第4話 夜間探索
ステータスを確認して、驚きに目を見張る。
HPとMPはそれぞれVITとINTと連動しているからこの数値なのだ。
けれど、各ステータスの横にプラス数値が付いていることが気になった。あと、タイトルというのも。どう考えても、このタイトルというのが関係している。
詳しいことを見るために、新世界初討伐者の詳細を出した。
内容は、20分間に渡り各ステータスが1.5倍になる、アクティブスキルのようなものだった。いつでも使えるということではなく、クールタイムが24時間必要ということがもっとも大切だろう。
なるべく、このスキルは温存しておこう。
「レベル3か……」
いまの戦闘で2つもレベルが上がっている。戦った感触としては、確かに強かった。でもそれは、戦闘経験のない素人の僕からしたら、である。
もっと簡単に勝てたかもしれないだとか、考え始めればキリがない。
まぁ、上がったものは良しとしておこう。貰っておいて損はないのだから。
そして、LPTが34、SPTが5に増えていた。
祝福の効果を考えると、純粋に貰えたのはLPTが4でSPTが2だ。つまり1レベルごとに2と1ずつ貰えるのだろう。
……祝福を取っておいて本当に良かった。こういうのは序盤が大切だと、メイ○ルストーリーで学んでいる。
まずはステータスの振り分けだ。せっかく新世界初討伐者というスキルがあるので、ここはSTRかAGIだ。
攻撃力に関して言えば、コンボを繋げることによって上げることができる。いま思えば、最後の1匹を倒した時に爆発したのは、コンボの影響なのだろう。
「てことは、コンボは同一個体に対する連続した攻撃ではなく、その戦闘における連続して命中した攻撃、かな」
コンボは、やっぱり壊れ性能のようだ。
威力は十分足りている。だから、ここはAGI一択だ。
僕はすべてのLPTをAGIへと割り振り、139に上昇させた。これで、僕はさらに動きが速くなる。攻撃を避ければ防御なんていらないのだ。
「次は、鑑定か、それとも武器、か……」
正直、どちらもほしい。だけど、鑑定は4ポイントを必要とし、武器は3ポイント必要とする。あと2ポイントあれば悩む必要はなかったのに……!
「悩む。めっちゃ悩む!」
武器は大事だ。だけど、あの物干し竿で十分通用していた。思っている以上に、物干し竿は頑丈らしい。
そして、鑑定。鑑定があれば、あの野犬の名前が、レベルが、わかるかもしれない。どういう野犬なのかがわかるかもしれない。
「……武器は、物干し竿がある。最悪、包丁も。でも、鑑定の代わりは……ない」
決めた。
武器を作ろう。
生理的に、あのぐちゃぐちゃ死体に塗れた物干し竿を使いたくない。
それに、次レベルが上がるとどのみち鑑定を取ることができるのだ。
「……あんなことがあって、もう戦いのことを考えられるって、僕っていったい……」
自分で自分のことを疑いながらも、武器製造を使った。現れた武器は、木刀だ。
「綺麗だ」
まっさらな木刀。まだ誰も使っていない木刀だ。
僕は木刀を構えてみて、ふっと笑う。
「よし、行こう。外に」
きっと外は危険だ。あのトラみたいなのが、うじゃうじゃいるに違いない。そして、トラに悩まされている人も多いはずだ。
「僕なら、助けられる。いまの僕なら、役に立てる」
これまで、仕事でも、プライベートでも、人の役に立つどころか、迷惑をかけることばかりだった。
仕事では失敗続きだ。でも、みんな優しい人ばかりで、全然叱られない。呆れられているのかもしれない。
プライベートでは、僕はバカみたいなことをする迷惑野郎だ。好きな人ができて突撃すると、ストーカー扱いされてしまう。
そんな僕が、誰かの役に立てるかもしれない。ずっと蔑まされていた僕を、認めてくれるかもしれない。
思い立ったがすぐ行動だ。
僕はいつも付けている機械式腕時計を確認したあと、非常用リュックを背負い、木刀を片手に、トラの死体を超え、外に出た。
なんだか、とても久しぶりに外に出た気分だ。
時刻は0時57分。もう少しで、1時だ。おそらく異変が起きたのは0時ちょうど。もうすぐ、1時間が経つのだ。みんな異変に気付いているだろう。
「ここからが、僕の人生の始まりなのかもしれない」
気配感知のレベルが上がっていた。範囲は広くなったけれど、精度はよくない。
何かがいるな、程度にしか感じ取ることができないのだ。
ただ、レベルが2になったことで、索敵範囲が5mから10mに伸びた。すごい進歩だ。
常に気配感知を気にしつつ、マンションを出る。
――暗い。とにかく暗い。
街灯もなく、家の明かりもない。今日の天気が曇りなことも影響しているからか、真っ暗闇だ。
僕は周辺地図を頭の中で描きながら、気配感知を最大限に活用する。
「グルァ!」
吠える。トラが僕に飛び掛かり、僅か30cmまで近づいたところでようやく視認できた。けれど、気配感知でなんとなく捉えていたから、迎撃準備はできている。
木刀でトラを横一文字に攻撃すると、「きゃうん!」と鳴いて動かなくなった。同時に気配感知からも姿を消した。
「よし、やれる。やれるぞ」
暗いけれど。
危ないけれど。
ここからだ。正念場だ。まだほとんどの人が気付いていないか、それとも怖くて外に出てきていない。
レベル上げにも最適だ。
僕はトラを殺し続けた。
* * *
なんだ……?
同胞が凄まじい勢いで殺されている。なぜだ。なぜだなぜだなぜだなぜだ!!
まだ、覚醒の時から3時間だぞ!
もう、動ける者がいるというのか……?
あり得ない。許さない。
同胞の仇、我自らが討つ!
覚悟せよ、人間!!