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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第三章 高慢に偏見
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01.南の国エノシガル王国

 精霊や魔法、古の力が多くを占める世界。それぞれの国で使う魔力も異なる者達の恋愛物語ーー。南国エノシガルを舞台の第三章。






 ここエノシガル王国は、緑映ゆる山々と透明度の高い煌めく海が自慢の島国だ。国民のほとんどが観光産業に携わるリゾート大国。年中温暖な気候に包まれ、海も緑も豊かな風光明媚な国であるので、のんびりと朗らかな気質の国民性だ。その為、他国の多種多様な民族習慣や文化などもおおらかに受け止められるゆえに観光立国として成功を収めたのであろう。


 自然豊かな国だけあって精霊もミミルファ国ほどではないがたくさん住んでいる。土地柄、海や水の精霊が多い。お陰で国民のほとんどが微量であっても魔力を有していた。

この国では男性の方が女性より魔力量が少ないと言われている。海の精霊シレーネが男性の魔力を吸い出していると実しやかに囁かれているが、シレーネ本人は「そんなめんどくさい事するわけないじゃない」と全面否定している。


 魔力が多いということは、即ち精霊に好まれるということ。自然の恵みが豊かであればあるほど観光として成り立つため、人はより良い生活を求め、男性は魔力の多い女性を求めるし、女性は自分の魔力を活かしてくれる知性の高い男性を求める。それがこの国エノシガルの婚姻のあり方だった。






 イーリヤが生まれた時、平民としては規格外のイーリヤの魔力量に両親は大変喜んだ。




 この国では女の子が生まれると役人が来て魔力量を計測する。

魔力は成長によって大きくなったり小さくなったりと変動がある為、生まれたときにその子の潜在魔力量、魔力の『器』を調べるのだ。

その後は、学校に入学する年齢が近づくと測定するのが決まりだ。一年に一度、十歳から十二歳の三回。自分の住む地域の一番大きい島に行って魔力を計測する。

およそ一週間ほどの測定期間が設けられていてその間、国から測定器が貸し出される。期間内に測定に行けばいいだけなのだが、その時期はこの国の祭事と敢えて重ねている。

魔力の大きいものは精霊の加護をたくさん得ていると言う事だ。故に精霊を祀る祭祀と絡めて行うことで、魔力量の大きい少女の存在を豊穣の象徴と知らしめんがためのものでもあった。








 十三歳になると子どもたちは皆、地域で一番大きな島にある学校に入学する。それまでは自分の島にある小さな教室、謂わば託児所の扱いで最低限の文字や計算を教えられるのだが、学校入学後は四年間、地域によって学ぶ内容に多少差はあるけれど一般的なカリキュラムのほか希望者は教養、魔術といった授業も受けられる。


だが出生時やその後の測定で魔力量の多かった者は地域の学校には通わず、貴族学院に入学しなければならない。そのため、イーリヤの両親は幼少期から家庭教師をつけ貴族学院でイーリヤが恥をかかないよう教育を受けさせていた。イーリヤの家は、商売人として大成功を収めてはいたものの所詮は成金と揶揄されていた。リゾート経営が成功しているのは貴族で、大きな島の領主だ。イーリヤの家のように小さな島の長が成功を収めた例はなく、おかげで国内における貴族からのやっかみがひどい。



 王都より最も遠い小さな島の長の娘イーリヤ。魔力量が多かった娘イーリヤに親は貴族への繋ぎを期待した。事業が成功しているために王城での夜会や会合に出席しなければならない両親が、毎回貴族達からの嫌味と嫌がらせの数々に肩身の狭い思いをしている。緩衝材として高位貴族と繋がりを持ちたいと望むことは当たり前のことだったろう。


その為両親は、大きな魔力を持ったイーリヤをできるだけ高位の貴族に迎え入れてもらえるようにと幼少期から教育を施してくれた。

貴族学院は高学力、高魔力の者が集められた場所であり貴族はそこで伴侶を、平民は仕えるべき主を見つける社交の場としての役目を担っていたからだ。








******








 イーリヤはホテルの敷地を遊び場として育った。海も川も山も全てがイーリヤの遊び場所だった。行動範囲は同じ年頃の他の子どもに比べればかなり広い。

学習時間中は家庭教師に教わり、空いた時間は敷地内を自由に歩き回る。常に精霊たちと共に行動するイーリヤの魔力量が増えていくのは当然のことだった。


もちろんホテルを遊び場にするといっても幼い子が表に出るなんて事は許されない。あくまで従業員用の敷地内をウロウロして回るだけでお客様の目につくような場所には一切出ない。自然と裏方で真面目に働く従業員たちをの背を見て育つ。人気リゾートと言われるだけあって、スタッフは知識と教養も兼ね備えた礼儀正しい超一流の洗練された者たちばかりだ。

とっさの時に普段の人柄が現れると言われるので、常に品格を持てるよう誰一人として表と裏の態度が変わることなく厳しい態度で仕事に臨んでいた。それは小さな子どもに接するときも然り。

イーリヤが思いついたように悪戯を仕掛けた時も冷静に対処する誇りを持ったホテルマン達だ。



 おかげでイーリヤの仕草は学院に入る頃には洗練されていた。大人たちの中で過ごしていたため思考も同い年の子たちよりもだいぶ大人びていたし何より、品がありつつも遜るというプロフェッショナルなホテルマンの所作が確立されていた。









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