乙女は話題に上る
二十話を目前に思うのです。
この物語、一話一話が短いのではないか……と(´Д`)
「だから今回、気持ち長めな訳か」
いや、無関係(・ω・)
最後蛇足分を、無理に詰め込んだっただけですん。
長くすると、更新がガッツリ滞るんで、個人的には今までの文量が理想なのです。
「ちなみに私は、現在城から帰宅中だぞ」
俺達のバースデーはこれからだ!(ヤケクソ2)
王城の中庭は、庭師達の働きにより一年を通して最上の美しさを保つ、この城の誇りの一つである。
西に傾いた日が、季節を彩る草木をも朱に染める中で、優雅にお茶を飲む人物がいる。
クライヒ王国の女王、モナルーシャである。
かつてのアンナマリア――現在のアンナとの謁見が急遽決定した時点で、午後からの予定は余裕をもって空けておいた。
モナルーシャは、戦の女神クリーナの事が苦手である。
神が自由気ままなのはこの世界の常識だが、それをそのまま絵に描いたような神がクリーナだ。
当時王女だった私に、今は亡き夫との事を一番に言及したのは彼女だ。「いつ告るの?」と。
シャンリーベもただ静観していたくらい、淡い恋心程度の時の事で、当然の事ながらアンナマリアは気付いてもいなかった。
その数ヵ月後に晴れて恋人となった彼に会った時、クリーナは「プロポーズはテメーからしろよ」と、良い笑顔で迫っていた。
後に私は彼から求婚されたが、これはクリーナの笑顔とは無関係であると信じている。
人の恋路に茶々入れするのも大概だが、私がクリーナを苦手とする最たる理由は――彼女は私を「ナルナル」と呼ぶからである。
当時の私はまだ、【愛の女神の愛し子】つまり王では無かった。
その為、名前で呼ばれるのは理解出来るが、何故名前の真ん中をとった愛称なのか。
更に悪いことに、この愛称の名付け方の文化は、アンナマリアに継承されている。
彼女の場合は繰り返しがない分マシかもしれないが、「ナル殿下」は禁止したところ、以降は「ルーシャ殿下」と呼ばれる事となった。
何故、彼女達は普通に名前で呼ばないのか。
更に今回は、厄介な神が増えていた。
神々に対し不敬な事は重々承知だが、それ以外に適当な言葉が見付からない。
最高神レギリオ。
この世界の神は気紛れな存在だが、それは性格面に限った話ではない。寿命すらも、己の気持ち一つだ。
「やりきった」「飽きた」「愛し子が死んだ」――思いは様々だが、己の気持ちに整理がついた神は、永い眠りにつく。
眠りについた神の心と体は消え失せ、そこにはその神の力だけが残る。
そうして残った力の中から、再び心と体が構築される。
これが、私達人間が「神」と呼んでいる者達の一生らしい。
本人やクリーナの言葉から察するに、レギリオは神の力から生まれたばかりなのだろう。
それこそ、簡単に手玉にとられ、己の種族の歴史も不勉強なほど。
「ただいま、モナルーシャ」
愛の女神シャンリーベが、私の向かいの席につく。
「おかえりなさい。いかがでしたか?最高神レギリオの様子は」
「クリーナが絞っていたわ。多分、暫くは正座漬けでしょうね」
シャンリーベには、クリーナに引き摺られる様に帰って行ったレギリオの様子を伺ってきてもらっていた。
アンナマリアの頃から、彼女はクリーナのお気に入りだった。
もっとも、愛し子という時点で気に入っているという事ではあるので、クリーナの場合は溺愛している、というべきか。
結果は不発に終わったとは言え、勝手にアンナマリアと約束を取り付けた。
知らなかったとは言え、勝手に【恩寵】の重ねがけをした。
現在のクリーナの怒りは、いかほどの物か。
「シャンリーベ。貴女方の中で最高神とは、どの様な位置付けなのですか?」
謁見の時の会話から、ずっと気になっている事を聞いた。
「最高神というのは、全ての神のまとめ役。それぞれの神から上がる情報を精査し、時に各神に変わって力を行使出来る。今はまだ幼くて雑用係の認識だけれど、やがてその存在は圧倒的な者になるはず」
やはり、という思いが眉間に皺を寄せる。
子供と言っても差し支えない最高神レギリオだが、その力は既に完成されている。
雑用係という認識は、本人の性格によるものだろう。
「つまり、【最高神の愛し子】というのは――」
「強さに違いはあれど、恐らく、全ての神から【恩寵】を賜っているのと同義でしょうね」
最下位である恩恵を賜ったとしても、全ての神の【恩寵】を集めると、どれ程の力となるのか。
そして出来る事ならば、その【恩寵】はアンナ以外に贈って貰いたかった所である。
「――憂いは晴れましたか」
背後から近付く足音に声をかける。
人払いを済ませ、近くには私とシャンリーベしか居ない空間では、小さな音でもよく響く。
「はい。お時間頂き、感謝致します」
現れたのは【近衛騎士団】団長、ベルンハルト。
十年前は【遠征騎士団】の一人として、アンナマリアと大戦の最前線にいた男である。
「彼女は何と?」
「私の代わりに死んだことで、多くの物を遺し、多くの物を得た、と」
【戦の女神の愛し子】として初めて謁見に現れたアンナマリアは、何事にも執着しない人間だった。
ただその日を生きる為に傭兵として働き、ただ国王に勧められ騎士の道に進んだ。
騎士として多くの人と接している内に、彼女は常に柔らかい雰囲気を纏うようになった。
騎士の鑑と言われ人々に親しまれる頃、彼女が最も執着したのは、戦の女神クリーナと二年先輩のベルンハルトだった。
クリーナは兎も角、何故ベルンハルトに興味を示したのかは分からない。
私はどこかの女神とは異なり、他人の恋模様には興味がない。
そして私が何より危惧しているのは、アンナマリアが己には全く執着していない点である。
十年前の大戦で亡くなったのが、ベルンハルトではなくアンナマリアだと聞いた時――私は正直、ホッとした。
アンナマリアは、己の危険には無頓着だったが、その分、ベルンハルトの危機には敏かった。
武功をたてる内に、彼は一騎討ちの申し出が増えていったと聞く。
その最中に、魔法や矢が偶然飛んで入らないようにするのが、アンナマリアの役割だったのだろう。
そんな彼女だから、十年前の結果となったのだろうが、本来、死ぬのはベルンハルトだったという。
私は、そうであった時のアンナマリアの行動に、嫌な予感しかしない。
恐らく、騎士として働き続けるどころか、戦地となったエーベネ平野から戻って来たかも怪しい所だろう。
いくら休戦協定を結ぼうとも、アンナマリアが国境を越えて復讐でもしようものなら、十分新たな火種となる。
それを防ごうにも、ベルンハルト亡き我が国では、アンナマリアを止める事も難しい。――正確には、生かしたまま止める事が難しい、か。
二人揃って戻ってくれれば、これ以上の事はなかったのだろうが、どちらか失わねばならない結果だったのなら、私はこれで良かったのだと思う。
「多くの物を得た、ですか――」
その自覚があるならば、是非とも自愛の精神も学んで欲しいものである。
恐らくもう、我を忘れたアンナを止められる者は存在しない。
何より一人の友として、彼女には穏やかに過ごしてもらいたいというのが、今の私の願いである――。
◇◆◇
「――それは間違いないのですね?」
「はい。確かに【最高神の愛し子】が現れた、と」
大陸の北の果て、グナーデ地方。
西のクライヒと東のデュナス。両方の国境と接するこの地方は、不可侵条約が結ばれ、どちらの領土でもない。
その理由は、この地が山々で閉ざされ一年中雪が降り積もるような、険しく大して旨味のない土地であること。
そしてもう一つが、この地は大陸で広く信仰される宗教の総本山だからである。
遥か昔、一度だけ最高神が愛し子の【恩寵】を贈ったとされる記録が残っている。
その愛し子は各地を回り、行く先々で奇跡を起こし、晩年はこの地で過ごしたという。
それ以来、この地は信仰の中心地として、険しい土地ではあるが、それなりに栄えている。
さて、この度数千年ぶりに【最高神の愛し子】の【恩寵】を賜った少女が現れた。
「――歓迎致しましょう、アンナ」
この日から教皇パープスは、数名の枢機卿と議論を重ねつつ、愛し子を迎える準備を開始したのだった――。
色々難しく感じた方は、取り敢えず教皇様はスルーで大丈夫です。
名前の忘却防止のメモみたいなものですので。
「何と酷い!」
ちなみに鷺草は、物語の舞台となっている国の名前もあやふやです( ̄^ ̄)
毎回、前話を見返して確認しとります(´-ω-`)




