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第3話 戦闘突入

 

 玄関の外に何かがいる。気配感知でそれを理解しつつ、何かが、何体かいるという程度しかわからないことに恐怖を覚えた。

 恐る恐る玄関に行き、覗き穴からドアの外を見る。すると、トラのような生き物が3匹もいた。野生のトラか? 涎が絶えず出ていて、動物園のトラより凶暴な顔立ちをしている。


「……っ」


 まるで僕が、人間がここにいるのがわかっているみたいだ。ドアにガンガン体当たりを繰り返している。


「何か、何か武器だ。武器が……」


 武器になりそうなもの……包丁? いやいや、包丁は食べ物を切るための調理器具だ。包丁は使いたくない。

 それに、うまく扱えるかわからない。剣道を学校の体育で教わった程度だ。

 僕は1Kの部屋を見回し、ベランダに物干し竿があることを思い出す。丈夫だし、伸び縮みするし、これならいけるか……?


「いや、重いかな」


 振り回すには重いかもしれない。


「待て待て。僕のSTRは約18倍……いける!」


 もしこれがゲームと同じなら、物干し竿なんて軽々振り回せるはずだ。

 ベランダからは気配を感じない。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら、ベランダに繋がるドアを開けた。


「ふぅ、ふぅ」


 緊張でやたらめったら汗をかいてしまう。

 ズボンで手汗を拭き取り、物干し竿を持った。軽い。とても軽いぞ。

 一番短くして1mと少しの長さに収まる。最長で3m50cm程度の長さになると思えば、まるで如意棒のようだ。


「これで、いける、はずだ」


 ベランダから部屋に戻り、ドアを閉め切る。鍵もきっちり掛けた。

 玄関へ移動してドアを見ると、金属でできているはずなのに歪んでいた。あのトラのような生物のせいだろう。


「くそ、僕の家を……あとで修理代請求されたらどうするんだ!」


 悪態をつき、右手に持つ物干し竿を握りしめる。


「いける、いけるはず。僕のSTRは92だぞ? そんじょそこらのトラに負けるはずがない……」


 鑑定があれば、こいつらの名前と強さもわかるのだろうか。鑑定を取っておけばよかった。今度は、絶対に鑑定を取ろう。

 クロックスではなく、動きやすい服装のときに履いている運動靴を履く。

 もしかしたら、家を捨てて逃げないといけないかもしれない。


「一応、避難用リュックを……」


 そう思い、ドアから視線を外す。


 ――刹那、ドアが物凄い音を立てた。


「うわっ!」


 思わず尻餅をつく。

 僕は鼻と口の先にあるトラの凶暴な顔を見た。絶対に、僕が目当てだ。逃がさない、と強い意志を感じる。

 慌てて立ち上がり、テレビでたまに見る野球のバッターのように物干し竿を構えて振った。鈍い音が鳴り、トラが短く悲鳴をあげた。


「やったか……?」


 大きく開いた穴から覗こうとしたら、トラが突っ込んできた。

 ドアは耐えられず、トラが入れる程度の穴が開いた。ライオンと同じ大きさで、鋭い牙を持っている。ライオンと言われても「ああ、そうなんだ」と納得してしまいそうだ。

 トラの突進をピッチャーの球だと思って、思い切り物干し竿を振り抜いた。弾き飛ばされたトラはグシャっと潰れて、壁に激突する。


「よし! やった、やったぞ!」


 1匹のトラが動かない。死んだのだ。

 けれど、残りの2匹は健在だ。警戒したように僕を睨み――2匹同時に飛びかかる。


「それは、ズルイ!」


 数の暴力は偉大だ。物干し竿を真上から振り下ろし、先に前に出たトラの脳天を強打した。頭が潰れ、グロテスクな光景が広がる。

 そのショックを受けるより早く、後続のトラが飛びかかってきた。今度は物干し竿を思い切り振り上げ、トラの腹を直撃させた。

 瞬間、最後のトラは爆発したかのように粉々になった。


「うぇぇ……」


 今度こそ耐えきれず、吐いた。トラのグロテスクな死体の上に、吐いてしまった。

 吐くのはいつ以来だろう。きっと、2年前に行った祭の帰り道だ。あのときは酔っ払いすぎて、吐いてしまった。


「けほっ、けほっ」


 心臓がばっくんばっくん激しい鼓動を繰り返す。

 信じられない思いで、僕は物干し竿をその場に落とし、部屋に入った。


 キッチンと部屋が扉で区切られていて本当に良かったと、心底そう思う。


「くそ、クソッ! なんでこんなことに!」


 初めてだ。蚊や蟻以外の生き物を、初めて殺した。

 この手で。


 手が震える。

 足腰に力が入らない。

 崩れ落ちるようにして、いつもの座椅子に座った。



 しばらく呆然と天井を眺めていると、ふとステータスのことを思い出した。


「……そうだ、ステータスの、確認を……」


 もう、憔悴仕切っていた。ステータスの前に、机に置いている、飲みかけの水が入ったコップを口につけて傾ける。

 少量の水を飲み込み、少しでも気持ちを落ち着かせる。


「ステータスが、見たい」


 強く、ステータスを思い浮かべた。


 僕は表示されたステータスを見る。


 *   *   *


 name:神楽坂・朧

 sex:男

 level:3

 job:no entry

 HP(体力):94/100(+200)

 MP(魔力):100/100(+200)

 STR(力強さ):92(+20)

 VIT(耐久力):10(+20)

 DEX(器用さ):10(+20)

 AGI(敏捷性):105(+20)

 INT(精神力):10(+20)

 LUK():10(+20)


 LPT:34


 skill:祝福・コンボ・武器製造Ⅰ・気配感知Ⅱ


 SPT:5


 title:新世界初討伐者『command:release』


 *   *   *



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