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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
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02.目覚めの朝




 朝の眩しい光に目を開けると見えたのは、わたしを心配して覗き込む父上と母上の顔。二人のその表情は、わたしの心をひどく揺さぶった。おもわず手を伸ばしたが空をつかむ。すかさず母がわたしのその手を掴んで握りしめた。わたしの手にゆっくりと頬ずりをし涙をポロポロと流す。


「ユーリ……。目が覚めて本当に良かった。母はこの十日間、生きた心地がしませんでした。あなたがいなくなったらわたくし生きてはいられません」


「母上……。父上、わたしはいったい…?」


 朦朧としながら母上の手を握り返そうとする。だけど、手に力が入らない。手だけではない。体中が重く動かすことができない。顔を父の方に向けるのがようやくだった。目を覚ましたばかりのわたしの頭は、黒い靄がかかっているようで、思考しようとするがうまく働かない。そもそもわたしはなぜ、ベッドに寝ているのだろう。混乱しているわたしを見て、父が優しく語りかけてくださった。


「十日前、庭に倒れていたお前を庭師が発見したのだ。見つけた時には、すでに意識もなく……。

 そのまま、お前は十日も眠り続けていたのだよ」


「十日間も……」


「ああ、はじめの三日間はひどい熱でうなされて。お前の力も尽きかけていた。だが、熱が下がるとともに少しずつだが、力も回復しはじめたのだ」


「わたしの力が……尽きかけた…?」


 体が鉛のようにひどく重い。こんなことは、はじめてだった。それに言葉にできない違和感を感じている。わたしの体なのに思うように動かせなくて、もどかしい。わたしの体力が足りていないからなのだろうか。


 靄は?

 重い頭に浮かび、周りを見回すが

 ……見えない。


 それもまた、わたしの力が戻っていないせいなのだろうか。

 いつもは何もしなくても見えていた。

 なのに今は、何も見えない。

 存在はあるように感じるのに……。


 さらに混乱しているわたしを見て、父上はわたしの頭を優しく撫でてくださった。雄々しいけれど温かくて優しい大きな手にわたしは安心して、父上が触れる金色の長い髪をただぼんやりと眺めた。しかし、わたしの自慢の髪は生気を失った枯れ枝の如く、いつもの輝きを放ってはいなかった。




 頭は鉛のように重いのに、なぜだか心には妙な安らぎがある。

この違和感になぜ?と自問する。自分のことがわからないもどかしさと靄が見えない苛立ちとがごちゃ混ぜになって、わたしはさらに疲労を覚えた。


「わたしは、どうなったのでしょう?」


「わからない。いったいお前の身に何が起きたのか、いや、起きているのか……」



 この国の王である父上も、その答えを持っていなかった。




「十日前、お前の身にいったい何があったのか、聞かせてくれるか?」


 父上がわたしに問いかける。戸惑いながらも話し始めようと口を開いたその時、


「あなた、ちょっと待ってくださらない?」


 ちょっと強めの、だけど優しい声が遮った。


「ユーリは、目覚めたばかりなのよ。力もまだ戻ってはおりません。せめて何か、口に入れないと。今、スープを持ってきますわ!栄養満点の!」



 スープと聞いて、思わずわたしの体が強張った。


「……母上。そのスープはまさか、ミョウガルのスープではありませんよね?」


「まさか!いくら栄養満点でもこんな時にあなたの苦手なスープは出しませんよ。ユーリの大好きなカボルチャのスープですよ。」


 母上は、そう言って幸せそうにふふふっと微笑み、わたしの長い髪に、額にと口づけた。





 母上の指示にすぐに運ばれてきた温かいスープは、じんわりとわたしの心と体に沁みていった。さっきより幾分か、力が湧いてきたような気がする。ほんの少しだけど、力を取り戻したようなそんな気持ちになってわたしは、側仕達をみな下がらせ、医師立ち会いの元、父上、母上、それから宰相の4人にポツリポツリと話をした。


 子どもの頃から見えていた黒い靄のことを。靄の存在、わたしだけが知る友達。わたしが靄に想いを寄せているなんて、そんなことは決して言わなかったけれど。











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