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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
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07.金色の靄




 柔らかくて暖かい、とても居心地がよくって、安心感に包まれている。ふわふで、もふもふ?な感覚。このままずっとまどろんでいたいな。あ~、何この充足感。幸せだなぁ。




 って、一体ここはどこ?




 うっすらと目を開けるとそこは、

もふもふ、ふわふわ?ふわもふ?柔らかくて暖かい金色の空気のようなものに包まれていた。包まれているっていうか、辺り一面きんいろ~~~~!!!!!!



 ?????

わたくし、空気にでもなっちゃったのかしら。



 えーっと、どうしてこうなっちゃったんだっけ。確か、名前を教えてもらって、わたくしも名前を教えて…。


 ユーリ……。


 ユーリって言うんだ。んふふふっ。今まで名前、知らなかったな。てか、名前、教えちゃっていいのかしら。しかもわたくしなんかに。だって、わたくしは......。


「ユーリ……」


 そっと呟いてみる。

何とも言えない暖かい幸福感に心も体も満たされていく。て、そもそもわたくしの体はどこかしら。この空間と一体になり浮遊している今の状態。これって自我がある物体なのかしら。でもこうやって思考できると言う事は、わたくしはわたくしであると言う事よね。

とりあえず、なんだか体も重いし、だけど不快ではないから、このまましばらくは身を任せることにしよう。


 そしてわたしは、目を閉じて再び深く眠りについたのだった。





 *****





 わたしは、生まれた時から異質だった。


 この国では新しく生まれた力を持つ者に、魔導師様が名を授ける。生まれたばかりの命に触れ、そのもののもつ素質から真の名前をつけるのが習わしだった。しかし、わたしは名付けてはもらえなかった。つけられないのだ。魔導師より上位の存在であったわたしの本質など、わかるはずもない。そもそも、誰も私の本質に触れられないのだ。

わたしの名は、わたししか知らない。赤ん坊の時から敬われる、この国で最も尊い存在となったわたしの名。呼ぶ人の無いわたしの名前。



 名前はあるのに、

 だれも知らない名前。

 もし知っていたって、誰も呼べない名前。


 生まれた時から大魔法使いとなったわたしは、孤独だった。同じ年頃の友達なんて持てるはずもなく。まわりはいつも、難しい顔をした大人ばかり。まだ小さき子にこの国を統べる方法を問うのだ 。わたしの遊びにかわるものは、国政だった。





 *****





 その日、

 黄金にひかり輝く玉に私は出会った。

 その玉は、澄んだ瞳の幼子のよう。

 好奇心の塊といってもいい。

 きらきらと輝いていた。



 ミミルファ国は、魔法使いの国。精霊が空気のようにいたるところにおり、自然の力がみなぎる生命力溢れる国だ。近隣諸国は、そんなミミルファ国に助けを求めることはあっても、間違っても敵対することはありえない。だから、宙に浮かぶ輝きを放つ玉を見たときはとても驚いた。この国に異質なものが入り込むなんて事は有史以来、初めての出来事だった。



 大人だったら警戒したのだろう。

だけど、統治者とはいえ子どものわたしは、見たことも聞いたこともないそれに興味深々で、初めて見るこんじきのものに心を奪われた。触れようとそっと手を伸ばす。すると、その宝玉からかなしみの感情が伝わってきた。親近感を抱きつつもなんだか居た堪れなくなって両手でそっと包む。


 すると、

わたしは、すいーーーーーっと宝玉の中に吸い込まれてしまった。







 吸い込まれたわたしは、ふわふわと雲のように浮かんでいた。実際、容姿も雲だったのだけれど。目の前には、わたしと同じくらいの年の男の子。きらきら光る金色の髪。透き通るような白い肌。寂しそうな瞳は、わたしを見ると途端に輝いた。が、男の子はその場に倒れこんでしまった。


「ってか、なんでわたしの姿見て、倒れちゃうの~~!!」


 女心は、繊細なのですよ。






 気がつくとわたしは、自室に戻っていた。あろうことか、十日ほどの間、眠りについていたらしい。原因不明の爆睡状態のわたしに、周りはオロオロしていたらしい。いやほんと、迷惑かけちゃったね。反省、反省。


 宝玉はというと。わたしが目を覚ましたばかりの頃は褪せていた輝きが、時間の経過とともにまた美しく光り始めたようだった。その輝きに呼応するようにわたしは魔力を貯めていった。あの世界にもう一度行くために。


 (また、倒れるなんてありえないわ。お互いにね!ほんと失礼しちゃうわよね、女の子見て倒れるなんてさ。それにわたしは、偉大なる大大大大魔法使いなんだから、もう倒れないから!)




 *****





 魔力を十分に自分自身に漲らせ宝玉の世界を再び訪れると、男の子は私のことを待っていてくれたようだった。わたしを見つけて輝く瞳。その時の男の子の笑顔が忘れられない。私と同じ哀しみを痛みを知っているような瞳を持つ少年だった。そう感じたのは光る宝玉と出会ったあの日、私は一つの区切りがついた日だったからかもしれない。



 男の子は強大な魔力を保有しているようだった。故に彼もわたしと同様、孤独だったと思われた。そして実際にそうであったと一緒に過ごしているうちに知ることとなる。同じ年代の知り合いさえいない私は、彼と会うのがとても楽しかった。

 ご両親と会えたと言っては喜ぶ様子が微笑ましかった。わたしも生を受けてすぐに両親と別れ城で生活していた為に彼の気持ちが痛いほどわかったから。彼の境遇に自分を重ねた。



 そうしているうちに彼と話すのがどんどん楽しみになり、待ち遠しく思った。

彼の素朴な疑問は、私の心をくすぐる。


 どうして空はあおいの?

 どうして雲は白いの?

 月が暗闇に輝くのは?

 星は何故瞬くの?



 ミミルファ国での私への相談事は、政の話ばかり。だから自然の摂理について目を輝かせて聞いてくる彼の姿には、本当に癒された。宝玉の中に行く行為が、例え私の魔力を削るものだったとしても。



 蟻の行列の先頭を探して、夜が更けたこともあったな。獣の巣穴を見つけ、出てくるのを待ち伏せしようとして、そのまま二人で昼寝しちゃったことも。城の探検をして、蜘蛛の巣まみれにもなったな。




 ミミルファ国で魔導師として振る舞う私は、宝玉の中の世界に癒しを求めた。彼の笑顔が私の全てだった。彼の望むことなら何でも叶えてあげたいと心の底から思った。











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