16.ミミルファ国の魔導書
緑に囲まれたティータイムは、心休まるものだった。部屋の中にある植物はミミルファ国固有種のものが多く見ていて飽きないし、もやが楽しそうに説明してくれる様子が可愛らしい。流石は精霊の加護を受けた魔導師、自然の生気漲る空間だ。
「リヴァイは、自分のこういった部屋を作らなかったそうです」
そう語り始めたもやの眼差しは真剣で、相槌さえも打つのが躊躇われる。
「リヴァイは、本当に真面目で。今もそうですが、生活の全てをミミルファ国の為に尽くしています。魔導師であった時と今ときっと何ら変わらないと思います、生活も志も。今のほうが、わたしのお守りが増えた分大変だと思いますが」
ミミルファ国の魔導師となった時、この空間と1冊の書物が手に入るそうだ。
「書といっても物体が常にあるわけではないのです。竜の瞳のように自由にとりだすこともできますし、自分だけで確認するときは、自分の深層を探ると読み取れるのです。ミミルファの書は、わたしが生まれた時からずっと自然にわたしの中に流れ込んできました。その代わりリヴァイは、書が抜け出るような感覚があったそうです」
ユーリは頷くことしか出来ない。竜の国では度し難いものがここにはたくさんあるのだ。
「基本的には、力の小さなものから大きなものはそう多くは生まれません。わたしのような大きな力を持ったものは数百年に一度、稀に生まれるそうです。なので、リヴァイのような体験をする魔導師は少ないのです。リヴァイの力は決して小さくはありません。わたしが、その……、規格外に大きいだけで」
「そうだね。もやの力の大きさはわかるつもりだ。もやは、わたしの力が大きいと言ったけれど、わたし自身は、もやの方が大きいのではないかと思っているよ」
「ええ!それはないと思いますよ。ユーリ様と契約して吸い込まれちゃったへなちょこです。まだまだ、修行が足りませんね」
「そのことなんだけど。知らなかったとはいえ、もやには酷いことをしてしまった。竜の国では竜瞳は竜王の婚姻の儀に使用するという認識でしかなかった。なのに契約魔法だなんて……。そんな大それたことをしてしまったなんてなんといったらいいか」
「それは、もういいのです。名を告げるとわたしが選択し決断したことです。それにミミルファの書を紐解くと、竜王は契約魔法となんらかわりないほどの待遇を番に施すように思われるので結果的には同じ様な気がいたします」
「ああ、違いない」ユーリは自嘲気味に笑う。
「本当ですか!」
「……ああ。竜族は得てして嫉妬深い種族なのだ。番を他人の目に触れさせたくないという者までいる。それは竜の血が濃ければ濃いほど、顕著になると言われている。イフーなんて公式の席の時にしか番をわたしの前に連れて来ない。それですら本当は拒否したいと言っている」
「……」
「だけど。わたしはそんなことはするつもりはない。わたしの父上と母上のように表に立ち共に歩む二人でありたいと心から思っている。そのためには、もやのために、わたしは努力を惜しまないし番への本能を何としてでも抑えてみせる」
そう言って、もやを真っ直ぐに見つめる。金色の瞳の光が一段と強くなったように見える。吸い込まれそうになるもやの手にユーリは手をゆっくりと重ねそして優しく握る。
「ここなら誰も見ていないから触れても良いよね?」
「………っ……!!!お、おさ、抑えてませんよ!!!」