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折れた筆を、もう一度…  作者: 無天童子
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殺人事件を起こした、元有名小説家の贖罪 ~第一章~

第一章


 前述の事件から10年後。


 刑期を終え、出所した藤田貫平は、山奥にある静かな宿屋で暮らしていた。ここには、彼の過去を知る者は一人もいない。


 

 彼が起こした殺人事件は、人気絶頂の小説家が起こした事件ということで、かなり注目された。彼の生家にも大勢の記者が詰め掛け、連日、事件に関する質問を浴びせた。


 彼の成功を妬むものは、ここぞとばかりに彼を非難し、罵倒した。


「犯罪者の書いた小説など何の価値もない!」


 そう言われて、道端で殴り飛ばされたこともあった。


 新聞や雑誌などに彼に関する記事が、写真と共によく掲載されていたため、彼の顔はよく知られていた。その結果、彼が住んでいた町では、事件後は誰一人として彼に近寄ろうとするものはいなくなった。

(上記の乱暴者の(たぐい)は除く)


 皮肉なことに、彼が名作を数多く生み出していたおかげで10年経っても、事件は風化していなかった。それだけ彼の事件が世間に与えた衝撃は大きかったのである。


 彼にとって幸いだったのは、この時代にはテレビなどはなく、都市部以外では彼の顔がそこまで知られていなかったことか。


 そういうわけで、彼は元いた自分の家には住んでいられなくなり、この山奥の静かな宿屋にやってきたのである。



 藤田は出所後に一切、小説を書いていない。彼は、自分の作家としての人生は終わったものだと考えていた。それに、もし作家を続けたとしても、今の彼には以前のような人々をあっと驚かせる小説は書けないであろう。



 彼はこの静かな宿に来てからというもの、特に何もすることはなく、

 1日中ぼんやりと外を眺めて過ごしていた。


 今日も朝早くに目が覚めて、例のごとく部屋から見える山々をぼんやりと眺めていた。


 そうして朝の7時を回った頃、彼の部屋の雪見障子が静かに開いた。


「朝食が出来ましたよ」


 藤田に柔らかな声で、落ち着いた雰囲気の女将が話しかける。


「はい」


 彼は(おもむろ)に体を起こして、女将に返事をすると、階下の大部屋へ向かうのであった。




<次回に続く>






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