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帰省


「ただいま帰りました」


 懐かしい木でできた小さなログハウスの扉を開けた。

「あ、あら、デュラハンじゃない!」

「うお、どうしたんだ突然帰って来たりなんかして」

 久しぶりに実家へと帰ったのに、両親にドン引きされた。それもそうだろう、なにも連絡せずに突然帰ってきたのだから。


 父も母も全然変わってなさそうで安心した。しばらく見ない間に……二人共全身鎧が一回り大きくなっている気がする。横に。

 当然だが私と同じで顔が無く、全身金属製鎧だ。よって、顔のしわが増えたとか白髪が増えたとか、そういった変化に乏しい。見た目以上に若く見える。

「じつは……」


「なに! 魔王城を抜け出して帰って来ただと!」

「一生、魔王様にお仕えすると言って出て行ったくせに」

「そうでしたっけ」

 もう、過去のことだったからよく覚えていない。何百年も前の話だ。


 両親に怒られるのは……覚悟していたことだ。


「じゃあ、これから仕送りが届かないじゃないの」

「え」

 仕送りなどした覚えがない。それほど親孝行者ではない。というよりむしろ、月給二万円では仕送りなどできるはずもない……。やろうと思えばできたのかもしれないが、実家は田舎なので電子マネーなど使えない。

 現金書留は……お金が掛かる。冷や汗が出る。手に汗握る。

 いや、まてよ。

「ひょっとして、魔王様からお金を受け取っていたのですか」

 私の知らないところで。

「え、いや、ゴッホ、ゴホホン」

 ゴホホンって咳、普通は出るか? 流行り病でなければよいのだが。顔が無いのに咳って違和感があるぞ。目が泳いでいるぞ。三人供首から上は無いのだが。

「そんな訳ないだろ。大人の事情に子供が口を突っ込むな」

 何年経っても子供扱いか。私は立派に成長したというのに。

「そ、そうよ。それよりも、久しぶりに帰ってきたのだから、近くの川で釣りでもしてきたら」

「……釣り?」


 久しぶりに帰ってきたのに……なんか、邪魔者感。


 釣竿を渡された。まさか……魔王様ではなく逆に私が釣りをする日が来るとは……。

「ちょっと疲れたのでしょ。気分転換しておいで」

「いや、まだ帰って五分……」

 もう少しゆっくりしたいぞ。数日もの間、長い山道を歩き続けてようやく実家に帰ってきたのだぞ。懐かしい話で盛り上がるとかって、ないわけ?

 お茶とか水とか水分補給は、ないわけ?

「連絡もせずに突然帰って来るから、……キャラ設定が間に合わないのよ」

「おやめください」

 キャラ設定ってなんの話ですか。冷や汗が出る。


 昔はあんなに居心地のよかった実家が……他人行儀で居心地が悪い。二階にあった自分の部屋は物置化されていて、恐らくは片付けられない。物量的に。

 ここは帰るべきところではなくなってしまったのか。いや、そんな筈はない。何日か経てばそんな不安も消え去るだろう。


 仕方なく釣竿を持ち、実家近くの川へと向かうと……知らないうちに大きなダムが建設されていて、川はダム湖に姿を変えていた。

 水の色は綺麗といえば綺麗なのだが……過疎化した家がダム湖の底の方に見えるのが切ない。砂防ダムとは規模が違う。魚も見当たらない。どこかに隠れているのだろう。


 竿を振ると……一投目で糸がグチャグチャに絡まってしまい、それを解くのに恐ろしいくらい時間が掛かった。両手がガントレットだから、絡んだ糸を解くのが難しい。

「グヌヌヌヌヌ」

 RPGとか剣と魔法の世界で絡んだ糸を解くようなシーンはあってはならない。「イ~!」となる。ガントレットで細い糸はうまく掴めないのだ。裁縫とかも苦手なのだ。ガントレットで針の穴に糸を通すのは金属製の手袋をして針の穴に糸を通すような作業なのだ。「イイ~!」となるのだが、通った時の達成感は半端ないのだ。


 何も釣れないまま数時間が経過した。お腹もペコペコだ。

 ああー、人魚でも釣れないかなあ。全身鎧を着た人魚。人魚だから半身鎧でもいいなあ。

 全身鎧を着た人魚がいても……重くて泳げないのだろうなあ。そもそも、全身金属製鎧を着て水泳するのは無理だろうなあ。


 辺りはすっかり暗くなった。途中、何度か寝たふりなどもしてみたが、竿は一度もピクリとも動かなかった。

 何も釣れないまま帰ることにした。両親も釣果に期待などしていないだろう。


 ダム湖の周辺には家が一つない。うちの実家はポツンと一軒家なのだ。寂れた田舎になぜこんな大きなダムが必要なのだろうか。



 夕食は……ワタミの宅配弁当だった。

「いや、母さん。画的に手料理出そうよ」

 久しぶりに帰ってきたのだから。っていうか、冷や汗が出る。ワタミのお弁当って……どこから届くのか。

「急だからご馳走作ろうと思ったけれど材料がないのよ。魚も釣れなかったみたいだし」

「……」

 本気で晩御飯を調達させようとしていたのか。さすが母さん。ごめんな。

「さあさあ、冷めないうちに食べよう」

「いただきます」

 お弁当は……決して温かくはなかったが、久しぶりに再会した家族は……とても温かかった。たぶん。


 次の日も朝から川へ釣りに出掛けた。

 なぜだろう、ぜんぜん消え去らないぞ……アウエー感。つまり、敵地。実家なのに寝るスペースはテーブルの下だったし、朝ごはんは自給自足みたいだし、魔コンビニも近くにないし。


 これだったら人間界の城下町にある宿屋の方が、よっぽど居心地よかったぞ。


 水辺に座り釣れない釣りを始めた。

 しかし妙だな。魚はともかく、他のモンスターにも全く出会わない。ひょっとして、村全体で私をドッキリに陥れようとしているのかと疑ってしまう。どこかに大きな落とし穴でも掘ってあるのかもしれないと疑ってしまう。村の過疎化が進み静か過ぎるのだ。魔王城周辺はいつも賑やかだった。これは、ホームシックではないと自分に言い聞かせる。


 どうせ魚が釣れないのなら、このダム湖にバスでも放流し、釣り人を集めることができれば少しは過疎化も食い止められるのではなかろうか。

 しかし、バスって……いいのだろうか。外来種を放つことで昔から川にいる魚達が全部食べられてしまう。

 しかし、このまま過疎化が進めば、見向きもされない無駄ダム村に成り下がってしまうのは明白。無駄ダム無駄ダム無駄ダム……だ。


 今日も何も釣れないまま一日が過ぎた……。魔王城は今頃どうなっているのだろうか。私がいなくても大浴場お湯は透明度を保てているのだろうか……。


 夕食は今日も宅配弁当だった。魚が釣れないとご馳走はお預けのようだ。

「デュラハンも早くいい相手を見つけて結婚したら」

 唐突に母に聞かれ箸が止まった。

「そんな相手、いないよ」

 いい相手がいないとかモテないとか、そういう問題ではないのだ。


 全身金属製鎧の種族は、私で最後の一人なのだ。つまり、

 ――絶滅危惧種Ⅰ類どころか、野生絶滅種なのだ――。


「じゃあ、もう一人、頑張るか」

「いやだわ、あなた。子供の前よ」

「……」


 色々問題ありそうな発言をしないでください。子供の前で。

読んでいただきありがとうございます!


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