06.フェンネラ、ミミルファ国へ
このところ、殿下はあまり私の研究室にいらっしゃいません。以前は時間さえ見つければこの研究室へいらっしゃってくださいました。
ですが最近はヘレネー様のいらっしゃる研究棟へ伺っているようです。でも、それは当然のこと。
ヘレネー様のあの膨大な魔力量。うらやましい限りです。
あれだけ私に魔力があったのなら、失敗を恐れずにチャレンジすることができますのに。そして失敗をしたとしてもすぐにまたチャレンジするだけの魔力があるのです。隣国なのにこんなにも魔力量に違いがあるとは。
わが国の魔力量の少なさは、昔この国が森林を大量破壊したせいだと言われております。
西側に広がる砂漠地帯。あそこは昔緑豊かな土地でありました。ですが資源を採掘するために森林を破壊したのです。その後、破壊された土地が戻ることなく年々砂漠化が進んでおりました。近年、研究に研究を重ね、試行錯誤しながらもどうにか砂漠化を食い止めることに成功しました。だからと言って、緑地化は思うようには進んではいません。
しかし、ここにきて隣国ミミルファ国との思いがけない共同研究開発。精霊大国との交流が進む事は我が国にとって僥倖です。
私が十の歳に研究所に通うようになって全てが積み重ねの日々でした。
この国では十歳を迎えた後、カーリの季節に学校に進学します。カーリの季節とはこの国の呼び名で雨や風を巻き起こすものが訪れる季節のことです。とは言ってもここへファイス国は西部の砂漠化が進んでいるので、恵みをもたらす雨は嬉々なるもので、新しい始まりには歓迎される季節です。その季節に私は研究所に入りました。それは、楽しいことでもありましたが、同時に自分の無力さを知る日々でもありました。実践の積み重ねといっても、積み重ねられるだけの魔力に乏しい自分と我が国では難しいことが多々あります。
なので、殿下がヘレネー様に構われているご様子には、大変理解ができます。私もたくさんの魔力量を操り研究開発出来たらと思っていた矢先、ミミルファ国からさらに大変喜ばしいご提案をいただきました。
転移魔方陣の共同研究で魔導師様とは度々お会いしお話をさせていただく機会がございました。
そのうち研究以外のお話もさせていただくようになり、今ではだいぶ打ち解けてくだらないことも言い合えるような仲となりました。
同年代の友人と呼べるものがいなかった私にはとっても喜ばしいことで、また二つ年上の魔導師様も同じような状況だったらしく、今では気のおけない友人です。
その魔導師様から大変ありがたいお話をいただき、私は誰に相談することもなく即答したのです。隣国ミミルファの研究施設建設にあたり、責任者として出立すると。勿論へファイス国へは魔導師様から内々に、事前にきちんと打診はしてくださっていました。
「研究所の建設もそうだし、建設後もそのままミミルファ国で指導者として滞在してくれたら嬉しいわ。わたしが個人的に嬉しいのよ」
驚く私に魔導師様は笑顔で言葉を重ねられます。
「建設にあたっては、フェンネラ様の好きなように、使いやすいように建てていただいて構わないわ。私なんかが口を挟んだってどうしようもないもの。へファイス国の研究所をベースにして頂いてもいいし、フェンネラ様仕様に改良してくださってもいいし、なんでも思う要望を全て盛り込んでくれて構わないわ。これから作る研究所はミミルファ国だけのものではないと考えているから。へファイス国と共同で使用したいと思っているのよ。食堂はもちろん充実させるわよ、メニューもね」
この話にはわが国の国王陛下も大変乗り気でした。
そもそもミミルファ国が独自に研究施設を作ったってミミルファにとってはそれほど意味がないことは分りきっています。精霊の加護の多いミミルファ国の、それも大魔導師様の力は、わが国を滅ぼせる位の魔力量であることは疑いようのない事実なのですから。
精霊の加護を必要とするものがいたら分けてあげたいと魔導師様はおっしゃいました。勿論、分けられるものではないのですけれど。その横でキラキラふわふわと飛び交うたくさんの精霊たちの姿がとても印象的でした。きっとその思いが、研究所建設へと結ばれたのでしょうね。
ちなみに魔導師様と友達になってから、私の周りの精霊たちの数も以前に比べるとだいぶ増えたように思います。
今、殿下にはヘレネー様がいらっしゃるので、私がへファイス国を離れることについては何の心配もしておりません。ヘレネー様は殿下から沢山の好奇心を引き出し、殿下は研究に勤しまれるでしょう。そして殿下はさらに高みへ登られるのです。
私では叶わなかった殿下のその思いに触れ、ヘレネー様ならお答えすることができるでしょう。
私はその間、ミミルファ国に行って自分の成すべきことをいたします。
だって私、お言葉を賜れましたもの、メイテウス殿下から。
ミミルファ国とより深い絆を作るためにがんばります。




