戦乙女は悪くない最期を迎える
この物語では、人物の容姿等の描写はあまりしないと思います。よって、
・クレイジー戦乙女
・朴念仁武将
・ダメ王太子
・ゲネラ←
その他、これから登場する人物像も、皆様お好みの姿を思い浮かべ下さい。
「自分の物語のキャラのくせに紹介が酷いな」
…知らんがな。
「ま、待て!俺は王太子だぞ!!手を出してタダで済むと思ってるのか!?」
事前情報や身なりから分かりきっていた事だが、確認する手間が省けて助かる。
「貴殿も戦場に身を置いたんだ。死ぬ事や捕虜となる覚悟はしてただろう?」
小首を傾げつつ、ゆっくりと近づく戦乙女。
もはや誰も、その道を妨害しようとはしない。
「そ、そうだ!俺が無事に帰り、王となった時には、貴様を妃に迎えてやろう。それに、貴様の望むものを何でもくれてやる」
どこまでも見下した発言だが、王太子本人は気付かない。
しかし戦乙女は足を止め、嬉しそうに声を弾ませる。
「おぉ!……実は今、是非とも欲しい物がございまして」
「何だ?金か宝石かドレスか―何でも言ってみろ」
口調を変えた戦乙女を前に、危機は去ったと言わんばかりに尊大な振る舞いをする王太子。
戦乙女は笑みを浮かべたまま――王太子の背後に移動していた。
「貴殿の首、ですよ」
「……は?」
王太子は言葉の意味を理解するより前に、戦乙女の望みの品を差し出すこととなった。
「そもそも、これ程の大敗を喫して逃げ帰った貴方に、王位はおろか居場所があるとは思えませんよ……」
物言わぬ首を持ち上げて目線を合わせ、戦乙女は諭すように呟く。
此方としても、彼が次代の王では被害を受けかねないため、向こうが排除を目論むなら、それに乗じて切り捨てるのみである。
王太子以外の要人と見られる者は、出来る限り生かしてある。
大した期待はしてないが、精々国に戻った後に、要職の座を巡って足を引っ張りあってくれれば良い。
ともあれ、今回の戦はこれで終いである。
【黒の武将】と再び合流し、互いの愛馬を呼ぼうとした時、戦乙女は異変を感じた。
「――ハルっ!!」
剣も構えずに前に飛び出したのは、我ながら愚行だったと思う。
胸に刺さった矢の部分から、何かが体内を蝕んでいくのが分かる。
毒か呪いか――死に逝くであろう戦乙女にとっては、些細な違いである。しかし――
「……アンナっ!?」
立っていられなくなった戦乙女を、武将が支える。
何度も頼り、誰よりも慕った者の腕の中。
薄れる意識の中で、最期に響く彼の声。
――戦場での死は常に覚悟していたが、これは中々に悪くない最期ではないのか。
そんな事を考えつつ、戦乙女は静かに目を閉じた。
◇◆◇
西のクライヒ王国と東のデュナス王国の大戦は、クライヒ王国の勝利で幕を閉じた。
多くの兵を失ったデュナス王国ではあるが、対するクライヒ王国も一騎当千の【白の戦乙女】アンナマリアを失う等、少なくない痛手を負った。
数日後、二国間に休戦協定が結ばれた。
仮初めの平和ではあるが、この大陸に暮らす者達にとって、安息の日々の始まりを告げるものとなった――。
【とあるデュナス諜報員の呟き】
「殿下達が逃げ出さないか見張ってるだけのお仕事が暇すぎて、テキトーに射った矢が、戦乙女に当たった!」
「はぁ?俺がドッキリで矢じりに猛毒塗っといたから、鎧貫いて倒せたんですー」
「あぁ?俺が放たなかったら、そもそも意味なかったんですー!」
…オメーら、雰囲気ぶち壊すんじゃないよー(´-ω-`)