表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6話 絶体絶命



 覚悟を決めた僕は、ライオルに向かって駆け出した。


「ふん!」


 思い切り木刀を振り下ろすと、簡単に避けられてしまう。やっぱり、速い。

 連続して攻撃を続けるものの、すべてを躱されてしまう。


『先ほどよりも段違いに速いではないか』


「そりゃどーも!」


 言いながら、再び攻撃を仕掛ける。


『だが、そんな攻撃は当たらんな』


「くそッ!」


 ライオルに攻撃をいくら仕掛けても、すべてを避けられてしまう。幸いなのは、ライオルが攻撃してこないことだろうか。

 けれど、僕が一方的に攻撃する時間は終わりを告げた。


『こちらからも行かせてもらうぞ』


 速い!

 瞬時に僕の後ろに回り込み、前足で僕の体を掻き切ろうと振り下ろす。

 そのすべてが見えていた。

 確かに速い。速いけれど、見える。先ほどと状況は違うのだ。


「これなら」


 後ろにステップして避ける――はずだった。


「ッ!?」


 胸にある裂傷と、同じ場所に痛みが走る。

 傷を抉られたのだ。

 でも、どうして。どうして届いた?

 僕は避けたはずだ。後ろに下がれば、当たるはずのない攻撃なはずだ。


「なんだ、いまの」


『教えてやる義理なんてないが、教えてやろう。我は影を操れる。貴様が見ていたのは影だ』


「そういうスキルが、あるのか」


 ステータスをチラ見すると、HPが25になっている。

 やっぱり、確定でHPを半減させる攻撃だ。


 歯を食いしばり、逃げるかどうか、考える。


『来ないのか? 来ないなら、こちらから行かせてもらうぞ』


 明らかな挑発――けれど、乗るしかない。


「後悔するなよ」


 再び、僕の木刀が空を切る。


 やっぱり当たらない。

 動きは見えている。ライオルの動きは見えているのだ。なんなら、僕より遅いかも知れないのに。僕はそれだけ速くなったというのに。

 当たらなければ、ジリ貧だ。

 思わずヤケクソになって木刀を降っていると、思わぬカウンターがきた。


「うおっ」


 前足で木刀を打ち払われ、手から離れる。


『そのような攻撃、当たると思ったか』


 怒りを感じる。

 思わず目を逸らすと、腹部に鈍痛がやってきた。


「うっ……」


 視界にいっぱいに広がるライオスの体。突撃したのだ。


「また、確定半減……」


 もしかして、半減攻撃しかできないのか?

 そうだとしたら、僕は死ぬ心配なく戦える。


 淡い希望を抱きながら、後ろにステップする。

 真っ直ぐにライオルを見ると、睨み返された。強い殺意を感じた。体が震え、足が竦む。

 死ぬ心配がない? 本気か? 何を馬鹿なことを。


 例えライオルの攻撃がすべてそうだとしても、ほかの雑魚敵にちょっとしたことで殺されてしまう。


 逃げるか。

 戦うか。


 答えは出ていた。



 体を反転する。思い切り踏み込んで、僕は駆け出した。


『逃げるか、臆病者! 我はすべての同胞の危機がわかる! 貴様が我が同胞と相対するとき、それが貴様の命日と知れ!』


 ライオルの叫びが、心の奥底に沈んでいく。

 まるで楔のように。


 思わず、僕は立ち止まった。


 ライオルはヒーローだ。

 同胞を、仲間を見捨てない。

 仲間のためなら、半減攻撃しか出来なくても戦いを挑む。決して自分でトドメを刺すことはできないというのに。


 対して、僕はどうだ。

 いま、逃げようとしている。勝てないからだ。攻撃が当たらないからだ。

 でも、ヒーローは背を向けるのか?

 ずっと、ずっとヒーローに憧れていた。

 ヒーローは、攻撃が当たらないくらいで逃げるのか?

 このライオルは強い。速い。

 ほかに生存者がいれば、どうなるか。

 まず間違いなくスピードに追いつかず、死んでしまう。僕はたまたまレベルが上がっていて、ポイントも余っていた。

 だから、ライオルのスピードについていけるようになった。


 だけど、普通はレベルが上がればポイントを振る。

 少しずつ強くなっていく。

 僕は一気にAGIだけを上げた。必要だったから。


「……逃げられない」


 空を見上げる。

 朝焼けはとうに過ぎており、青く広々とした空があった。穏やかに雲が流れ、風が吹く。


「ライオル。僕は――逃げない。例えここで死んでも、ライオルを倒して、ほかの人の脅威を少しでも減らす」


 振り返り、ライオルを真っ直ぐに見つめた。


『よかろう。ならば――全力でかかってくるが良い』


 僕は踏み込んだ。

 思い切り前に出て、一瞬でライオルの目の前に出現する。――同時に、木刀を振り下ろした。


 でも、このままじゃ避けられるのはわかりきっている。


 ライオルは振り下ろし攻撃に対して、比較的右に躱すことが多い。

 ライオルが動き出そうとする瞬間に、木刀を横に滑らせた。


『むっ』


 カァン!

 と、甲高い音を立てて木刀が弾かれる。


「当たった……!」


 当たった。ようやくだ。

 これでまず一歩前進。


『残念だ』


 ライオルが悲しそうな雰囲気を出し、僕の体を吹き飛ばす。


 動きが見えなかった。

 これまでは手を抜いていたのか。


「くっ」


 HPが12になっている。

 けれど、攻撃は当たる。当てられるのだ。


 もう一度同じようにフェイントを仕掛けつつ攻撃すると、今度は避けられてしまった。


『同じ攻撃が通用すると思っているのか、貴様は』


 言いながら、ライオルは僕を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされる度に50メートルほど離れてしまうけれど、いまの僕にとって50メートルなんて一歩に等しい。

 再び――次は別の軌道で木刀を振るう。

 けれど、当たらない。


「なんで――ゴフッ」


 尻尾から斬撃が飛んできた。

 そんなこともできるのか。

 胸と腹に深い傷があった。不思議と痛みは感じない。

 だけど、もうHPは1になっている。


『まだ、立ち向かうか。我の攻撃は敵ノHPを半分ずつしか削れぬが――残り1ならば仕留められる』


 僕は立ち上がって、ライオルを真っ直ぐに見ていた。

 風が心地よい。

 どうして僕は、こんなに必死なんだろうって。

 ちょっと前の僕だったら思ったかもしれない。

 だけど、いまなら。


 周りに人の気配を感じる。気配感知のレベルを確認すると、5に上がっていた。5に上がると、細かい気配や、人間か、トラかの区別がついた。


 何人いるのか数えてみると、30人ほど生きている。けれど町中だというのに、これだけしか生き残っていない。

 目の前のライオルの配下がやったのだ。あのトラたちだ。


「僕は、負けるわけにはいかない。負けても、これ以上ほかの人を殺させない」


 そして、僕は呟く。


「command:release」




ちょくちょく更新していければと思います……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ