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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
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06.精霊の住まう国

 



 精霊大国、ミミルファ。

緑深い山々に澄んだ水が流れ、大気中に精霊たちの祝福が溢れる国。穏やかな時が流れる国に突如、黒い影は舞い降りた。精霊たちはざわめき、空気はビリビリと震えた。自然あふれる国の中でも、ひときわ緑に囲まれた城にそのものは降り立ったのだ。



 精霊たちのただならぬ様子と、感じたことのない大きな気配に城の奥から一人の男が出てきた。男の目の前には美しい翼を広げ、体は艶やかな鱗に覆われている。軽やかに城へと降り立ったその竜は、翼を一度大きく広げその後、音もなく静かに閉じた。そして、その姿も巨大な竜から美しい人間の姿へと転じた。



「突然の来訪、無礼をお許しください。わたしの名は、ユーリ。竜の国より参った」


「竜の国とは。それはまた、なんと遠きところから。して、かのような地に何用か」


 男は、美しい声で聞いた。長身で細身の体型から出たとは思えない強くも艶やかな透き通る声。少し茶味がかった銀色の長い髪が風に揺れる。



「この国の魔導師にお目にかかりたい」


「魔導師に?それは、どういったご用件かな?」


「彼女に会いたい。ただ、それだけだ」


 切羽詰まったような、だけれど真摯な瞳に男は内心首を傾げる。しかし表面上は、平静を装い穏やかに応えた。


「いきなりお越しになられて 、そのようなことを仰せられても」


「では、問う!彼女は無事だろうか。無事ならばそれで良い。……彼女の身を案じているだけなのだ」



 男は、穏やかな表情は一切崩さずにいたが、明らかに動揺したようにユーリには見えた。いや、一瞬の揺らぎをユーリは見逃さなかったというべきか。


「彼女はどこに消えた?」



「どうしてそのことを?」


ユーリからの静かであるものの深海のように重く暗然たる圧に耐えきれなかったのか、男の声に僅かな震えが感じられた。



「では、やはり彼女に、彼女の身に何か起こったのだな。何があったのだ。どうか教えて欲しい。彼女の姿が見えないのだ。かれこれ三カ月ほどになる」


「三カ月……」


 男は思案した。がしかし、逆らうことができるはずもない。会った時から力の差は歴然としているのだから。竜の国から参ったという若者は、見た目こそまだ幼きあどけなさが残るが、流れ出ている力の波が並みのものではない。多分この若者は、竜王に違いない。その美しき金色の長い髪も、揺らめく金の瞳も、透き通る白い肌も、何もかもが普通であらざるのだ。



「そうですね。精霊たちの様子から貴方様は歓迎されているようなのでお話しても構わないでしょうな。……実はわたくしどもも心配しているのです。我が国でも三カ月ほど前から魔導士様のお姿が見えないのです。かろうじて、気配だけは感じるのですが、どこにいらっしゃるのか。私どもの呼びかけにも答えていただけず、途方に暮れておりました。かの方は、この国を統べるお方でございます。現在は私が、一時的に執務を代理させていただいておりますが、いくら精霊に愛されている国とはいえ、このようなことが長く続くと国政に支障をきたします」


「統治者であったか……」


 ユーリは、小さな声で呟いた。

 そして、


「今の言葉に嘘はないようだ。では、彼女のいきそうなところ……。好んで訪れていた場所など知っていたら教えてもらえないだろうか。そちらでも充分探していただろうが、わたしも自分で確認したい。どんな手がかりでも良い。教えて欲しい」


ユーリの切羽詰まった声と様子に男は躊躇いつつも答えた。適当にあしらって済むような相手でもないし、何よりユーリの真剣な眼差しに疚しさの欠片もないことが見て取れたからだ。


「魔導師様のお好きな場所と言われましても。正直よくわからないのです。魔導師様は、転移魔法によってお好きな場所に行くことができます。それは誰からも何の干渉もされないのです。わたしたち低位の者には魔導師様の行いは、理解を超えたものでありますゆえ」


 それを聞いてユーリは、考え込んでしまった。



「……では、しばらくの間、この国に滞在しこの国を回ることを許してほしい。迷惑はかけない」


 そう言って、ユーリは頭を下げた。命令すれば済むことなのにそれをユーリはしない。


「ユーリ様。頭をお上げください。おひとつだけお聞かせください。遠き竜の国のあなた様と、我が国の魔導師様にどんな繋がりが?」



「繋がりか。わたしもよくわからない。だが、ただ、繋がっていたいと、心の底から思っている……。また、新しい手がかりや情報があったら、私に教えて欲しい。頼む」



「……かしこまりました。仰せのままに」



 男からの許可を得るとユーリは、囁くように言葉を紡ぎはじめた。それはひどく悲しい、そして優しい声だった。精霊たちに向けて、この世界を、この国を探しまわることの許しをこうたのだ。



 そして再び飛竜の姿に戻ると、美しい翼を広げ大空へと飛び立っていった。










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