12..成人の宴と誓いの儀
引き続き宰相です。
ユーリ様は驚いて、その表情すらも取り繕わずすぐに喜びいっぱいの笑顔をその女性に向けられました。そして、跪き金色の玉を持つ手をそっと差し出しました。女性は、優しく微笑みながら差し出された玉を取られた後、会場をぐるりと見渡されました。にこやかな表情を浮かべて周りの様子を見られたようですが、一瞬ほっと安堵の表情をされたのがわかりました。
「君とここで、こうやって並ぶのをずっと夢見ていた。今日、願いが叶って、本当に嬉しい」
「わたしもです。ずっと待ち望んでおりました。ユーリ様、わたくしのそばにずっといてくださいますか?」
「もちろんだとも。君にわたしの人生を捧げる」
ユーリ様がそう言うと、女性の持っていた玉が閃光のような輝きを発しました。と同時にユーリ様もなんだか揺らめいて見えます。女性は、落ち着いたご様子でユーリ様にご自分でお持ちになっていた玉をお渡しになりました。すると、ユーリ様の揺らぎは消え、天まで届きそうな玉の輝きも消えました。玉の中は炎のように揺らめいていましたが、最後ぱっと光を放った後消えてしまいました。
ユーリ様が、お言葉を述べられます。
「この国を導こう!遠きミミルファ国と共に繁栄を誓う!」
会場は、たくさんの精霊達が飛び交い割れんばかりの拍手と歓声に包まれました。
あー、一件落着っと思ったその時にユーリ様達の背後の地面が大きな地鳴りとともに突然盛り上がりはじめました。
会場は、驚きのあまり誰も動けないご様子です。私も、正直固まってしまいました。が、国王陛下が王妃様に寄り添い手を握って差し上げたのを目の端で捉えました。こういった時に瞬時に対応し寄り添える陛下は流石です。
目の前のユーリ様と魔導士様ははほんの一瞬表情を揺らしましたが、笑みはそのまま。きっと悪い兆候ではないということでしょうか。
盛り上がった地面からは、巨大な芽が現れ幹となってぐんぐんと天に向かって伸び、幹からは無数の枝が両手を広げるように伸びていきます。枝からは沢山の命が芽吹き瑞々しい葉の青さが鼻腔を蕩かします。あっという間に巨大樹の誕生です。そして、今度は樹木の根元から間欠泉のように水が一瞬噴出したかと思うとこんこんと湧き出し、澄み渡った小さな泉が出来上がりました。
あまりにも一瞬の出来事に私は呆然としてしまいましたが、それは会場も同じだったようです。息を飲み顚末を見届けた次の瞬間、会場は騒然となりました。すると、ミミルファ国の魔導師だといわれる女性が一歩前に進まれ美しい凛とした声で語られました。
「皆様を驚かせてしまい申し訳ございません。わたくしも正直、驚いております。遠きミミルファ国より、祝福が届けられるとは思っておりませんでしたから」
そう言うとにっこり微笑んで、巨大樹の方へ振り返られました。
会場の皆様の視線も後へと向かいます。すると、枝の合間から緑色の精霊が、泉の周りには水色の精霊がふわりと姿を見せました。
精霊達は、くすりと笑うと樹木の周りをぐるりと飛んだ後、消えてしまいました。消える瞬間、きらきらと空中に祝福の光りを振りまいて行かれたようです。この世のものとは思えない光景に皆が歓喜の声をあげました。
「わたくしも、ミミルファ国と共にこの国に祝福をもたらしましょう」
そう仰るとユーリ様と手を取り見つめ合い、幸せそうに微笑まれました。魔導士様のまわりにもきらきらと色とりどりの光が舞い散ります。これが精霊のお力なのでしょう。初めての光景に居合わせた者たちは恍惚とした表情を浮かべ、光が消えた後もなお、これから来るべき更なる安寧の世に思いを馳せ余韻に浸っていたのでありました。