戦乙女は神と対峙する
あらすじと異なるように感じる回かもしれませんが、長い目で見守って頂けると幸いです。
…あ、某神様のいじられキャラは、あらすじ通りです。
「そんなバカな!?」
「――はい、じゃあ言い訳聞かせてもらおうか。どうぞ」
何もない真っ暗な空間。
アンナマリアはそこで、宙に胡座をかいている少年と対峙していた。
言い訳と言われても、心当りはない。
ついでに言うならば、少年の顔にも見覚えが無い。
「……すまない。少年は何を聞きたいんだ?」
「少年言うなー!!僕はレギリオ。これでも神の一柱なんだよ!偉いんだよ!」
謝罪したつもりだったが、別件で怒りを買ってしまった。
しかし神、か。
神とは、【恩寵】と呼ばれる力の一部を、人々に分け与える存在だ。
私自身、戦の女神の【恩寵】のおかげで、数々の戦場で活躍していた。
「僕が聞きたいのはね、何で死んだのがベルンハルトじゃなくて君なのかって事!」
「……私が矢の前に飛び出したから、かな」
「見てたよ!おかげで運命狂って、各方面から苦情や説明を求める声が殺到中だよ!特に戦の女神!!」
見ていたのに態々聞いたのか。
それよりも運命というのは、割と些細なことで変化するらしい。一つ勉強になった。
思考が他所に向いている間に、レギリオと名乗った神も、落ち着きを取り戻す。
「……ところでさ、君ってもっとヤバい奴だと思ってたんだけど?」
どうやら、見ていた戦場の様子を思い出したらしい。
残念ながら否定できないが、ヤバいとは――
「あれは戦の女神の教えだ。『異質であれ』ってな」
「……さすが、戦の女神。ワケ分かんないや」
私も初めに聞いた時は、直ぐには理解出来なかった。
要は、相手の想定外の行動をとって、恐怖や困惑といった感情を植え付ける。
心が乱れてしまえば、実力など、そう引き出せるものではない。
その間に相手を多く斬れば、「数多の兵を容易く斬り伏せる戦乙女」像の完成である。
――そこに個々の強さは反映されない。
勿論、言うほど簡単ではない。
【白の戦乙女】の二つ名がつくに至るまで、戦の女神には武器の扱いにとどまらず、広い視野の持ち方、筋肉の強張りの見極め、特別な笑顔の作り方――その他、多方面で世話になったものである。
「……君が、戦の女神好みに育ったようで何よりだよ」
――掻い摘まんで説明すると、神・レギリオの疲れた様な声が返ってきた。
個人的には、ありふれた成長物語のつもりだったが、どうやら違ったらしい。
「――所で、私はいつまでこちらに?」
『死せる魂は罪が赦された後に、再び器に宿りて産声をあげる――。』
親の居なかった私が、幼少の頃世話になった教会で何度も聞いた教典の一節だ。
人はいずれ生まれ変わるが、それは生前の罪が許されてからですよ――という意味らしい。
これでも、多くの罪を重ねた自覚はある。
許されるまでここに居ろという事だろうか。
「あー、それなんだけどね……」
途端に神・レギリオが渋い顔をする。
「さっきも言ったけど、君が死んで戦の女神がうるさいの!だから、もうサクッと転生してもらおうかなって」
「それは……良いのか?諸々と」
前世の罪云々は勿論だが、今の私には前世の記憶がない。
つまるところ、記憶を消すような行程もあるのではないだろうか。
「ふふん。神の間の問題は『当事者間で解決する』だからね!ちゃんと戦の女神には言っといたよ!!」
……良いのだろうか。
まぁ、本人が自信満々なのだ。何とかなるのだろう。
「じゃあ、もうすぐ産まれそうな命があるから、そこに宿ってもらおうかな。――あ、ただし一つ約束してもらうけど」
「……何だ?」
少し警戒しながら尋ねる私に、神・レギリオは事もなく告げる。
「――【黒の武将】ベルンハルトを……殺してほしい」
思わぬ内容に眉間に力が入るのが分かる。
目を閉じ、細く息を吐く。そして――
「……良いだろう」
答えると同時に、体全体が沈んでいくような感覚に包まれる。
今の魂をそのままに、再び生きられるというのなら、私はどれ程の大罪を犯そうと、成し遂げたいことがあるのだ――。
【とある神様の問合せ】
「もしもし。本日の死者、一人少ないんだけど、どうなってんの」
「あー……戦の女神の愛し子が、庇っちゃったんだよ」
「じゃあ良いです」
「……」
「ちょっと!今、転生待ちの最前列に割り込みがあったんだけど!?」
「あ、それ、戦の女神の……」
「行ってらっしゃ~い」
……強いな戦の女神(´-ω-`)