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魔法が使えない魔王


「デュラハンよ、たかが瞬間移動ができなくても魔王になれるぞよ。たぶん」

「でしたら語尾に『たぶん』っていらないでしょう」

 魔法が使えないのは魔王にとって致命的なのです。魔王軍を統一することなど不可能だ。戦況の把握もできないし伝令も出せない。それこそ伝書鳩を使わなくてはならない。ポロッポーってやつだ。

 耳で聞く情報と口から発する言葉で全軍を率いるのは到底不可能で出来る訳がない。特にこの、目まぐるしく戦況が激変する剣と魔法の世界においては――。

「どっちもないやん。口と耳!」

「御突っ込み有難う御座います」

 私は首から上が無い全身金属製鎧のモンスターなのだ。耳も口もない。よくよく考えると、どこで喋っているのかすら分からない。

 そんなモンスターが魔王になれるはずがない。皆が認めてくれる筈がない! とくに読者には。とは口が裂けても言えない――! 顔が無いから裂ける口もない。


 アニメ化される筈もない――! アニメ化されれば、「デュラハンの食事シーンとか、いったいどうするんスか~」と頭を抱えるに違いない――!


「予はずっと魔王なのだぞよ。卿は、ずっと四天王のままでよいではないか」

「……」

 ずっと四天王のままで魔王様になれなくても、よいといえばよい。それを胸にここ数年……いや、数百年我慢し続けてきた。

 ……我慢。

 我慢し続けてきたという感情はなぜ沸き起こるのだろう。それはすなわち出世欲からくるもの。

「出世欲のないサラリーマンと同じってことですよ」

 ずっと平社員のままがいい。役職にも管理職にもなるつもりはない。残業も休出も呼び出しも嫌だが給料はたくさん欲しい。最近の流行りですよ。

「うん」

「そんな会社、倒産してしまいますよ」

 頑張ろうとしないのだから。魔王軍も全員がそうなったらお仕舞ですよ。

「いや、出世したくなくても今与えられた仕事を生き生きとやりがいを持って続ける社畜がたくさんいれば倒産しないぞよ」

 さらりと社畜とおっしゃらないでください。せめて……魔畜とか? 嫌な響きだ。悪者っぽいぞ、魔畜って。

「冷や汗が出ます。絵に描いた餅のようなお話です」

 そんな社畜ならたくさん欲しいぞ。むしろ社畜というのは会社の財産だぞ。

「会社勤務のサラリーマンは、社長を目指して働き続けるのが自然の摂理です。それと同じように、魔王軍も一つでも上のポジションを狙って頑張らなくてはならない筈なのです」

 だから命懸けで戦えるのです。二十四時間戦えるのです。

「ふっる」

 いやいやいや、呆れ顔しないでよ。

「古くはありません」

 残業したり休日出勤したり他の者よりも苦労を重ね、一つでも上のポジションを目指すのが筋なのです。


「だが、卿が魔王の座を諦めると言うのなら、次の魔王に誰がなるというのだ」

 ……。私以外の魔王候補ですと。

「ええっと……四天王のソーサラモナーとか……サッキュバスとか? 魔王妃が勤めるのもありでしょう。魔王様より魔王妃様の方がPVも増えるかもしれませんよ。ふんっ」

 魔王妃は性格も悪いからむしろ魔王様より魔王っぽいかもしれない。

「自分で言っておいて、不安にならない」

「なります」

 なりますとも。そういえば、サイクロプトロールも四天王だったはずだ。出番が少ないから名前すら忘れかけていた。


 それ以外の候補については……あえて言わない。


「あら、次の魔王は私達のこれから生まれてくる子供でいいじゃありませんか」

「……」

 いたのか、魔王妃。ここまでセリフが一言も無かったからいないと思ったぞ。

 いつもと同じように玉座の隣にパイプ椅子を置いて座っている。最初から。今日はジャージ姿ではなくドレスを着ている。いつもの若草色のドレスだ。


「子供って……」

 もう出来たのか。いや、ご懐妊されたのか。

「「絶賛、活動中よ!」」

 そういって二人揃って親指を立ててグーするな!

「あら、中指を立てましょうか」

「おやめください」

 腹立つでございます。

「一日二回、三日で三回ぞよ」

「おやめください」

 数が合わないでしょうが! そもそも、なんの話ですか。誤解を招くでしょうが! 頭が痛いぞ、首から上は無いのだが。

「さらには魔王様、大変申し上げにくいのではございますが……。夜な夜な声が大き過ぎます」

 ずっと言わないでおこうと思っていましたが、今日こそは言わせて頂きます。R18に引っ掛からないようオブラートに包んで……。

「魔王様の部屋も魔王妃の部屋もしょせん壁の厚さは同じなのでございます」

 魔王城居住区の壁はほぼほぼべニヤ板なのです。厚さ四ミリのベニヤ板です。つまり、大声出したら筒抜けなのです。

 ギシギシガタガタ意味不明な音が筒抜けでございます。

「あ、やらしー。デュラハンったら変態ね」

「――変態ではない! 私は紳士なのだ」

 紳士として正しい忠告をしているのだ。つまり、静かにしてください。

「それよか、少しは恥ずかしがってください」

 顔を隠すとか赤くなるとか。

 忠告しているこっちが恥ずかしぞ。耳まで赤くなるぞ。首から上は無いのだが。

「私はともかく、居住区にはレベル1のスライムや他のモンスターも大勢いるのです」

 四天王もいるのですよ。ソーサラモナーやサッキュバスや……ええっと? あ、サイクロプトロールもいるのですよ。

「教育上よくありません」

 レベル1のスライム達は、まだ魔小学校で魔保健体育の授業も受けていないのです。

「案ずるな、誰にも予達の声は聞こえてはおらぬ」

「と、申しますと」

 筒抜けとご忠告させて頂いたのですが。ほぼ毎晩ガタガタと物音が聞こえてくるのですが。

「二人の営みの間、世の中すべての者は止まっているのだ」

「――!」


 ひょっとして、禁呪文の時間停止――!


「名付けて、禁呪文、『ザワールド』時よ止まれ」

「おやめください!」

 どこかでガッツリ聞いたことのあるネーミングだぞ――。いずれは一分、十分、一時間と時を止められるようになってやる。だぞ――!

「では、禁呪文、『なるほど☆ザワールド』」

「『なるほど☆』付けちゃダメー! 意味が変わってしまうからー!」

 冷や汗が出る、古過ぎて。どっちも駄目だ。

「魔王様は早いけど、一分はもつわよ」

「……」

 魔王妃よ、……ちょっと何を言っているのかよく分からないぞ。一分って……。

「いずれは一分、十分、一時間と……」

「おやめください。シャーラーップ!」

 なんの話をしているのですか――。それ本当に時間停止の話ですか――。

「デュラハンだけ魔法が効かないから時間停止していないのね、チッ」

「面倒くさい体質ぞよ」

 ……。

「申し訳ございません」

 すべての魔法が効かないことが魔王様にとって面倒くさい原因になっていたとは……。唯一の長所だと確信していたのに。シクシク。

「たまに時間を進めるのを忘れてそのまま寝てしまったこともあったぞよ」

「魔王様ったら、おっちょこちょいね」

 普段のように玉座の間でイチャイチャトークを始めるお二人なのだが……。

「……ちょっと待て。いま、なんとおっしゃいました」

 聞き捨てならないことをサラリとおっしゃったような……。

「たまに時間を進めるのを忘れてそのまま寝てしまったこともあったぞよ」

「魔王様ったら、おっちょこちょいね」

「いや、コピペはおやめください」

 時間を進めるのを忘れたとおっしゃるが、それってひょっとして、とんでもないあいだ時間が止まっていたのではないのか。

「グヌヌヌヌヌ」

 道理で最近、真夜中に時計を見たら針が止まっていたり、夜が異様に長く感じたりした訳か……。

 夢を見ているにしては長いなーとか、寝ても寝ても朝が訪れず、不安にもなったぞ――。時計の電池を何度も交換したんだぞ――単三を二本! 計八本! さらには、電池交換しても動かないから、何度か時計も交換したんだぞ――! 六回ほど!


 魔王様が原因だったなんて――。さらには、私が一人悩み苦しんでいるときにイチャイチャラブラブチュッチュしていたなんて~――。

 一度大きく深呼吸して怒りと嘆きをハア~と身体の奥底から追い出す。ため息ともいう。


「時間停止する禁呪文を使うのなら、せめて私には一声掛けてください」

「あ、デュラハンったらいやらしい」

 ニヤニヤしながら言う魔王妃に羞恥心って、ないのか。

「いやらしくない!」

 それはこっちのセリフです。

「デュラハンが耳栓を付ければいいだけぞよ」

「プププ」

「……」


 ――その手があったか――!


読んでいただきありがとうございます!


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