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戦乙女の帰還  作者: 鷺草
乙女の再出発
37/44

乙女は活動休止中


個人的に、そろそろアンナママが過労死しないか心配です( ノД`)……


「基本的に、私かエルヴィン(ルヴィ)を抱いて寝れば問題ないらしいぞ」


(…こやつらはいつ、親離れ・子離れするんだろうか(´Д`))





「ヴァイス、散歩に行くぞ」

「はいな!」


昼の営業が終わり、再び日課に戻りつつあるヴァイスとの散歩に出かける。


現在、私は傭兵活動を休止している。

原因は、この間の依頼で手に入れたビーネン蟻の蜜である。


あのときは特に深く考えず採取し、単純に四分の一を貰ってきた。

しかしながら、我が家の四人と二柱、一匹をもってしても、やや消化に手こずる量であった。


反則技を用いて採取した蜜は、不純物が少なく品質が良かったため、無くなるまでの期間限定で、ビーネン蟻の蜜を使用したデザートを【ワンコの垂れ耳亭】で提供する事にした。


――が、これが見事に失敗した。


期間限定デザートの提供開始日の朝、いつものように【ツンフト】本部へ向かうために家を出ると、既に我が家の前に複数の待ち人が居た。

今回のデザートの件は来店してくれた騎士や魔獣課職員に、雑談ついでに伝えた程度である。

待ち人はその人達から聞いて集まった、ご新規のお客らしい。


「……申し訳無いが、我が家は昼からの営業で、朝は行っていない」

「待てるから大丈夫よぉ!」


私とそんな会話を交わしたのは、以前魔獣課でヴァイスが世話になった――具体的には、ヴァイスが喜びの舞を披露するために扇を借りた――マダムである。

そちらが問題なくても、こちらが全くよろしくない。

後で聞いた話だが、ビーネン蟻の蜜は単に健康に良いだけではなく、美容にも良いという事が分かり、最近一段と人気が高まってきた所だったという。


「さっすが姐さん!わっちの雇用といい、商売させたらピカイチやねー」


ヴァイスは呑気にそんな事を言っていたが、我が家はヴァイスを雇用したつもりはない。

確かにヴァイスは接客の手伝いを買って出てくれているが、従業員ではなく家族と捉えているので、特に給料を渡したりしてはいない。

たまに貰うお小遣いを貯めて、アイマスクやアロマといったベッド周りの小物を新調している様子ではあるが。


そもそも、私を追って我が家に来たヴァイスに名前を付けたのも、家に置くことに決めたのも、母さまである。

「食べきれないならお客さんにお裾分けしよう」と、今回の期間限定デザートを考案したのも彼女だった。

商才があるのは間違いなく、私ではなく母さまである。


ともあれ、初めて【ワンコの垂れ耳亭】の開店前に行列が出来たこの日から、私は一時、傭兵活動を休止する事となった。

どこぞの本部長殿は、早く私のランクを上げて大きな依頼を片付けて欲しいそうだが、知ったことではない。

彼だって、「自分はまだまだ若い!」と息巻くAランクなのだ。

本部長職との兼任くらい、大した問題では無かろう。


ところが、着々と蜜の在庫が減ってきた数日後、事件は起きた。


「やっと見つけたわ、アンナ!ここで会ったが百年目、私と勝負なさい!!」

「営業中の店内で騒ぐな」

「うっ……」

「いらっしゃい。ご注文は?」

「日替わりランチセットを!」


きちんと行列に並んで漸く入店を果たしたフランメは、私を見つけた途端に、その行儀の良さをかなぐり捨てた。

しかしながら、注意をすれば反省をするし、何だかんだちゃんと食事を取りに来た辺り、可愛いものである。


問題は彼女の妹だ。


「アンナさん、こんにちはー。つまらない ものですが、てみやげです。どーぞー」


シェスターが持ってきたのは、七割ほど残っている件の蜜である。


「あきました。よって、アンナさんに むりょーで しんてーます」


進呈と言っているが、ハニーポットを置いたその手には、シェスターの武器であるポンポンが握られている。

そのポンポンがハニーポットに向けられている事からしても、事実上「引き取れ」と脅されているのと同義である。

私とてこの忙しい中、店内に散った蜜や壺の欠片など、片付けたくはない。

お客側も、自分達が食べてる側で掃除などされたくはないだろう。


仕方がないのでシェスターの持ってきたビーネン蟻の蜜も引き取り、ちゃっかり私の奢りでシェスターも日替わりランチセットを食べて帰った。

【ワンコの垂れ耳亭】の期間限定デザートは絶賛延長中である。

その分も順調に量を減らしていっているので、この忙しさももう少しの辛抱だろう。


現在の私は、もっと差し迫った問題に直面している――。


◇◆◇


「うぅーむ……」

「やっぱ、えぇの有りませんかー?」


ヴァイスと散歩がてら、商業区の店先に並ぶ品を見て回る。


現在、最も差し迫った問題――弟エルヴィンの誕生日プレゼントである。


傭兵の仕事帰りや、今日のようにヴァイスとの散歩中に色々見てはいるのだが、未だにこれといった物には出会えていない。

父さまは毎年ご馳走を用意してくれているし、母さまも「カッコかわいい」なる服を用意したらしい。


「わっちも抜け毛集めて、前足サイズのマスコット作りましたんよー。魔獣課の皆さんに隠れて集めるの、大変やったんですから!」


ヴァイスも既に用意していると言う。

ちなみにヴァイスは私の誕生日に、前足サイズの木彫りのヴァイス像を贈ってくれた。

彼が言うにはあの時、抜け毛の量が足りなかったらしい。


ともあれ、プレゼントが決まっていないのは私だけである。

既にエルヴィンの誕生日は十日後に迫っており、私は一人焦っていた。


「……ん?」

「お、何かえぇのありました?」


残念ながらプレゼントの件ではない。


先程から、何やら視線を感じるのだ。

それも不快なものというよりは、「ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯……」といった、非常に執念を感じる視線だ。

何となく既視感を覚えそうで覚えない、絶妙な気分だ。


視線の先を見ると、路地の方からフラフラと女性が歩いてくる。

年の頃は二十といった所だろう、若干血走った目が印象的である。


魔力等、特に危ない気配はしないが用心していると、その女性はこちらに辿り着く前に倒れてしまった。

そばに寄ると、倒れて血走った目が隠された彼女の魅力が目に留まる。


少々やつれてはいるが、白くキメの細かい肌に女性らしい体つき。

長い髪は指通りが良く、長い睫毛は先程、血走った目をより際立たせていた。

ぷっくりと厚みのある唇から漏れる「ごはん……」の言葉が、彼女の執念深さを物語っている。


「姐さん、それ誉めてませんよ……」


どうやら私の語彙力では、彼女に相応しい誉め言葉を引き出せていないらしい。今後精進することにしよう。


それよりも、今は彼女をどうするかである。


行き倒れているであろう彼女を放ってはおけないが、我が家は「知らない人には関わるな」という家訓がある。

さて、どうしたものか――。


「――あっれぇ、この子……」


何かに気付いたのか、突如姿を現したのは戦の女神クリーナである。


「知り合いか?家を訪れた客には居なかったと思うが……」

「あ、そうじゃなくて。この子、【美の女神の愛し子(美しの子)】だと思うの」


その言葉に反応したかの如く、彼女のそばに新たな気配が現れる。


「あぁ!やっとこの子を色目で見ない子に会えたわ!!お願い、この子を助けてあげて!もう三日も食べてないのよ!!」


よほど慌てているらしく一気に捲し立てられたが、こちらの状況整理が追い付いていない。


「えっちゃん落ち着いてー。【戦の女神の愛し子(アタシの子)】が意味不明ーって顔してるから」

「あら、ごめんなさい。ワタシとしたことが……。ワタシは美の女神シェーン。【戦の女神の愛し子(リーナの子)】、お願い。【美の女神の愛し子(ワタシの子)】に今夜のご飯と寝床を与えて貰えないかしら?」


美の女神は、涙目で私に訴えかける。先程も言っていたが、よっぽと切羽詰まった状況なのだろう。

クリーナとも愛称で呼び合う仲の様だし、「知らない人」のくくりから彼女を除外しても大丈夫だろう。


私は彼女を抱き上げ、家へと足を向けた。


――それにしても、彼女が美の女神。

その名の通り、非常に素晴らしい肉体美である。


太ももは樽の様であるし、二の腕は私の顔くらいある。

発達した僧帽筋は、肩から首のラインを山のようなシルエットに仕上げている。


事前に紹介がなければ、男性の神と勘違いする所であった。

クリーナも若く見えるが、神の中でも一二を争うほど長い時を生きているらしい。

まったく、神を見た目で判断するのは、何と難しい事であろうか――。





【よくある質問10】

Q.美の女神って、オネェですか?


A.目を閉じ、美の女神シェーンを頭にイメージしてみましょう。浮かんだそやつが答えです。


(オネェなのか、ただただガタイの良いレディなのかは、皆様の想像にお任せします(´-ω-`))


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