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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
11/108

11.成人の宴と国王夫妻

宰相登場••••••




 とうとう今日という日が、やってきました。なれど、ユーリ様は、やって来ません。


 このままでは、儀式が出来ないと国王様は頭を抱えてオロオロされております。ただ一人、ユーリ様の帰りを信じて待つ王妃様の采配にて、宰相のわたくしを筆頭に成人の宴の準備は進めております。本来なら城の豪奢な大広間で行われる予定ではございましたが、王妃様のご指示にて庭園での開催と変更になりました。


「だって、空から竜王が降り立ったらカッコイイじゃない?うふふ」


って、「降り立ったらな!」という臣下の者達、総ツッコミの視線をもろともせず、王妃様は嬉々として着々と準備されました。まあ、王妃様は通常運転でございます。そしてもちろん国王様も。

寛大で包容力の固まり、若干、優柔不断といいますか決断力が足りない……いえ、これは採点が厳しかったでしょうか、お優しい国王様に、最早即決、ノリと雰囲気重視の……ごほんっごほんっ、これも言葉選びが悪いですね、決断力のある王妃様。このお二人の絶妙なバランスでこの国は成り立っております。竜の血を色濃く引くお二人は仲の良さも追従するものがないくらい睦まじくおいでです。王妃様の国政への参加も竜の国の王の番としては類をみないことで、それだけでも、国王様の懐の広さと愛情深さがご理解いただけるかと存じます。ただし、というかやはりと言いますか、王妃様のいらっしゃる所に必ず国王様のお姿があり、そこは竜の血の濃さが成せる技、嫉妬と粘着がお強いのは明らかでございます。




 普段は広々とした芝生の広場に、これでもかと贅を尽くしたも料理の数々。銀食器はいつも以上に磨かれ金糸で緻密な刺繍が施された白いテーブルクロスの上で光り輝いております。強い日差しを避けるため張られた薄絹の涼やかなドレープが優美さを演出したガーデンパーティーは、竜の国の総力を上げて取り組ませていただきました。



 心地良い風を感じながら、開放感のあるこの庭園で行われる宴は、皆様の心に残るものになるでしょう!……行われたならな!


 成人の宴、開場予定時刻。

 もちろん、ユーリ様、戻られません。


「大丈夫、大丈夫。予定通り皆様を入場させてくださいませ」

王妃様は、にこやかに微笑まれます。楽団の演奏が流れる中、招待客の名前が呼ばれ、次々とご入場されます。皆様が入場された後、満を持しての国王様と王妃様の登場に会場にいる者たちは何ら疑いもしていないご様子です。まさか、この宴の主役がここにいないなどとはね。





 と、その時でした。

 城をも包み込むような黒い影が空を覆いました。王妃様は、にこりと微笑まれます。それが合図かのように


「ユーリ様、ご入場」


と高らかに声が響き渡りました。この時、小さい黒い三つの影も王城の高い塔にひっそり降り立ったのをわたしはもちろん見逃しませんでしたよ。


 大きな黒い影は近づくにつれ、美しい竜の姿だとわかり、会場からは溜息がもれました。そして、その竜の姿も美しい男性へと変わり、ふわりと地上に降り立ったのです。ただ息を飲む美しさに男女となく皆様魅了されたご様子です。出発前、残っていたあどけなさは見る影もなく、疲労感漂う顔も精悍さを増す材料となっております。



「この度は、わたしの成人の儀にお集まりいただき、ありがとうございます。しばし、ご歓談ください」

柔らかくも落ち着いた声で高らかにお言葉を述べられた後、にっこり微笑んで、ユーリ様は颯爽と奥へ消えました。


 わたくしは、王妃様が小さくガッツポーズしたのを見逃しませんでした。でも、今日ばかりは、王妃様のはしたない仕草も見なかったふりを決め込むことにいたしました。素晴らしい演出だと誰しもが感嘆の声を漏らします。

 その後、王妃様は何事もなかったかのように王様とともに、招待客と談笑され、しばらくすると、会場がざわつきはじめましたので、ユーリ様が支度を終えられてお戻りになられたのがすぐにわかりました。


 この日の為に誂えたご衣裳は、本当に良くお似合いで、お見立てになられた王妃様もとてもご満悦のご様子。先程の野性味溢れる様子とは打って変わり、輝くような金色の髪も梳かれてキラキラの王子様感を撒き散らしております。ユーリ様は、皆様へ笑顔を振りまきながら国王様と王妃様の元へとやって参りました。

 会場内は、ユーリ様がどのご令嬢を選ばれたのかと、皆様が互いに様子を窺っているのがよくわかります。

時計の針と会場の様子を見ながらタイミングを計ると、示し合わせたかのように王妃様と目があいました。総合演出家の王妃様のプランをきっちり遂行させていただくべくわたしは儀式に必要な飾箱を持って国王様の前に歩みでました。竜王様の御代にのみ使用される聖なる箱なのです。

 国王様は箱を手にとりました。


「竜の国に生まれし、竜の愛し子よ。我が国に繁栄をもたらす光よ。命宿りし竜の瞳を!」


 王は高らかに告げると飾り箱の封印を解き蓋を開きました。中には、竜王の瞳と呼ばれる金色の宝玉が二つ入っているのです。言い伝えによると、ひとつは竜王様、ひとつは竜王様の伴侶となる方に、誓い合い交わし合うものだそうです。

 だそうですが、ん?ひとつしか入っておりませんね?どうしたことでしょう!!

 ユーリ様は、驚いた顔を一瞬されましたがすぐに平静さを取り戻されたようで、残された玉を手に取り威風堂々おっしゃいました。



「本来ならこの箱の中には、二つの玉が入っているはずだ。だが、私はすでに生涯の伴侶となる者と誓った。故に玉はここに一つしかない」


 威厳はあるのに優しく落ち着いた声に真の竜王の到来を感じさせます。竜人族なら誰しも感じたでありましょう、魂が共鳴しているような、いえ、共鳴なんて畏れ多いです。決して逆らえないような、斎きたくなるこの衝動に心も体も震えます。

 が、惜しむらくはその内容~~~!

宝玉がひとつってどういうことでしょう。会場がざわついております。当然ですね。


「わたしの一生涯ともにする伴侶は、ミミルファ国の魔導師である。遠き地の為、今ここに姿を現せてはおらぬ。彼女の現しまで、しばしお待ちいただきたい」


 そう言った後、一瞬顔を歪ませました。刹那の表情でもあり気づいた者はほとんどいらっしゃらないでしょう。そして、ユーリ様はなにやら小声で呟かれたようです。


「しばしって、いつまでなんじゃい!」っと突っ込もうかと思ったその時、空気が揺らいだかと思うとユーリ様の目の前に美しい女性の姿が現れました。美しい銀色の長い髪。すらりとした体は、成人前の女性かと思われます。お召しになっている衣装は、白い上質の素材は艶やかな光沢を放ち、銀糸の刺繍が美しくあしらわれており意匠からこの国のものではないようです。手には、光輝く黄金の玉と銀の笏丈をお持ちでございます。きっと、この女性がミミルファ国の魔導師様であらせられるのでしょう!






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