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戦乙女の帰還  作者: 鷺草
乙女の再出発
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乙女は絡まれる


ノー モア オッサン!

どうしてこうなった!!??





「――ふむ、こんなものか」


紫の花がついた植物を根っこごと掘り起こし、指定の篭が一杯になった所で手を止める。

本日の依頼は、メディカ(スミレ)の採取である。


メディカ菫は名前から推測出来るかもしれないが、花から根に至るまで、あらゆる薬の材料に使われる植物だ。

日当たりの良い平地に生息しているため、割とよく見かける物ではあるが、この環境を好むのは何も植物だけではない。


野生の動物にとっても格好の日光浴スポットであるし、空を遮るものがない分、最悪上から魔獣に襲われるケースもある。

とは言え今回は魔獣と事を構える事なく、無事に採取を終えた。


いや、採取"は"終えたというべきか。


採取にしろ討伐にしろ護衛にしろ、【ツンフト】に依頼の完了報告をするまでが、傭兵の仕事である。

依頼を終えて帰り際に魔獣に襲撃された、なんて事もよく聞く話であるし、アンナマリアの頃にも経験済みだ。


何より、先程から魔獣よりも厄介な気配を感じる。

明らかに複数の人間が、こちらを窺っているようだ。

面倒事の予感しかしないので、このままそっとしておいて欲しい所だが、そうはいかないらしい。

というより、私の作業が終わるのを待っていたのだろうか。ご苦労な事である。


「真面目に傭兵のお仕事か、お嬢ちゃん?思った通り、とびきりの良い女じゃねえか」

「……ん?」


確認のために辺りを見渡す。

周りはこの男の取り巻きと思われる男ばかりだ。

本日は昼食の後から、戦の女神クリーナも見かけていない。

パーティーを組まずに作業をしていたので、他に同行している人物も居ない。

詰まる所――


「――私に言っているのか?」

「お嬢ちゃん以外に誰が居る」


……本当に、私に言っているらしい。

念のために言っておくが、今の私は十歳を迎えて間もない、発育途上の子供である。

更に言えば、先程まで地面を掘り起こして作業をしていたため、手先も足元も泥まみれな状態だ。

鏡を見てないので断言はしないが、顔にも付いているかもしれない。

そんな今の私が、「とびきりの良い女」――。


「……悪趣味が過ぎるだろう」

「うるさい!アニキは幼女趣味なんドゥォッフゥ……!?」

「違うわっ!オラァ未来像が見えるっつってんだろーが!!」


さすがに十歳になって、幼女枠に入れられるのは精神的にきつい。

しかし未来像か。世の中、まだまだ知らないユニークな【恩寵】が存在するようだ。


「テメェ等はバカにしてやがるが、コイツも五年経てば……」

「ならば五年後にまた頼む」

「いや、逃がす訳ねぇだろ!」


本気で帰してほしい。

何が悲しくて、五年も彼等と同じ時間を過ごさねばならないのか。

何より、そろそろ戻らねば【ワンコの垂れ耳亭】の夕方からの営業に間に合わない由々しき事態である。

仕方がないので、実力行使に出る事にする。


「ビンドゥン蔦、居るかな?」


傭兵を始めてみると改めて、【最高神の愛し子】の【恩寵】を賜ったのだな、と実感出来る機会が増えた。


その一つとして、私は植物とある程度意思疏通が可能になった事が挙げられる。

具体的にどの程度なのかというと、まだ言葉が通じる前のヴァイスとのやり取りに近い。


植物達には、一種類につき一つの意思があるらしい。

先程の様に、神を呼び出す時と同じ感覚でその植物の意思にお伺いをたてれば、大抵の場合は挙手するかの如く、葉っぱ等を挙げて応じてくれる。

また、こちらも神と同じ様に、植物の側から私に接触してくる事もある。

私がこの事に気付いたのも、初めての植物採取依頼に取り組んだ際に、それの花が「そこは抜くな」と、頭もとい花を何度も下げて懇願してきた時の事だ。

もちろん本日も、メディカ菫の指示に従って綺麗に間引いてきた。


どうやら私に宿る獣神の【恩寵】は微力であったが、植物神の【恩寵】の力は中々に強いらしい。


さて、先程呼びかけたビンドゥン蔦だが、ニョキっと持ち上がってきて、私の目の高さに付いている葉を上にあげた。

ビンドゥン蔦は柔軟性はあるが非常に繊維のしっかりした植物で、一応魔力を宿しているため魔獣扱いされる植物だ。

今は私がお伺いをたてた為に動いているが、普通は一般的な蔦と同じく樹木に巻き付く形で生息しており、その内に宿す魔力で、外からの魔法攻撃から樹木ごと己の身を守っている、心優しい植物である。


そんなビンドゥン蔦の意思は、周りの男達を見渡した後に蔦を「?」の形にした。

状況がよく分からないらしい。


「そろそろ帰りたいのに、彼らに足止めされて困っている所だよ」


それだけで私が頼みたい事を、ビンドゥン蔦は察してくれたらしい。

蔦をそらし、私の目の高さにある葉で蔦をトンと叩く。

胸を張って「任せなさい」と言っている人間の仕草そのものだ。


「うおっ!」

「な、何だぁ!?」


ものの数秒で、ビンドゥン蔦は男達を絡めて動きを封じてしまった。

ビンドゥン蔦は「どんなもんだ」と言わんばかりに、両側の葉を蔦に当てている。


「流石だな。助かったよ、ありがとう」


照れて頭を掻く人間のように、蔦の後ろで葉を動かしていたビンドゥン蔦と別れて、私は足早に【ツンフト】の本部へ帰っていった。


◇◆◇


「――という事があった」

「未来視できるロリコンの賊ねぇ……」


依頼の完了報告と共に、一応あの男達の事も本部長ゼルドナに話しておいた。

罪人の逮捕は騎士の仕事だが、傭兵が取り押さえて騎士に引き渡す事例も勿論ある。


「気になるなら見て来れば良い。ビンドゥン蔦での拘束だから、まだ居るだろう」

「何が悲しくてオヤジの面を拝みに行かなきゃなんねぇんだ。面倒臭い。はい、報酬」


ゼルドナは特に動くつもりは無いらしい。

私自身も、特に何かされた訳ではないので問題はないが。


取り敢えず、恐らく今晩身動きの取れない彼等が魔獣に襲われる事がないよう、形だけ祈っておこうと思う。





「何故か俺がロリコン扱いされている!?」


「アニキ、ホントの事です。しゃーないッスオ゛ゥ……」

「違うわ!」


「ちなみに私はロリコンとは報告してないぞ」


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