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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
19/108

19.転移魔法陣と業務連絡

 



 朝と晩、ミミルファ国から転移魔方陣で、もやの使いの魔道士がやってくる。こちらから直ぐに逢いに行けない代わりにとミミルファ国に無理を言ってお願いした定時連絡。外交関係なくただの私情、ほんと竜族の男の愛情って重いなと我ながら思う。


 もやが設置した転移魔方陣は、魔導師の承認を得た魔法術士が使用出来るようになっているらしく、ミミルファ国の城に仕えるものならば基本的には誰でも行き来が可能らしい。だが、ミミルファ国の魔法は精霊達の力を借りて行うもので、竜族の魔力とは異なる。その為、わたしは転移魔方陣を使用する事が出来ないのだ。


 そして今日もユーリは朝の定時連絡を朝食の席で待つ。


 扉がノックされ、アドニスが部屋に入ってくる。

定時連絡にやってくる文官は何人かいるのだが、大抵はこのアドニスという長身黒髪の文官がやってくる。魔導師の一等補佐官と紹介された時は、自分が竜王を引退し一等補佐官になろうと思ってしまったくらい、もやの補佐官にはふさわしくない人物だ。



「おはようございます。竜王様。魔導師様からお預かり致しました書簡でございます。そして、こちらが本日の魔導師様のご予定になります。それと魔導師様から伝言がございまして、今日の執務の進捗状況によっては、明日か明後日の晩餐をご一緒出来るそうです。竜王様のご予定はいかがでしょうか?」



 にこりと微笑んで返事を待つ、その涼やかな態度がいけ好かない。なぜ、もやはこのようなものを補佐官にしたのか。



「明日でも明後日でも構わない。もちろん両日ともでも」



 ユーリはギロリと睨みながら、冷ややかな声で返した。周りで給士している者が一瞬ビクンと体を震わせたが、アドニスは怯みもせずいつも通り連絡事項を確認して帰って行った。








*****










「ユーリ様。そんなにそわそわしないで落ち着いてください。もや様がいらっしゃるまで大分お時間がございます。それまでにこの積み重なった書類を処理して頂かないと本日の晩餐は中止していただきますよ」



 エーチが鋭い目をキラリとさせながら言う。文官からユーリを監視するように頼まれているエーチの立ち位置は、昔から変わらない。塔に閉じこもっていた反動もあり出られるようになってからはエーチの目を盗んでは城から飛び出し、イフーに連れ帰られるという子ども時代を過ごした。イフーの立ち位置も変わらず扉の前に立ち、呆れた目でユーリを見ている。



「そんなん、ちゃちゃっとやっちゃった方が早いんじゃないですか?集中力っしょ」



 斜め後ろに控えるユーキが他人事のように言って、ユーリに睨まれたが、こちらもいつも通り全く気にしていない。集中力なんてそんなの十分にわかっているがこれからもやに会うと思うと、いてもたってもいられないのだ。




「ユーキ、お前も番が現れたらわかる。そん時には、思いっきり笑ってやるからな」


「はいはい。みんな、愛情が重いんだから。やだねー」




 イフーもお前はもわかっていないと言わんばかりの憐れみの視線をユーキに投げたが、ユーキは全く動じずさっくりと受け流した。「番が現れた時、束縛と嫉妬の炎で燃え尽きてしまえばいい」とユーリの心の声は漏れた。




 もやとの久しぶりの晩餐を迎える為に執務室に籠り昼食も取らずにユーリは仕事をした。三人には呆れられているがそんなことにはユーリはおかまい無しで執務を行っている。

ミミルファとの国交が始まったことによって、ミミルファ国の近隣やミミルファ国までのルートになる地域とも国交を結んだ。よって現在、圧倒的に外交官をはじめ役人の数が足りない。やらなければならない仕事は、冗談抜きで山の様にあるのだ。





 なのに。

約束の時間より大分早くに魔方陣の間でソワソワと待つ人物がいる。

もやはプライベートで訪れる時はいつも一人でやってくるので、一刻も早く会って抱きしめようと今か今かと到着を待つユーリの姿がそこにある。





 長椅子が一つだけ置かれた装飾のない広い部屋に突如として光を放つ魔方陣。

その途端、顔のニヤニヤが抑えられないユーリの前にもやの姿が浮かび上がった。長椅子から立ち上がり喜んで駆け寄ろうとしたその時、後ろにアドニスの姿があるのに気づき歩みを止めた。ユーリのだらしない表情は自然と消え憮然とした顔になるが、竜王の威厳を慌てて引っ張り出す。



「ようこそおいでくださりました」



 もやをみつめ優しく艶やかに最大級の愛を込めて竜王として、もやを、もやだけを歓迎するユーリ。


 ああ、俺はなんて器の小さい男なんだろうと内心自己嫌悪に陥るが、だって、二人が並ぶ姿を見ると胸の奥がジリジリするのだ。


 アドニスの長い艶やかな黒髪と長身は、もやと並ぶと非常にバランスが良い。もやのプラチナシルバーの煌めく長い髪とすらりと均整の取れた肢体をさらに引き立てる影のよう。

おまけに細身のシルエット、透き通るきめ細やかな白い肌、涼やかな目元でにっこりと微笑みを絶やさない、貴公子とはかくある人物をいうのだろう。そう思ってユーリはギリリと歯をくいしばる。




「もうここでいいわ。戻って、アドニス」



 アドニスに向かって美しく微笑むもやに心がジリジリする。



「ですが、これは……」



 語りはしないがアドニスは魔導師様を導くように手元に視線を向ける。




「……わかったわ。

ユーリ様。お食事の前に少しだけお時間を頂けるかしら。」












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