいんだから、そんなしぐれっちが男の子のふりなんてしたら破壊力が高すぎる!」


 ふりっていうか、男なんだけどね。


 だが、どうやら満足してもらえたようだった。その事実に僕はひとまず満足。あと、あんまり積極的にやるべきではないと言うことも学んだ。


 あの星野さんが固まると言うことは、やっぱりかなり威力が高いのだろう。


 それはそれとして、男としての自尊心が滅茶苦茶に満たされた瞬間だった。

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