幼女の料理修行とウロウロ
少しずつ、足を運んでくれる方が増えてますぜ。ウェーイ!
「前後でこんなに雰囲気壊しているのにな」
それは言っちゃいかんやつですぜ……
フロイトに色々指摘され、自分なりに改善した結果、少しずつ頼られる事も増えていった。
が――
「……ご、ごめんなさい」
最近のアンナの家の朝食には、オムレツや卵スープが必ず並ぶようになった。
理由は単純で、私が卵を割る練習をして――ものの見事に惨敗を繰り返しているからである。
掃除に洗濯、裁縫は、得意とまではいかずとも、一通りこなせるのだが、料理に関してはほぼ壊滅状態だった。
卵を例に挙げると、殻にヒビを入れる段階で、十中八九黄身が潰れる。
仮に潰れずとも、左右に殻を開く際に指、もしくは殻に引っ掛かるらしく、ボウルには必ず崩れた黄身が現れる。
殻の破片が一緒に入り込んでいるのは、言うまでもない。
これでもマシになった方で、初めの内はヒビを入れる段階で、殻が粉々になり、手が卵まみれになっていた。
他にも、食材を焼けば焦がすか半生。
調味料はきちんと計っているハズなのに、味は毎回バラバラ。しかし、安定して不味い。
揚げ物は、さすがに挑戦していない。私がすると、油はねでは済まない自信がある。
これはアンナマリアの頃に、食事は教会や外食に頼りきっていた報いなのだろう。
父さまは勿論、母さまも美味しい食事を作る。
間違いなく、アンナマリア遺伝だ。
四歳になった今でもやはり、卵は上手く割れないが、得意分野は見つかった。
切ることである。
魚は三枚に下ろせるし、パイは音をたてる事なく六つに均等に切れる。
カボチャ等の固いものも切れるし、何なら肉の解体も可能だ。
……若干、思っていた料理とは違う気もするが、重宝されているので良しとする。
ちなみに、私の失敗した料理は、父さまが美味しく直してくれる。さすがに焦げた部分はどうしようもないが。
毎回困ったような顔だが、少し嬉しそうに手直ししてくれる。
そんな父さまに甘えきって、今日も料理の練習をするが、一向に上手くなる気配がない。
アンナマリアの時はともかく、今回は生涯独身で人生を終えるつもりはない。
いつか妻として、美味しい手料理を振る舞う事が、最近の私の野望である――。
◇◆◇
「……いい加減、すわれよ」
私は現在、フロイト宅のリビングを往復している。
いつも彼とは公園で遊んでいるのだが、今回、彼の家にお邪魔しているのには訳がある。
母さまの体調が思わしくないのだ。
我が家は、私を含め健康が取り柄である。
この四年強、誰一人として風邪も引いた事はなかった。
昼の営業が終わり、夜の営業準備を始める前に、母さまは、父さまに付き添ってもらい病院に向かった。
その間、私はフロイトと彼の母にご厄介になっているのである。
幸いなのは、ここが王都できちんとした施設が揃っている事だろう。
地方に行くと、診療所はおろか医者さえ居ない村なども珍しくない。
それに、母さまの顔色もそこまで酷い訳ではなく、父さまも冷静だった。
風邪は引きはじめが肝心だと聞いたことがある。つまりはそういう事なのだろう。
「……あー、もう!はい、すわるっ!んで、ジュース!!」
しかし、理解する事と無意識の行動は別の問題である。
この家のリビングは適度に広く、一階のため階下への物音を心配する必要もない。
何とも魅力的な往復スペースだったが、フロイトによって強制的に終了させられた。
折角なので、渡されたジュースをいただく。
「ロイ、風邪を引いた時って、何を食べる?」
「……おかゆ?」
「私に作れるだろうか……」
「おじさんに任せればいいじゃん。つかオマエは、リンゴのすりおろし以外はやめとけ」
フロイトは私の料理の腕前を理解している。
且つ、遠慮なく物を言う。
今回も、何とも有難いアドバイスをもらった。林檎のすりおろし、なるほど。
「――アンナちゃん、お迎えだよ」
暫くすると、フロイトの母が声をかけてくれた。
どうやら病院帰りにそのまま寄ったらしく、玄関には両親揃って待っていた。
「アンナちゃん!」
手の届く距離まで行くと、待ってましたとばかりに、母さまに抱き締められる。
何だかとても元気で上機嫌だ。父さまもどことなく嬉しそうである。
とにかく、大きな病気とかではなさそうなので、一安心だ。
「聞いて!アンナちゃん、お姉さんになるんだよ!!」
「……ん?」
それは一体、何を食べれば治る病気なんだ――。
アンナちゃんの得意料理は何ですか?
「刺身だな。ツマも用意できるぞ」
……渋いな(´-ω-`)
サラダとかの方が、可愛らしくないっすか?
「ドレッシングが作れん」
なるほど(´・ω・`)