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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第七章 竜の愛し子と魔法使い
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10.イフーの帰還




「申し訳ありません。お止めしたのですが、全く聞いてくださらなく」


「闇の精霊のところに向かうって言ったって、竜族の者達では精霊達を可視できないでしょう?」



「はっ、そう申し上げたのですが、探知器があるから大丈夫とおっしゃられて」


「探知器は万能ではないのに。それに壊されてしまったらどうしようもないわ」


「もやよ、仕方あるまい。血気盛んな竜族だ。可能性があるなら頭で考えるより体が動いてしまうだろう。だが彼らは転移魔法陣を持たない。ミミルファまでの間なら転移魔法陣で簡単に先回り出来るだろう。それまでに対策を練るよりほかあるまい。イフー、勤めご苦労。出動までしばらく休みを取っていいぞ」


「はっ、ありがとうございます。ではっ」



 イフーは先ほどまでの疲れ切った表情から一変、瞳を輝かせあっという間に部屋を出ていった。足取りは急激に軽い。竜王たちが帰国した後も竜族の国に残っていたのだ、一刻も早く番に会いたい気持ちは理解出来る。出来る事なら任から外してやりたかったが、竜族の王族に臆することなく話すことが出来る胆力を持ったものはそうそういないし、その中でも見た目も迫力があり思慮深く豪胆となると竜の国であってもなかなかいない。竜の国では細く引き締まったものが多く、竜族の国では大きな体が好まれる。容姿も中身もイフーが適任者であることは間違いないのだ。

イフーもそれがわかるから任を引き受けてくれたのだが、番に会いたい思いと衝動は竜王もよくわかる。だから「番を同伴してもよい」と許可したにもかかわらず、イフーは番を外に出すのを断った。

急いで帰ったイフーが次に登城するのはいつになるだろうかと騎士団たちの中で賭け事の対象にされているようだが、番を持つ者はみな他人事ではないので暗黙の了解として互いに理解し楽しんでいる。






「さて、どうしたものかな」


「ええ、でもなんだか魔道具を貸したことの責任を感じてしまいますわ。それにしても闇の精霊たちの意図がわからないのですもの。対処しようがないですわね」


「この国には闇の精霊達はあまりいないのか?」


「全くいないわけではありません。光あるところに影が生まれますでしょう。ですのでソーイの傍には闇の精霊達もときおり見かけます。光に照らされると濃い影を生むので引き寄せられるのでしょうけれど、強すぎる光は下級精霊達をかき消してしまうので、容易に近づくことは無理でしょうね」


「そうなのか」


「ええ。消滅を恐れ下級精霊は寄り付きもしないのが普通です。殆どの精霊がすでにある闇の中に消えないように寄り添い合っています。ただ……」


「ただ?」


「負の感情が闇に惹かれてしまうようで、そうすると力の弱い精霊達が一緒に飲み込まれて、それこそ瘴気となって光に向かって襲い掛かってくるようです。でもこれらは推測でしかなくて。そもそもミミルファでは人が精霊の理をとくことは恐れ多いのです」


「ミミルファの理だな。話を聞くほどになぜ闇の精霊が竜族の姫を攫ったのかわからないな」


「はい。竜族の理とは全く違うものでしょうに」



 二人は黙りこみ思案したが、竜族の今後の動向に注意を払うことしかできないのだ。





******





 ソーイ達がミミルファに戻ってから数日がたった。

岩山だらけの竜族の国とは違い、緑に囲まれた故郷は心が落ち着き安らぐ場所だった。なのにいま、ソーイは落ち着けないどころか、不安で心がつぶされそうだ。

戻ってから一度もキリの姿を見ていない。私がいない間に霧が消滅してしまったのではないかと心配でたまらない。だけど、キリを探す手立てがわからないのだ。だってキリはいつも勝手に自由気ままに現れた。しかも頻繁に姿を現すから、こちらから呼ぶなんてしたことはなかった。


(こんなに会えないなんて、キリはだいじょうぶかしら)


だけど、幼いソーイにはどうすることもできない。



 竜族の国に行く前にソーイは聞いてみた。



「竜族の国って知ってる?」


「ああ、知ってる。だけどよくは知らない。だって俺はソーイしか必要じゃないから。ソーイがいないと消えちゃうよ。ソーイがいない世界なんて考えられない」


「そっか、そうだね。ふふふ、ごめんね、変なこと聞いて」


「いや、いいんだ。ソーイに嘘はつかない」




 キリはそう言った。そんなキリが私がいないと消えちゃうかもっていうんだから、本当に消えちゃったんじゃないかって不安になる。どうしよう。会いたくて、会いたくて堪らないのに呼ぶ術を私は知らない。焦る気持ちと不安に押しつぶされそうになる。


だけど解決策もわからず、成す術もないまま時間だけが過ぎていった。







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