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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
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09.探索と悪戯っ子




 暖かな南の、精霊と人がともに暮らす国、ミミルファ。

緑も日差しも空の青すら、自国と違っていた。木々の揺らめきも、葉のさざ波のような揺らぎも、頬を優しくくすぐる風も何もかもが新鮮で美しく、そして、精霊の気に溢れていた。

 ここで靄は育ったのだと思うとなんだかとても幸せな気持ちになる。靄の生まれた国。靄が育った場所。この景色を靄は見ていたのかと思うとなんだかくすぐったい気持ちになる。靄は見えないのに強く存在を感じて、心の中がほっこりと暖かくなったような気がした。







 城で出迎えてくれた男は、精霊がユーリを歓迎しているようなことを言ったがこの国でわたしのような者がうろうろするのは難しいだろうと思っていた。精霊は美しく気高い。だから余所者である竜王が自分たちのテリトリーで好き勝手に動き回るのを良しとしないだろうと考えていた。だが、そんな心配は杞憂に終わる。精霊たちは、すんなりとユーリを受け入れた。それどころか焦燥と寂寥さえも大きく温かく包んでくれた気さえした。


 竜の国にも精霊はいる。「いる」程度だ。ミミルファのように共存しているような国は極僅か。殆ど無いと言ってもいいくらいだ。ユーリは精霊の姿を可視できるが、竜の国の民には、見ることができるものはそういないだろう。ミミルファの民は見えるとか見えないとかそういった次元の話ではない。自然の恩恵も、人々の営みも、絡みあうように互いに支え敬いあう。まさに精霊と共存しているのだ。







 探索は、あてもなくただ闇雲に見てまわっていた。大空を飛び気になる風景に降り立つ、その繰り返し。だが途中からみかねたのか精霊達が代わる代わる導いてくれた。暗闇に夜光虫が光る洞窟だったり、虹色の魚が跳ねる泉だったり、断崖からの眺望だったり。まわっているうちに精霊達が靄の好きな場所を案内してくれていることがわかった。自国でも靄と探検して遊んだことが思い出される。靄が目を輝かせる場所は、だいたいわかる。十年も一緒に遊んでいたのは伊達じゃない。靄の好きな場所を思い出して、切なくなる。



 もや……、もや………。

 会いたいなぁ、会いたいよ。

 できることなら靄と2人でこの景色を見て回りたかったな。この美しい国を。

 これが靄の愛する国なんだね。




 精霊達が案内してくれるに伴って、村々でのわたしへの接し方も探し始めの頃とは大分異なってきた。

 大空を見たこともない大きな竜が飛び回っていたら、人々が驚くのは当たり前だ。ましてやその竜が人の姿に変化するのは奇異でしかない。だからと始めの頃は人里離れた所に降り立ち、人間の姿に戻ってから村へと向かった。

それでも、かなり怪訝な顔をされた。村中から訝しむような視線を向けられる。それでも、食事をするために村に立ち寄らなければならない。なにせ自慢じゃないが、生まれてこのかた料理なんてものをしたことがないのだ。

野外で眠るのは一向に構わない。戦闘能力は最強ランクの自信がある。平和なミミルファにおいて、竜族を襲うような生物や魔物がいるとは思えないが、仮に襲われてもあっさりさっくり倒せるだけの武力・知力・魔力はあるつもりだ。知力はもやに授けてもらったものでもあるけど。

だけど、自炊力はない。野生の動物を捕らえて丸ごと焼くだけならできそうだが、丸焦げか生焼けだろうなと想像できる。無駄な労力を払うくらいなら村や町で、ささっと食事だけ済ませた方が随分と効率的だ。

しかしわたしの容姿、とくに金色の長い髪の男性はこの国には珍しいようで、じろじろとまとわりつくように見られる。だが、精霊達が案内してくれるうちにわたしがこの国の魔導師を探していることが人々に伝わったようだ。どの村に行っても怪しい目で見られることはなくなった。逆に歓迎され、別れ際には「魔導師さまを見つけてください」とお願いされるまでになった。お陰で、夜は野宿せずに済むようになったし、去る時には、おまけと言って携帯食まで渡される念の入りよう。これも全て、国民に、精霊達に、魔導師が慕われていることの証にほかならないだろう。自分のために靄を探していたつもりが、今ではわたしの肩にはミミルファ国民の思いまでのっかってきている。




 なのに、靄は見つからない。






 *****






 ミミルファに来て一月が過ぎた頃だった。精霊達の様子がいつもと違い揺らいでいるようなおかしいことに気づいた。ざわざわとした気配。慌しい動きに緊張が走る。もやが見つかったのかと思い、心を落ち着かせ精霊達の動向に気を配る。


 どうやら、この国に異質な何かが入り込んだと大騒ぎしているようだ。しばらくすると、精霊達がしきりにわたしを追い立てはじめた。どうやら、わたしをそこへ向かわせたいらしい。世話になっている精霊達の頼みだ。この国にとって、排除すべきものなら対応しなければならないだろう。もやの代わりにはなれないが、力で片付けられるならわたしにとっては容易いことだ。






 確かにこの国で感じられるものではない力を感じる。だけど、この距離ではどういった性質のものかを見極めるには難しい。精霊達に案内されるままに向かう。場所は自然豊かなミミルファの中でもさらに緑濃く鬱蒼と樹々が生い茂る森だ。近くまで行き舞い降りるとさらに意識を集中させ、異質なもの達の気配を探った。


『ふしんしゃはっけーん』


『ふしんしゃほかくー』


『まいご、まいごー』



 精霊達が周りで騒ぎ始めた。





 意識を研ぎ澄ませ気配を探知する。

ぴんっと張り詰めていた空気を緩めユーリは言った。


「……なあ。あいつら、俺の仲間なんだけど」


『しってるー』


『りゅうのくにのひとー』


「知ってるって…。ほんと、悪戯っ子だな」

額に手をあてて、溜息をつく。


『いたずらっこー』


『いたずらっこー』


 きゃっきゃっと飛び回る精霊達に

「いや、褒めてないから!」

 とツッコミを入れながら、気配のするほうへ向かう。

 緑をかき分けて進むと竜の国の騎士、三人の姿があった。ユーリの姿を見つけると三人とも「ユーリ様~」と大の大人が、しかもむさ苦しい竜族の戦士が寄ってきた。話を聞くと、精霊の国に入ってから、道なりに歩いていたはずなのになぜか深い森へと進んで行き、しかもどうやら同じところをぐるぐる回っていたらしい。空を飛行することも考えたそうだが、この国で竜が三体も飛んでいたら大事になりかねないとしてひたすらに歩いていたらしい。


『ほかくーえらーい』


『ゆーり、なかまー』


『ほめてーほめてー』


「ああ、ありがとう。助かったよ。だけど、次からは俺に教えてくれるか俺のところに連れて来てくれると、もっと嬉しいな」


『わかったー』


『ゆーり、よろこぶ、するー』


 その様子を竜の騎士達は驚いた目で見ていた。











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