乙女は恩寵を賜る
お待たせしました。ここから第三章です。
説明回を如何に読みやすくするかを試行錯誤しましたが、撃沈の気配が……。
「――アンナちゃん、可愛いっ!」
母さまの前でクルリと回ると、思わずといった感じで抱き締められた。
私は今、丈が長めのワンピースに袖を通している。
全体的にはシンプルな作りだが、スカートの裾にレースが入っていたり、年頃の女の子向きの可愛らしい服である。
当然、私が買った物ではなく、母さまが用意してくれた物だ。
アンナマリアの頃からパンツスタイルで過ごしている事が多かったので、私自身も新鮮な気持ちである。
今日で私は十歳を迎えた。
この世界では、十歳になった子供は全員、教会へ足を運ぶ。
そこで【恩寵の儀】と呼ばれる儀式を行う。
儀式といっても、そう大袈裟な物でもない。
司祭様からの説明を聞き、【白の聖典】という何も書かれていない本に、自分の名前を書く。
すると、名前の下に【恩寵】の名前とそれの簡単な説明が表れる。
儀式自体はそれで終わりだが、名前を書いた当人には、少しずつ自分の身に変化が起きているのが分かる。
アンナマリアの時は、スッと身体が軽くなるのを感じた。
そこから時間をかけて、己の【恩寵】を知りつつ成長するのだ。
「行ってきます」
いつもの様に家族で朝食をとり、いつもより少しめかし込んで出かける。
向かうのは、この王都の中心地より少し西にある教会。
アンナマリアがかつて幼少の頃を過ごした、件の教会である。
◇◆◇
――とは言ったものの、教会の正門を潜るのは、些か不思議な気分である。
こちらは専ら、礼拝や今の私のように【恩寵の儀】を目的に来る人達の物だ。
教会の関係者や孤児達は、生活している離れの側にある裏門を利用していた。
質素ながらも実用性を重視された裏門とは異なり、正門は派手ではないながら、細かな装飾が見事な造りになっている。
「もし。【恩寵の儀】で来られた子かな?」
祭服に身を包んだ初老の男性が、私に声をかける。
多少歳による衰えで印象は変わったが、彼はアンナマリアが居た頃からこの教会にいる人物だ。
「はい」
私は彼に返事をし、彼に着いて中に入った。
◇◆◇
――一つ、訂正をしよう。
【恩寵の儀】は大袈裟な物ではないが、少々忍耐力が試される物である。
教会に入ってすぐに広がる礼拝堂。その隣に造られているのが、【恩寵の儀】のための部屋だ。
数脚の椅子と礼拝堂の物より小さい祭壇。その上に置かれているのが【白の聖典】である。
それ以外特に目立った物がない、非常にシンプルな部屋で、私は既に二十分ほど司祭様の説明を聞いていた。
彼は先程からずっと、【恩寵】について事細かに説明してくれている。
【恩寵】は力の強い順に、
愛し子・申し子・加護・恩恵
以上の四つに分類される。
愛し子と申し子は、それぞれの前に神の名が付いて定型のものとなるのに対し、加護と恩恵は割りとユニークな名前の物が多い。
例えば、母さまの【陽だまりの子】というのは、周囲の人達の心を穏やかにする恩恵だ。
父さまの【一流料理人】の様に、そのままの名前の加護もある。
恩恵と加護、そして申し子の違いは、授かる力の強さの違いだが、愛し子は他の三つとは大きく異なる点がある。
【恩寵】を授けた神を呼び出す事ができるのだ。
"召喚"と言った方が、雰囲気等がそれっぽいのだろうが、【恩寵の儀】同様、そこまで仰々しい物ではない。
ただ、今時間があるか問うだけである。
都合は神の側が優先されるが、大抵の場合はすぐに姿を見せてくれる。
【戦の女神の愛し子】だったアンナマリアも、女神のデートの合間に、よく稽古をつけてもらったものである。
たまに、神の側から愛し子の前に現れる事もある。その場合は当然、此方の都合は気にしない。
神とは気紛れな者なのだ。
――さて、私も長々と話したつもりだったが、司祭様の話はまだ続いている。
教典を読み上げ、その意味を丁寧に説明してくれているというのもあるが、如何せん長い。
何と言っても、今日は私の十歳の誕生日だ。
私は、「ご馳走を作って待っている」と言った家族に思いを馳せる事にした――。
◇◆◇
「――では、【白の聖典】に名前を。字は書けますか?」
「はい」
ようやく司祭様の話が終了した。
トータル、一時間十分の大記録だった。
聞き流していたが、我ながら、よく寝なかったものだと思う。
私は問題ないが、この国は識字率はそこまで高くなく、中には自分の名前を書けない子もいる。
そんな時は、司祭様が別紙にその子の名前を書いてくれる。
子供達はそれを手本に、【白の聖典】に名前を書く。書き順や文字の美しさは関係ない。
祭壇の前に移動し、【白の聖典】に署名する。
身体が軽くなる感覚と同時に、【白の聖典】に文字が浮かぶ。
【戦乙女の帰還】
戦の女神の愛し子が、心そのままに甦った子。
――確かにその通りなのだが、結局これは【恩寵】のどの段階なのか。
首を傾げていると、【白の聖典】に再び浮かぶ文字がある。
【最高神の愛し子】
最高神に愛されし稀有な存在。
今、【恩寵の儀】を受けているのは私一人しかいない。
つまりこれも私の【恩寵】なのだろうか。
一人が二つの【恩寵】を授かる等、聞いた事もないのだが。
ところで最高神というのは、以前に会った"彼"なのだろうか。
ここで全く見知らぬ神が現れても、反応に困るので、是非ともそうであってほしい。
チーン…_(¦」 ∠)_
「精も根も尽き果てた鷺草が、惰眠を貪っている。今回はこれ以上待っても、後書きは何も増えないぞ」




