第5話 戦闘準備
「そろそろ帰ろうかな」
少しずつ空が白み始めていることに気付き、家からも1kmほど離れていることに気付いた。
思ったより遠くに来てしまっていたようだ。トラを狩るのに夢中で、すっかり時間も場所も忘れていたらしい。
「レベルも相当上がったんじゃないかな? ステータス」
* * *
name:神楽坂・朧
sex:男
level:11
job:no entry
HP:100/100
MP:100/100
STR:92
VIT:10
DEX:10
AGI:105
INT:10
LUK:10
LPT:536
skill:祝福・コンボ・武器製造Ⅰ・気配感知Ⅳ
SPT:60
title:新世界初討伐者『command:release』
* * *
レベルが11まで上がっている!
レベルポイントとスキルポイントも大量に貰えたことだし、鑑定やら何やらを手に入れて……武器も作りまくって性能のいい武器を手に入れよう。
そう考えたところで、気配感知の隅っこに何かが入り込んだ。凄まじい速度で僕の下へ向かっているようだ。一直線に、最短距離で。
「なに……? 嫌な予感がする」
動きが早い。レベルが2から4になった気配感知の索敵範囲は1000m。200mを1秒もかからない速度で向かってきている。
あと数秒で辿り着く――そう考えた時、僕の胸に大きな裂傷が走った。
「いっ!?」
同時に勢いよく吹き飛ばされ、空中で体勢を立て直す。くるって回って地面に着地した。
『貴様が、我が同胞を討ったというのか』
地獄の底から響いてきそうな声に、体がぶるりと震える。
声を発せないまま、このままでは死んでしまうという確信が胸の中を駆け巡る。
引き裂かれた服。パックリとあいた傷口。
『安心しろ。貴様は楽には殺さん。死なぬ程度に痛めつけてやる』
だからか、と深い納得をする。
僕のHPはごみみたいなものだ。たった100しかない。ステータスを出現させて見てみると、50/100になっていた。もしかして、HPを確定で半減させる攻撃とかそんなのだろうか。
ゲーム的思考が、僕の考えを邪魔する。
どうやって逃走するか。どう考えても僕より奴のほうが確実に足が速い。
今まで散々殺してきたトラの親分らしく、その体は一段も二段も格上で。
楽に倒してきたトラとは違って、苦戦は免れない。
「僕は、死なない。こんなところで、死ねない! やっと役に立てる! やっと僕を必要としてくれる! そんな世界になったんだ。だから、お前なんかに殺されるわけにはいかないんだ」
『ほう。――ならば、絶望とともにその身に刻め。我が名はライオル。貴様を屠る者の名だ』
ライオルと名乗ったトラから溢れ出る威圧は強い。勝手に体が跪こうとするほどに、僕の体は震えていた。
けれど、僕はまだ死ねない。ようやく巡ってきたチャンスなんだ。
ステータスを思い浮かべて、とても多いLPTをすべてAGIに注ぎ込んだ。これで僕のAGIは600オーバー。これでもライオルに追いつけないなら、僕にもう勝ち目はない。
……STR、いらないよね? 追いつけないとパワーがあっても意味ないし! いらないはず!
次にスキル一覧を見た。なぜか待ってくれているライオルに感謝しつつ、僕はスキルにSPTを使う。
* * *
skill board:防具製造・HP回復速度上昇・MP回復速度上昇・急所突き・鑑定・インベントリ・必中・暗視・鷹の目・回避・タフネス・刹那
* * *
すべてで5つもの獲得可能スキルが増えている。
それらの効果を流し読みし、スキルを選んだ。60ポイントもあったのに、残り2ポイントしかない。
けれど、スキルの効果がとても良い。これなら、追いつけるかもしれない。
『準備は整ったようだな』
取得したスキルはすべてで4つ。
LUKは限りなくないに等しいけれど、ないよりあるほうがいいと判断したのだ。必中はLUKに依存するパッシブスキルだ。
相手の攻撃が素早く、僕の体力が紙に等しい以上、できる限り被弾を少なくしないといけない。そう思って、回避スキルを取った。これもパッシブスキルで、1%の確率で敵の攻撃がめちゃくちゃ遅く感じるらしい。
戦いが長丁場になる可能性を考慮した。だから、疲れにくくなるというパッシブスキルのタフネスの出番だ。
ラストに刹那というアクティブスキルだ。これはMPの80%を消費して、刹那の時間を10秒間に引き延ばすスキルらしい。刹那というのは時間の単位だったはず。1秒にも満たない時間が10秒になるのだ。これほど有用なスキルはない。
必中で5ポイント、回避で15ポイント、タフネスで8ポイント、刹那で30ポイントだ。
「……これで無理なら、どうしよう」
本当に、どうしよう。
これが今の僕の全力だ。
これで敵わなかったら、逃げるしか道はない。
……ただ、逃げられるかどうかが一番の問題だ。