乙女は開花した才能を発揮する
アンナちゃんが手に職を付けすぎていて、戦闘面の活躍が目立たない問題!
ハイスペック主人公書くのが、ここまで難しいとは……(´Д`)
「――ごじゅろーく、ごじゅなーな、ごにゅはーち。あと3びき です。がんばってくださーい」
シェスターの気の抜けるような声援が、私の耳に届く。
それでも気持ちとは裏腹に、身体には力がみなぎってくるのだから、【恩寵】とは不思議なものである。
私は本日も【ツンフト】から貸りている大剣に風の魔力を乗せ、残り三匹のビーネン蟻を縦に両断していく。
アンナマリアの頃から多用している、非常にシンプルな一撃である。
横に薙ぐと、折角彼らが壁に蓄えていた蜜が、彼らのアレやコレやで台無しになる。
シェスターが数えているのは、私達ペアのビーネン蟻の討伐数である。
最初の部屋の討伐を終えてから、細かな準備を整え、私達は二手に別れて引き続き依頼をこなしている最中だ。
ビーネン蟻の巣は、主軸となる一本の道が左右に枝分かれする形で、いくつかの部屋が造られている。
入口から奥の方を見ている状態で、右側をフランメ・フロイトのペアが、左側を私とシェスターの二人が担当している。
「アンナさん、アリさんに ごうかいです。ノーネさまに きいてた とおり」
二つ目の部屋の討伐を終えた私を見ながら、一人納得したように頷くシェスターは、どこか嬉しそうである。彼女の喜ぶツボが分からない。
ノーネから何をどう聞いたかは不明だが、私とて対象に素材としての価値があれば、それなりに注意は払う。
しかしながら、今回は利用できる部位が無いので効率重視だ。
討伐を証明する、左の触角さえきちんと取れれば問題ない。
その触角を十本ずつを束にし、それを更に別のロープで一纏めにした物を、現在はシェスターが管理してくれている。
ビーネン蟻が全て片付いた部屋で、かつてゼルドナに教えてもらった反則技を用いてこの部屋の蜜を採取していると、別行動のフロイトから魔水晶のタグ越しに連絡が入った。
『二部屋目終わったぞ。そっちはどうだ?』
「こちらも問題ない。現在は採取中だ」
『またそっちの方が早く片付いたの!?』
こちらとしては争っている意識はないのだが、フランメだけは対抗心剥き出しである。
「ねぇね、こっちは ろくじゅういち までいきました。そっちは どうですかー?」
『ふふん。私達は全部で六十五匹よ!』
『……うち二匹は、触角まで燃え尽きたけど』
『シーッッ!!』
途中経過の報告ついでに、チラリと頂けない情報も入ってきた。
今回の依頼には、ビーネン蟻の女王蟻討伐と巣穴の破壊報酬に、働き蟻の討伐数に応じて変動する追加報酬が存在する。
副産物である蜜での収益があり、その上での働き蟻の一匹二匹など誤差の範囲かもしれないが、今回の依頼の報酬は四等分する予定である。
なるべく働き通りの報酬が欲しいのは、私もフロイトも同じだ。
「むぅー……ねぇねに まけてられません。アンナさん、がんばりましょー。おー」
『ふっふっふ。望むところよ!』
『……取り敢えず壁は死守したから、こっちも採取頼む。それ終わったら次の部屋な』
「分かった」
どうやら対抗心を燃やしているのは、フランメだけではなかった様だ。
採取した蜜を壺へと流し込みつつ、一度会話を終える。
この壺は、即席のハニーポットである。
最初に入った部屋の綺麗に整備された床の一部を剥がし、そこから拝借した土に、私が魔法で生成した水と混ぜ合わせ形作る。
それらをフロイトの作る壁でドーム状に覆ってもらい、フランメの高火力で一気に焼き上げてもらった。
私でも焼けないことはないが、炎の扱いと火力ではフランメの方が抜きん出ている。
主軸となっている道へと出て、用済みとなった部屋の床を魔法で押し上げて空間を潰す。
これまで私の【恩寵】の効果を強弱で表す事が多かったが、大地の女神の【恩寵】に相当する力を表現するなら……非常に大雑把だ。
先程の様に地面を持ち上げ部屋を埋める事は割と簡単だが、ハニーポット作りのように、限られた量の土をどうこうするのは中々に難しい。
別に【恩寵】が無くとも魔法は使えるが、アンナマリアの頃から通して、地属性は使用した事がない。
慣れればもう少し扱いやすくなるのかもしれない。
さて、フランメ達が討伐を終わらせた部屋は、床と天井に焦げ目が残っているが、壁は無傷である。フロイトの頑張りの成果だろう。
この部屋の蜜を採取している途中で、一つ目の即席ハニーポットが一杯になった。
左の手のひらを上に向け、意識を集中する。
すると、手のひらの上のスペースに菱形状の穴のような物が出現する。
これは最近【ワンコの垂れ耳亭】の常連となった、魔獣課の研究員のお姉様に教えて頂いた収納魔法だ。
【片付け上手】の恩恵を持つ彼女は、この魔法を駆使してヴァイスの抜け毛やら切った爪やらをお持ち帰りしている。
ちなみに、彼女はヴァイスのサインを受け取った唯一の人物である。
収納魔法は使える人物が決して多くはなく、傭兵の中でも重宝される類いの魔法だ。
始めて彼女がその魔法を使用している所を目撃した時、私は必死に教えを乞うたものである。
結果、講師をお願いしている間の彼女のデザート代を私が持つ事で取引が成立し、最近ようやく実用化レベルに到達した。
習得すると改めて収納魔法の利便性に感心したが、同時に難点も発覚した。
「モニョモニョします……」
興味本意で収納魔法の中に手を入れていたシェスターが、眉間に皺を寄せる。
割れ物の様な繊細な物でも、質量も体積も気にせず、非常に簡単に物を運べるのは利点だ。
しかしシェスターの言った様に、手を入れた時の肌触りが何とも言えない。
特訓中もクッションや花瓶など、色々と出し入れしていたのでそれなりの空間があるのは確認出来ているのだが、何度手を入れても何かが触れているような、奇妙な触感が必ずセットでついて回る。
私に収納魔法を教えてくれた彼女も「我慢と慣れです!」と言っていたため、収納魔法の使い手にとっては常識なのだろう。
ともあれ、一杯になったハニーポットを収納魔法で作り出した空間に仕舞い、同時に作っておいた別の即席ポットを取り出し、残りの蜜を詰めていく。
残りの部屋は左右二つずつと主軸の道の突き当たりにある――恐らく女王蟻のいる――部屋の計五つである。
ハニーポットは一杯になるまでは普通に持ち運んでいるのだが、私はあと何回、あの収納空間に手を入れる必要があるのだろうか……。
収納魔法は、収納スペースを作るだけの魔法だぞ!
使用者がどれだけ動いても中の物が壊れたりする事は無いけど、時間が経過しない的な状態保存系の効果は特にないぞ!
「そんな便利な魔法が存在する世界があるのか」
むしろ収納するだけの魔法な上に、モニョモニョする肌触りの空間系魔法の方が珍しいと思うっす……(´-ω-`)




