涙
白斗がレッスン室を出ると、そこには咲が立っていた。
「あ!白くん!今終わったの?今日のレッスンどうだった?」
「うん。今日も充実してたよ。久しぶりだね。最近どう?」
「まあまあかな!徐々に仕事は増えてるけど、もっと頑張んないと。」
二人は、敬語を使わず会話する程度には仲良くなっていた。
「あ!みどりさんに呼ばれてたんだった!またね!」
「うん。白くんも頑張って!」
(今日も可愛いなー咲ちゃんは。だ、だめだ!俺にはみどりさんがいるんだから。)
「行っちゃった。今日も思い出してくれなかったか…」
「失礼します。」
白斗が事務室のドアを開けると、みどりが泣いていた。
(え?)
「あ!来たわね…そこに座って。」
「はい。どうかしたんですか?」
「ごめんなさい。とても嬉しくて涙が出ちゃった。」
「えっと…」
「やっぱり、自分の担当する子が、脇役でも名前を持った役として、ドラマに出して貰えるなんて。」
「え?本当ですか!?」
「ほら、つい先日、色恋のスペシャルドラマ版のオーディション受けたでしょ?」
「あ、はい。受かったんですか?」
「そうよ。咲の恋人役。」
「え!ほんとに?しかも咲ちゃんの恋人役!めっちゃ嬉しいです!あ、すみません。テンション上がちゃって。」
「大丈夫よ。良かったわね。」
「ありがとうございます!」
「出番は少ないけど、凛さんと絡むシーンもあるから気合いれて、これからの仕事にもつながるように、チャンスだと思って頑張るのよ。」
「はい!」
「詳しいことは、また後で連絡するね。今日はいち早く君にこのことを伝えたかったの。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
(ルンルン♪あそこまで俺のこと思ってくれてたんだ。)
「ねぇー聞いた?」
「聞いた!聞いた!みどりさんのことでしょ?」
「そう。何か仕事でミスして、影くんに嫌われちゃったらしいよ。」
「影くんもかっこいいんだけど、ちょっと性格があれだよねー」
「そうね。」
(え!?あの涙は俺のためだけじゃないのか。)
数日後、みどりと影は普通に話していたので、そのことに関しては、俺のなかで深く残らず、ただのうわさレベルの話で終わっていた。このときはまだ真実を知ることを避けたかったのだろう。そして憧れの人、凛さんと共演できるスペシャルドラマ、色恋の日々(春の訪れ)の収録の日が来た。