乙女は更に絡まれる
サブタイトルはあれだけど、絡んでくるのはロリコンのアニキじゃないよ!
「だから俺はロリコンじゃねぇっ!」
「なぁ。そろそろ、もうちょい大きめの依頼をだな……」
「断る」
本日の依頼を見繕っている所で、本部長のゼルドナに声をかけられたが、間髪入れずに返事をする。
どうも彼は、今の私とアンナマリアを同一視し過ぎている節がある。
二、三日前から彼は、大きめの依頼だの遠方の依頼だの、とにかく数日がかりでの依頼を受けるよう進言してくる様になった。
そんな物を受けてしまえば、我が家に帰れない日が出来てしまうではないか。冗談ではない。
「だぁー!!とんだ甘えん坊に育て上げられやがって!親の顔が見てみたいわ!」
「なら、家に食べに来れば良い。たまにはご馳走して下さいよ、先輩」
「都合の良い時だけ、後輩面してんじゃねぇよ!」
都合が良いも悪いも、アンナマリアの頃から私は一貫して彼の後輩だ。
ついでに言えば、甘えん坊上等であるし、何よりも現在の我が家は人手が足りない。
私が【恩寵】を賜ってから二週間あまり、【ワンコの垂れ耳亭】には今まで以上の客が連日押し寄せている。
原因は我が家のペット、ヴァイスだ。
「毛の生え変わる季節ですねぇ。……はっ、こんな所に今にもヴァイス君から抜け落ちそうな毛が!頂いても良いですか!?」
「むむっ!昨日より爪が二ミリ縮んでいます。昨晩切られたと?何で事前に教えてくれなかったんですかー!」
「ヴァイスさん、握手をお願いします。……ふむ、この肉球の感じから判断するに、本日も健康そうで何よりです」
お察しの通り、【ハオプト役所 魔獣課】に所属する研究員の面々である。
ヴァイスは魔力こそ持ってはいないが、その遺伝子は絶滅したと思われていたシュトゥルヴォルフという魔獣の物だ。
定義的には魔獣でなくとも、十分に彼等の知的好奇心を刺激するらしい。
元々のお得意様である騎士達とも仲良くやっている様だし、当のヴァイスも
「わっち、サインとか考えた方が宜しいんでしょうかー?」
等と浮かれていたため、大きな問題は起きていない。
しかしながら、【ワンコの垂れ耳亭】は家族経営の定食屋である。
母さまが厨房の手伝いに入ることも増えたが、それでも料理の提供までに少々時間がかかるようになった。
ちなみに、【恩寵】を賜った現在でも、私はそちらの方面では役に立てていない。
【最高神の愛し子】というのは、全ての神から【恩寵】を賜っている事と同義の筈なのに。
最高神レギリオに聞いた所、【恩寵】というのは足し算ではなく、掛け算なのだという。
人間の平均的な能力を1とすると、人には何かしらの面で1以上の秀でた能力――才能がある。
【恩寵】というのは、その抜け出た才を数倍に伸ばす物らしい。
掛け算なので高い素質に強い【恩寵】を賜ると、その面に於いては普通の人とは比べ物にならない程、活躍する事が出来る。
逆に、0には何を掛けても0である。
平均的な能力を1とするならば当然、他人よりも劣る面が誰にでもある。
私にとっての料理がそれで、【恩寵】で何倍かにしようとも、平均値未満の才能でしか無いらしい。
玉子は割れるようになったので、限りなく低くても、0ではないと信じている。
この話題は続けると悲しくなるので割愛するとして、私が言いたいのは【ワンコの垂れ耳亭】が大変繁盛している事。
それに伴い、猫の手も借りたいほど忙しいという事だ。
特に最近の私は、傭兵活動の為に、昼の営業の手伝いが免除されている。
夕方の営業くらいは役に立たねば、【定食屋】のアンナの名が廃る。
「――という訳で、当面は地道にコツコツCランクを目指す事にする」
何せ騎士学校に入学出来るようになるまで三年もあるのだ。
慌てる必要もないし、エルヴィンへのプレゼントも余程豪華な物にしなければ、十分に間に合うだろう。
まだ何を贈るか決めていないので、そっちの方が急務であるくらいだ。
「――アンナというのは貴女なの?」
不意に後ろから声がかかる。
振り返るとそこに居たのは、長い髪を一つに束ねた、私より幾つか年上の女性だった。
「……確かにアンナという名前だが、貴女の言うアンナは、どのアンナだ?」
ずいぶん前にも言った気がするが、私と同じ年頃には、アンナやマリアといった名前の子が複数存在する。
彼女の探すアンナが、私を指しているのかは自信がない。
「登録初日に本部長に恫喝されたというアンナよ」
「あぁ、それなら私だ」
「いや違うから!」
理由は分からないが、彼女が探していたのは本当に私らしい。
だと言うのに、ゼルドナから否定の言葉が飛んだ。解せぬ。
「……そういえば最近の私は、理不尽な本部長に歩み寄る健気な子、なんだったか」
「そう!貴女の事でしょう!?」
「頼むから!俺が恫喝したとか理不尽だとかいった部分を否定してくれ!!」
理不尽かはともかく、確かに恫喝された事実はない。
しかし、それくらい自分でどうにかしてほしい。
もし私が否定するなら、真っ先に「健気な子」の部分から着手する。
「それで、私に何の御用かな?」
ゼルドナを放置して話を強引に進めた所、地面と水平になるよう上げられた指が、私に向く。
「【白の戦乙女】、アンナ。貴女に勝負を挑むわっ!」
「断る」
本日二度目の、間髪入れずの拒否である。
時間をかけてCランクを目指す決意はしたが、何故、名も知らぬ人物の挑戦を受けねばならないのか。
そもそも、そんな時間があれば、私は帰って【ワンコの垂れ耳亭】の手伝いを選ぶに決まっている――。
残念な感じが溢れ出てるけど、鷺草念願の女の子登場ですヽ(*´∀`*)ノ イエーイ!
名前は……これから考えますん(´-ω-`)




