レッスン
本格的なレッスンが始まってから、半年が過ぎた。発声滑舌やエチュード、台本芝居などの演技指導、体作り、社会のマナーに至るまで行われた。演技もある程度はできるようになった。まだ未熟だが、エキストラや再現VTRなど、少しずつ仕事が増えていた。しかし、オーディションを受けても審査が通らず、今も悔しい日々が続いている。最初からうまくいくなんて思ってはいなっかたし、この仕事がそんなに甘くないことも、分かっている。ましてや、俳優を志すものが多いなかで、彼自身が通用するとも思っていなかったようだが、なかなか芽が出ないのは苦しいことである。ライバルもどんどん増えている。それだけこの世界には、夢が溢れているのだろう。
「白斗ちゃん?ハ・ク・トちゃん。」
(現実は甘くない。)
「まだレッスン中でしょ?集中しなきゃだめよ。演技もまだ未熟なんだから。」
「あ。はい。すみません。」
「ただでさえ他の俳優さんと比べて冴えないんだから。」
「はぁ…」
「もー!ほらこれ見なさい。」
東昇 光。今、最も旬なイケメン俳優で、モデル、タレントとしても活躍している。現在は朝ドラに出演しており、老若男女から絶大な支持を受ける。去年の日本アカデミー賞では、主演男優賞にも選ばれた。白斗が初めて撮影に行ったドラマにも、ゲスト出演をしたらしい。彼にとって、まさに天と地の存在である。
(東に昇る光って、狙ってんのかよwまあ俺も、名前的には負けてねーけどな!)
「ああもう素敵よねー、光様なんて凛々しいの。」
(ああこの人?誰かって?俺を担当することになった、インストラクターだよ。まあ分かってる人も多いとは思うけど、彼女?はオ・ト・コよ!俺もね、レッスン初日期待に胸膨らませていた。)
半年前、白斗はやる気に満ち溢れながら、事務所内にあるレッスン室に向かっていた。
「よーし!今日から頑張るぞー!みどりさんのためにも!」
レッスンは他には珍しく、基本的にマンツーマンで行われるらしい。日によって例外はあるが、所属者が少ないためそのようにしているようだ。
「さーて、どんな人が指導してくれるのかなー。新たなヒロイン登場もあるかも!」
そんな妄想を膨らませているうちに、レッスン室の前に到着した。
「よし!ついた!みんな!おまたせ!美人インストラクターとの密着ドキドキレッスン編スタートです!失礼しまーす!」
ドアを開けるとそこには、長髪の男性が立っていた。
「やっときたわね。うーん…想像してた感じとは違うけど鍛えがいがありそうね!」
「え…えっと男の人?ですよね?」
「あらやだ!失礼しちゃう!あたしをどうみたら男に見えるのかしら?」
「いや、えっと…」
「もー!まあいいわ、それにしてもあなた冴えないわねー。あとちょっとでカッコよくなりそうなのに。」
「はぁ…」
「自己紹介まだだったわね。私の名前は冥府 純。今日からあなたを担当するインストラクターよ。よろしくね。」
(オネェさんでした。な?甘くないだろ現実WW)