復旧
魔王城の中庭で暴れていた狂乱竜クレージードラゴ―ンは、ドッグフードを茶碗に一杯やるだけで嘘みたいに大人しくなった。まるで躾の悪いアホ犬のようだ。飼い主に似るとは言わない。言えない。
「しかし、魔王城の壁は派手に崩れました」
内庭側の壁があちこち剥がれたり崩れたりしている。餌ぐらい誰かが面倒くさがらずにやってくれればいいのに。
「うむ。ここまで暴れるとは思わなかった。誤算ぞよ」
また、仕事が増えてしまいましたとは……今は言わないでおこう。
「くだらない禁呪文でなく、魔王城を直すような禁呪文はないのですか」
「ない」
即答しよった。無限の魔力をお持ちなのなら、その気になれば何でも出来る気がするのだが。
「禁呪文も考え出したら面倒くさいぞよ」
「ガックリします。壁を修理する方がよっぽど面倒くさいですよ」
足場を組んだり修理業者に発注したり。
「魔王軍が協力し合って復旧するから意味があるぞよ」
協力し合うことで魔王軍の団結力がより一層強化されるってことか……。
「コンクリートをモリモリ積んで修復するぞよ」
「おやめください」
久しぶりに魔王城に戻ってくると洗濯物が籠から零れるほど溜まっていた。想像通りといえば想像通りなのだが……。
「デュラハンのためにちゃんと洗わずに置いておいたわよ。嬉しいでしょ」
ニコニコしながら魔王妃がそういう。
「洗濯物が嬉しい訳ないだろ」
そう答えてもニコニコしている魔王妃。ひょっとして何か勘違いされているのではないだろうか。
洗濯と魔王城の掃除が一通り終わると、また玉座の間でいつものように魔王様の前に跪く。釣れない釣りをしているよりも、こちらの方が性に合っているのかもしれない。
「魔王軍は人間と戦わずしても年々数が減少している。この星の環境の変化に魔族がついていけぬのだ」
「御意」
魔族の数が減少傾向なのは重々承知している。魔族には異次元の少子化対策が必要なのだ。
「一方、人間共は着実にその数を増やしている。魔王軍と違い同じ種族が爆発的に増え続けておる。これは我らにとって脅威なのだ。
――いずれは、人間との戦いがなくとも魔族が滅び人間が世界を征服する時がくるかもしれぬ」
「――!」
これほど圧倒的な力の差があるというのに、いずれ負ける日が来るとおっしゃるのか。魔王様は。
「であれば、今こそ人間共を滅ぼしておかなくてはなりませぬ」
無限の魔力をお持ちの魔王様と我ら四天王がいれば可能でございます。何年掛かるか分かりませんが、必ず成し遂げられましょう。
「人間と魔族、どちらがこの星に最期まで残るのかは、我ら魔族が決めることではない」
「――!」
では、誰が決めるとおっしゃりたいのですか。
「んー。星とか?」
とか? ってなんだ。
「……それって、自然の摂理的な……」
「うん」
聞こえはいいのだが。
「ひょっとして、丸投げでございましょうか」
「うん」
ガクッとなるぞ。せっかく白金の剣を握り戦う姿をお披露目できると思ったのに――!
「卿は、戦いに飢えておるのお。そのような浅はかな考えではいつまでも魔王にはなれぬぞよ」
それは分かっているのだが……。
「私は騎士なのです。剣を持ち戦うために生まれてきたのです」
だから生まれて来た時から剣が腰にぶら下がっているのです。
考えてみると、ちょっとグロイ。母は難産だったのかもしれません。鞘が引っ掛かったりしそうで……。
――はっ! だから、デュラハン族は滅びそうなのか――!
たとえ人間共を滅ぼしたとしても、難産が多いから自分達も滅びてしまう定めなのか――! シクシク。
「嫁探しの旅に出たい気持ちはよく分かる。だが、歩いて探し回るのは無理ぞよ。この世界は卿が思っている以上に広いのだ」
「――!」
バレてた! 四天王を辞めたい真の理由が魔王様にはゴッソリバレていた――! 仕事を辞めて婚活したいのがバレちゃった――!
「予は全知全能ぞよ。よって魔王ぞよ」
「御意」
魔王様には敵わない。足元にも及ばない。色々な面で。
「……さすが魔王様でございます」
「うむ」
……じゃあ、手伝ってよ。とは言わない。
たぶん魔王様は分かっていらっしゃるのだ。自称全知全能だから……。
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