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10話 流石父君含蓄が違う

「ただいまー」

「あ、お兄おかえり。あ、いや今はお姉か」

「どっちでもいいわ」

「……オネエ?」

「やかましい」


 入学初日は諸連絡くらいで、授業という授業もなく半日足らずに帰ってきた。放課後にクラスメイトと親交を深めるみたいなことをする人もいるのだろうけど、あいにく僕はそこまでアグレッシブな性格ではない。


 初対面の人と一緒にファミレスとか、普通に緊張して何を話したらいいのか分からなくなる。


 星野さんにも遊びに行かないか誘われたけど、断った。悪いことをしたなと反省してるけど、距離の詰め方が分からないから。女子怖い。


「彩夢は先に帰って来てたんだ」

「もち。高校より中学の方が家との距離が近いし」


 妹である彩夢は僕とは二歳差で、今年度から中学二年生となる。新たな門出にソワソワとした気持ちを抱えているのは僕と同じだけど、彩夢は後輩ができることを楽しみにしているようだった。


「お兄は高校どうだった?」

「いいとこだったよ。友達もできたし」


 僕がそう言うと、彩夢はまるで電流でも走ったかのような真剣な表情を浮かべた。彩夢に電流走る。


「にゅ、入学初日から友達……?」


 わなわなと震えながら信じられない物を見るような目で僕を見てくる。


「……お兄って、もしかして陽キャ?」

「陰キャ」


 人に何を言わせているのだろうかこの妹は。


「お父さーん!お兄に友達ができたってー!」

「なんだってー!!」


 二階からドタバタと音を立てながら慌てて階段を下りてくる父さん。その慌てようは0歳の時から自我を持っていた僕をして初めて見るようなものだった。


 アルマゲドンでも起きたんか。


 慌てていたけれど、身体能力がそこまで優れているわけではない父さんはちょっと足を綻ばせそうになっていた。そんな所を彩夢にフォローされつつも、なんか本当に今まで見たこともないような狼狽えように、僕と彩夢はかなり困惑の眼差しを父さんに向けていたと思う。


 そんな父さんは僕を見ると一瞬呆気にとられたような顔をした。多分、この姿(女装)に慣れていないんだろう。一瞬の空白があったが、それでも僕の肩をがっちりと掴んだ。


「友達っていうのは男の子!?女の子!?」

「……お、女の子だけど」

「「…………ッ!!?」」


 僕がそう言えば、父さんと彩夢は同時に目を見開いた。


 こう見ると、親子なんだなって思うよ。反応の仕方が全く同じだもん。

 あと、僕に女の子の友達ができたからってそんなに驚くのはやめようね。流石の僕も癪に障るよ。


「いいか、時雨。決して、決して!隙を見せてはいけないよ。女の子っていうのは猛獣なんだ。少しでも男だとバレたり、手を出す隙を見せればすぐにその魔の手に襲われるからね……!」


 …………。


 流石だよ父さん。大学時代に我が母君に食われてそのまま結婚したという経歴を持つ貴方が言うと説得力が段違いだ。


 でも父さん。僕、そんなシチュエーションも結構アリかなって思ってるんだよね……!


 女性側から熱烈なアプローチ。男ではなく女がリードして、時には肉食獣に捕食される草食動物になる。これもまた一興。というか、この世界だとそれが一般的なんだけど。


「聞いているのかい?警告しておくからね、隙を見せたらダメだって」


 まあ、先人の言葉は素直に聞いておこう。今後何があるか分からないし、男というのはか弱い生き物なんだ。少なくともこっちの常識ではね。


「……お、お兄の初の友達が……女の子……!?」


 父さんの魂からの警告を聞いた後は、次は彩夢が衝撃に打ち震えていた。両手を口に当てて信じられない物を見るような目(二度目)でこちらを凝視している。


「いや、そりゃ女の子でしょ。こんな格好で男の子と友達になる方が難しいと思うよ……?」


 僕自身は男子と話すこと自体は苦ではない。なんなら、精神的なハードルでは女子生徒と接するよりも難易度が低いだろう。しかし、この姿だと周りから完全に女子だと思われているため、軽率に男子に近づこうものなら恋敵として認識される。


 あのクラスでも百橋君を中心に、まるで力場でも発生しているのかと錯覚するほどの空間の歪みが観測されたけど、一定距離内に女子がその歪みに入ろうとすると、どこからともなく無数の無言の圧力が掛けられるのだ。


 あれを見た時は思わず感心してしまったよね。これが普段女子が見ている世界なのかと。男子であった時の僕では感じることができなかった世界。


 これが今まで僕が話し掛けられなかった原因かと思ったけれど、やっぱり同性に話しかけられてこなかった原因ではないので余計に不思議さが増すんだよ。


 まあ、こんな話はどうでもよくて。


「失礼じゃない?僕に友達ができるのがそんなに不思議か?」

「うん」


 素直か。


「だってお兄、今まで友達らしい友達ができた経験ないじゃん」

「ぐふっ……!」

「それに、なんかお兄って近寄りがたいっていうか他の男の子とはどこか違う雰囲気なんだよね」

「……というと?」


 なんとなく原因は察することができるが、それでも一応聞いておこう。大体分かっているけど。


「うーん……。普通の男の子をマグロのお寿司だとするなら、お兄はカリフォルニアロールくらい違う」

「どういうことだってばよ……」


 それは最早別物なのでは……?


 誕生した国が違うし。まあ、そう言う意味でなら強ち間違ってないのかもしれない。だって、僕のこの価値観はそもそも作られた世界が違うから。


「それが女装をすることによってサーモンくらいには緩和されたのかもね」

「それって男に近づいてない……?」

「いや?」

「そう?ならいいや」


 彩夢の独特な例え話が全く頭に入ってこない僕と父さんが同時に宇宙を感じながらも、僕は考えることを放棄した。分からない物は分からないままにしておくことも時には必要なんだ。


「でもお兄に女の子の友達ができるなんてな~。妹ながら感慨深い所があるね」


 僕に友達ができたことを誰よりも驚いていた彩夢だったが、最終的にはなんだか納得してくれたみたいだ。

 そんな彩夢の言葉に父さんも同意しているのか顔を縦に振っている。


「もし、お兄が男だってバレたら大変だろうから隠すのは頑張りなよ?」

「ああ、多分それは大丈夫。僕が友達になった……星野さんって言うんだけど、彼女には初恋の人が居るみたいなんだ」

「初恋の人……?」

「うん。だから、僕が男だって分かっても、僕のことは見向きもしないと思うよ?」

「ふーん……」


 星野さんは初恋の人が居るからという理由で百橋君すらも歯牙にもかけないような人だ。だから、例え僕が男だってバレるようなことがあったとしても、僕の方へと矢印が向くことは無いだろう。


 そう言う意味でも安心して接することができる人といえる。


「そうなんだ。じゃあさ、お兄とりあえず着替えてきたら?」

「え?……うん。そうさせてもらおうかな」


 確かに、いつまでも制服姿のままという訳にもいかないか。未だ慣れない格好だし、家の中くらいはリラックスできる格好をするべきかもね。


 そうして、僕は自室に戻って部屋着へと着替えるのだった。





「女子制服を着ながら男の子らしい振る舞いをするお兄の姿は、なんか妹として良くない何かを刺激されるような感じがしたよ……」

「ギャップってやつかもしれないね。彩夢、一応聞いておくけどそういうことを言ってるわけじゃないんだよね?」

「そういうことを言っているわけじゃないです」

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