14.外遊
まさかまさかまさかまさか。
ただの可愛い、普通の女性だと思っていたのに。手漕ぎボートを自分で漕ぐ彼女がまさか有名リゾートホテルの娘で。まさか、ミミルファ国の魔導師や、へファイス国の才女といわれる宰相の娘と友人だなんて。
他国を旅したいなんて夢物語を語っていると思っていたら、まさかの外遊。自分の足で、本当に他国に行ってしまうなんて。どんだけ思い込みを裏切られたか。
「ははははっ」思わず声が漏れてしまう。
「すごいよ、イーリヤ。やられた」
王城に戻ると補佐官を呼び付けた。
「至急、魔導師様に連絡をしてくれ。これからすぐに旅立って、ミミルファ国に伺うと。正式な手続きでだ。急げ」
(あー、ユーリ殿にまたからかわれるな。この間、しばらくはもう会わないと言って竜の国を出たばかりなのに。絶対聞きつけて、ミミルファにやってくるに違いない)
旅の支度を整えるとオシアノスは一人、旅立った。
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イーリヤはミミルファ国の王城で、優雅に精霊たちと戯れていた。
卒業後へファイス国のフェンネラの邸でしばらく過ごした後、今度はミミルファ国へとやってきたばかり。イーリヤにとって初めてのミミルファ国だ。
エノシガル国も精霊たちがたくさん住まう国だが、ミミルファ国は桁が違う。イーリヤが魔力を閉じ込めていても、精霊たちはなんとなくわかるのかたくさん周りにやってくる。ここは王城の中庭だからか、余計に多いような気がする。
「エノシガルではミミルファより精霊たちが少ないのでしょうから、魔力の漏れに寄ってくる数も少なく感じるのでしょうね」ともや様はおっしゃっていた。
精霊たちの存在がとても心地よいミミルファ国の城の庭園でお茶をしていると、フェンネラ様が羨ましそうにイーリヤを見つめる。
「魔力を閉じ込めているのに、ミミルファにきたばかりの頃より、寄って来る精霊の数が大分増えたんじゃない?羨ましいわ、イーリヤは。私がミミルファ国に来ても、そんなに寄ってきてくれないもの」
表情を変えずに淡々というフェンネラ様は端から見ればクールに思われるが、話す内容は少し拗ねていて可愛らしい。
「そんなこと言って。フェンネラ様も初めにミミルファ国にいらした時よりは、周りに集まる精霊の数が大分増えましたよ」
「ありがとうございます。それもこれも全て、もや様のお蔭ですわ。ミミルファ国とヘファイス国の共同研究が始まり、お互いに行き来が盛んになったおかげで、我が国にたくさん加護を賜るようになりました」
「それは、へファイス国の努力の賜物ですわね」
「二人はいいなぁ、隣の国で。転移魔方陣も設置してあるから、隣の家に行く感覚で会えるものね。うちの国も、魔法陣設置してくれないかしら。そうしたら私も、お二人にしょっちゅう会えるのに」
「そうね。そのうちつながるかもしれないわよ」
「え!本当?」
「ユーリがエノシガルの王太子様を弟のように可愛がっているの。でも男同士って女性の関係と違うからすぐに繋がるかどうかはわからないわ。男性は友人としょっちゅう会っておしゃべりしたいなんてはあまり思わないものね。特にユーリは」
「お願い!もや様から、それとなーく働きかけて欲しいな。私なんて平民だから、国王様とお話どころかお目にかかることすらあり得ないのだから」
「そうねぇ、仮に転移魔法陣で繋がったとして、国にもたらすメリットは何か、生まれるデメリットは何かを説明できれば進言してもいいわよ」
「国と国を繋ぐ転移魔方陣の作り方は、もうわかっているからね。エノシガル国なら海の精霊の加護が大きいだろうし」
「そうね。わたしがこうして、もや様、フェンネラ様とお友達になれたのもシレーネのおかげだしね。海の精霊様、感謝!」
そう言って、イーリヤは芝居掛かったように手を広げて叫ぶ。
「ふふふっ」ともやが笑って
「そんなことをして、魔力が漏れ出していますよ。でも転移魔法陣は今現在も、正式なやり取りでしか利用できないわ。イーリヤは王城に勤める気はないのでしょう」
「……ないです。あ、でも観光用ゲートみたいなのがあったら、楽しいんじゃないかな」
「さすがイーリヤ、商人ね」
「お二人とまだまだ話したりないけれど。私は今日はここでお暇いたしますね。この後、お客様がいらっしゃることになっていますの」
「精霊達がお着きになったと教えてくれたので」そう言って魔導師が立ち上がったところ、城の方で慌ただしい気配がした。
城の騎士達を振り切って、男性が一人やって来る。その姿にイーリヤは、驚きを隠せない。
「イーリヤっっ!やっと見つけたっ」
「シア?ど、どうしてここに?」
その二人の様子を見て「メリットデメリット関係無く、転移魔法陣を設置出来そうだわ」と魔導師は微笑んだ。
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魔導師様立ち会いのもと、場所を王宮の客間に移して二人は話をすることにした。
「魔導師様。このような場を設けていただき、感謝いたします」
「お別れの挨拶をしてから半年すら経っていないわよ…、ユーリの喜ぶ顔が目に浮かぶわ」
そう言って、魔導師は意味深長な笑みを浮かべる。
「もしかしたらとは思っていたのだけれど……。ふふっ、精霊のお導きかしら」
「魔導師様。お言葉ですが、私は精霊の導きだなんて思いたくはありません」
シアのその強い言葉に、イーリヤは顔を上げてシアを見つめる。
魔導師であるもや様に、そんな言い方をして大丈夫なのかしらと心配するイーリヤを、シアはまっすぐに見つめる。
「この間言ったことを謝りたい。君のことを思いやっていなかったわけではない。だけど結果、君のことを傷つけてしまったのは事実だ。……本当に申し訳なかった。けれど、君を他の国に連れて行ってあげるって言ったのは、イーリヤと、ただ一緒に旅をしたかっただけなんだ。わたしに連れられて行くのが嫌だと言うなら、だったら、私がついて行ってもいい。いや、ついていく」
始めは神妙な面持ちだったシアは、話しているうちに興奮してきたのか、テンションがおかしくなってきている。
「……それにしても、よく私の居場所がわかりましたね」
「探したんだ。国中の学院ををくまなく。だけど見つからなくて。まさか、第一貴族学院に在籍していたなんて。早く気づいていれば、一緒に学園生活が楽しめたのに」
え?話の論点そこ?ってツッコミたい衝動に駆られるも、ぐっと堪え
「シア様のことは、私が在学中には、お見受けしなかった様に思います。こう見えて商売柄、人の顔を覚えるのは得意ですし、シア様は多分ご貴族でいらっしゃるのでしょう。私の覚えている限り、シア様のような精悍なお顔の貴族様はおられなかったように思います」
「城に勤めるアストレイアは君の友人だろう?彼女に聞いたから、間違いない。君の家の事も聞いて、その、言い辛いのだが、君の父上にもお会いした」
えっ、何してくれてんの?とさらにツッコミたい衝動をまたしても抑える。冷静に対応できる私、それだけでも、貴族学院に通った甲斐があったというものだ。それにしたって、適齢期の女性の家に適齢期の男性が訪れるって、想像しただけでも恐ろしい。どういう意味か、ちゃんとわかってるのかしら。そう思っていると
「あなたがイーリヤの家を訪れたということは、どういうことか、わかっているのですか」
と、もや様の冷静な声がした。
「それは、もちろん、です」
「そう。なら、二人できちんと話した方が良いわ。はじめから、ね」
扉の前に控える侍女を残し、もや様は出て行った。




