戦乙女は戦場で微笑む
初投稿になります。
諸々慣れていないため、誤字脱字他、気になる所がありましたら、是非お知らせ下さい。
「かたいよ!?」
…出番まだの方は、引っ込んでてくださーい(素)
剣と剣のぶつかる金属音に、大規模魔法によって生じる爆風。
吹く風は、濃密な血の匂いを運ぶ。
大陸の中心であるエーベネ平野は今、この大陸の覇権を争う二国間の戦乱の舞台となっている。
何万という人間が、敵を斬り、魔法に焼かれる――そんな事が幾度と繰り返され、敵と味方の区別すらつけにくい程の乱戦の中、一方の陣営に動きがあった。
白と黒、二頭の馬がそれぞれの主を乗せ、足元の争いなど無いかのように、一直線に相手の将の元へと駆けていく。
「【黒の武将】と【白の戦乙女】だっ!」
「殺せば特別褒賞だぞ!!」
「父の、兄の仇をっ!!」
怯えや欲、怒り――。
目に宿る感情の色は違えど、視線は全て二人に注がれる。
「――本日も人気だな、武将殿」
「……行くぞ」
白の馬に跨り剣を振るう女が軽口を叩くが、黒の馬に跨る男の反応は素っ気ない。
もっとも、普段から二人の会話はこんな感じではあるが。
「了解した」
女も気にした様子は無く、己の馬を男の後ろに下げつつ、剣から弓に持ち変える。
――矢を番え、前方やや上空に射る。
魔の力の宿った弓は、放った矢を一本から二本。二本から四本へと数を増やし――やがて敵陣に矢の雨を降らせる。
当然、魔法や武具で弾くなどして防がれる矢も多々あるが、自ずと足は止まる。
そしてその隙を見逃すような失態を、【黒の武将】と称される男は犯さない。
「はっ!」
進行の妨げになる敵のみを切り伏せ、敵の将の元へ最短距離を駆けて行く。
離れた位置にいて脅威になりそうな敵の排除は、後ろを走る女の役目だ。
「毎度、惚れ惚れするな――」
一射目とは異なり、一人一人丁寧に射抜きつつ、前を走る男を盗み見る。
「この背中に着いて行けば良い」と思わせるその存在感は、どの争いの中でも常に女の心を落ち着かせた。
今回も、この男が我らを勝利に導いてくれる。
その考えの正しさは、目の前に迫った敵の本陣が物語っていた――。
「き、貴様ら!早く何とかしろっ!俺を守れっっ!!」
戦場に似つかわしくない、情けない声が響く。今回、総大将を担っている敵国の王太子だ。
もっとも、本人は功績稼ぎ名目のただのお飾りに過ぎず、実際に軍を率いているのは王太子の前にて圧倒的な威圧感を放っている男だ。
「我が名はゲネラ。【黒の武将】よ、一騎討ちを申し込む!」
重厚な鎧に身を包んだ、敵国の実質的な総大将が声を張る。
「受けよう」
【黒の武将】と呼ばれる男も愛馬から降り、剣を正面に構えた――。
◇◆◇
「――ほぅ。一騎討ちのご指名か。やはり人気者じゃないか」
独り言を漏らす【白の戦乙女】に、彼女の跨がる白馬が嘶きを返す。
「……あぁ、すまない。お前ももう行っていいよ。また後で会おう」
戦乙女も馬から降り、軽く撫でてから解放する。
白馬は自分の番である、武将の黒馬を追って駆けていく。
何とも仲の良い事である。
「さて……」
戦乙女は、周囲にアピールするかの様に両手を広げ言葉を紡ぐ。
「私も誰かからご指名頂けるのか?それとも……全員で相手してもらえるのか?」
敵本陣にて周囲を敵に囲まれる中、戦乙女は妖しくも美しく微笑む。
戦場の殺伐とした雰囲気とはかけ離れた戦乙女の異質さは、周りの者の心に新たに不安や恐怖を植え付ける。
「う、うわぁぁぁ!!」
ただただ微笑むだけの戦乙女の様子に痺れを切らしたのか、魔導師が数多の火球を放つ。
それは戦乙女のいる位置に到達し、地面に大きな焦げ跡を残して消えていく――そこに戦乙女の存在は微塵もない。
「はぁ、はぁっ……」
「火力は問題無さそうだが……」
がむしゃらに魔法を放ち、荒い呼吸を繰り返す魔導師の背後から声が聞こえてくる。
しかし後ろを確認する間もなく、その首は胴体から切り離された。
「もっと周囲を冷静に見た方が良い。だから今、そんな結果になってるんだ」
今しがた自らが切り落とした顔を見下ろしながら、戦乙女は告げる。
その右手には、女性が扱うには幅広で刀身も長い剣が握られている。
「なっ、どうやって……」
避けたのか。回り込んだのか――。
後に続く言葉が出なかったため、何が聞きたいのかは分からないが、答えは一つだ。
「別に、難しい事はしてないよ?ただ足に魔力を集中させて――」
そこで戦乙女の姿が消え、そして再び現れた。
――疑問の声をあげた兵士の後ろに。
「――なるべく早く相手の後ろに移動するだけ」
振り返った兵士の、右の腹から左の肩を斜めに切り裂く。
先ほども今も、斬った所から大量の血が噴き出したが、戦乙女に赤く染まった様子はない。
汚れる事なく美しい様は、戦乙女の異様さをより強調する。
「ば、化け物……」
「酷い言われようだな」
漏れた呟きの直後に、目の前に現れる美しい顔と――腹部に広がる熱。
「…え?」
「【乙女】が化け物な訳なかろう?」
腹に突き立てた剣に意識が向ききる前に、横に薙いで再び剣を自由にする。
「しかし弱いな、お前達。やはり、あの"話"は本当だったって事か」
敵国に潜り込んでいるという諜報員のもたらした情報は、大きく分けて二つ。
一つは、王太子の出兵。もう一つは――
「我々が弱いだと!?ふんっ!たかだか数人、下っぱの兵を斬った程度で良い気になるなよ!!」
――その王太子を含め、敵国のゴミ処分の為に用意された戦争である、と。
戦乙女は困った子を見るように王太子に向けていた視線を、明後日の方角に向ける。
視線の先では、頃合いを見計らったかの様に、武将がゲネラなる男の首をはねていた――。
「……ではそろそろ、良い気になってもいいのかな?」
もう一度王太子の方へ、戦乙女は微笑みを向ける――。
「……私達の名前、出なかったな」
「出たのはゲネラ氏だけか」
ゲネラ「(`゜ω゜)ドヤァ……」
*前書き・後書きでは、ふざける可能性があります。
真面目に書くのは、柄じゃないのです(´-ω-`)
不快に思われる方がいらっしゃれば申し訳ない……。