戦乙女は赤子となる
これにて一章完結となります。
西の王国クライヒの王都、ハオプト。
太陽がほとんど沈み、薄暗くなってきた道を、外灯や家の中から漏れ出る灯りが照らす。
この日の騎士団の仕事を終えたアンナマリアは、一軒の定食屋へと足を運んだ。
若い夫婦で切り盛りしているこの店は、立地や食事のボリューム等から、多くの騎士の行き付けとなっている。
アンナマリアも、王都にいる時はよく利用していた。
夫が料理を振る舞い、それを妻がテーブルに運ぶ。
仲睦まじい光景だが、そろそろ一度見納めだろう。――彼女のお腹では、新しい命が存在を大きく主張していた。
「――随分、大きくなったんだな」
そんな事を聞いたのは食後、空いてきた店内で彼女と世間話をしている時だった。
聞くと、出産の最終準備のために暫く店には顔を出さなくなるらしい。
その間と出産後しばらくは、夫と彼の母親に任せるらしい。
「そうか。暫く会えないのは残念だが、今度店に来る時は、出産祝いを持って来るとしよう」
そう言って、アンナマリアは料金を置いて店を後にした。
――そう、覚えている。
結局あの直後、件の大戦が勃発して私も駆り出され、そして……死んだ。
約束を守ることは出来なかったが、もう一度生きられるのならば――出産祝いは、何が良いだろうか。
◇◆◇
「よく頑張ったな。可愛い女の子だ」
「そう。ふふっ、これで私も母親だね」
「あぁ。そして俺は父親だ」
「それで、この子の名前なんだけど……」
「決まったのか?」
「"アンナ"。……どうかな?」
「アンナマリアさんからとったのか?」
「うん。美しく、凛としていて、あんな風にしっかりと自分を持っている子に育ってほしいなって」
「そうか。きっとアンナマリアさん驚くだろうな」
――定食屋の夫婦が、産まれたばかりの赤子を挟み、嬉しそうに会話しているのが聞こえる。
他人から己の率直な評価を聞くというのは、何ともむず痒いものである。
ともあれ私は無事に、定食屋【ワンコの垂れ耳亭】を営む夫婦の娘として生まれ変わったが――この場合、出産祝いはどうしたものだろうか……。
大戦の勝利と【白の戦乙女】の死が公表されたのは、この翌日の事である――。
【ザックリ登場人物まとめ】
◆アンナマリア
主人公。二つ名は【白の戦乙女】。
定食屋の娘・アンナとして転生。
◆ベルンハルト
【黒の武将】が二つ名の騎士。
何故かアンナマリアからは"ハル"と呼ばれている。
◆レギリオ
少年の姿の神様。
戦の女神が怖くて、アンナマリアを早急に転生させた。
◆戦の女神
アンナマリアに【恩寵】という力を与えていた。
アンナマリアのチートの要。
その他、既に出番を終えた方や、後書きで登場した方は割愛。