表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それは夜雲の向こうのように  作者: 暑中見舞
1/1

前編「きっかけ」

エッセイではありません。でも、こういうことってあるよね。

何気ない人生だった、そのはずだ。

小学生の頃、絵が上手かったクラスメイトがいて、才の無い私も彼女に憧れた。

それから先の数年は、夢ばかり見ていた。

大学までは良かったが、未来のことを考えて断念した。その頃から少し鬱気質だったということもある。

生きることを優先し、とりとめもない会社に入った。仕事に貴賤はないのであるから、きっと立派な仕事であるだろう。

私は実家暮らしであるが、家にはたくさんの漫画があった。漫画家の道を諦めてからは一度も開くことのなかったそれを、久々に手に取ったのは昨日のことだ。

八年ぶりの再会、うだるような暑さの夏。

そう、それは八月の連休の中日であった。




『それは夜雲(よぐも)の向こうのように 前編』



「主人公が村を見下ろして『ああ、この世界はこんな形をしていた』って言う台詞がある漫画って、なんだっけ」


なぜかその日、なんの脈絡もなく、ふっとその情景が頭に浮かんだ。

その村は、現在の日本__今は二〇〇〇年であるが__にそぐわぬ藁作りの家が立ち並び、川が流れ田畑を潤すような景観であり、その漫画の世界でも取り残された村、という表現で描かれていた……気がする。

何しろそのシーンを除けばまったくといっていいほどそのことについて覚えてないのだ。

だが、なんとなく、漫画だったと思う。


もっと他に思い出せないか、自室の本棚をざっと見渡すが、どれもそのシーンには関わりがなさそうなものばかりだった。


「誰かに聞くか」


漫画を手に取るのも八年ぶりだが、他人に漫画の話をするのも久し振りだ。大学時代に漫画好きでつるんでいた友人にLINEを送ると、友人からはそんなものは知らない、と返ってきた。検索したら、と続ける。

言われた通り、台詞で検索をかけてみたが、ヒットしなかった。世には質問掲示板があるが、使い方がわからない。


「私の頭の中の話かなあ」


漫画やアニメの創作ストーリーは、描かなくなった今でも夢にも見る。夢の話なのか、自分の創作なのか、はたまた売り物の漫画なのかテレビのCMの情報なのかがごちゃ混ぜになることも多い。

夢の話なら諦められる。

だが、もし実際に売り物として売られていたのだとしたら、その台詞の前後の流れが大変気になるではないか。


「創作の線はないの?」

「ありうるけど」

「その当時に観光で行った場所とか思い返してみたら?」


旅行に行くたび、その場にゆかりのある話を書くというのはよくある話だ。だが、大学当時だと私が行った場所と言えばスペインのサクラダファミリア周辺とオーストラリアのエアーズロックくらいである。

社会人になってからは一度も筆をとっていないので、創作ならその期間のはずだ。


「気になる。すごーく気になる」


もし自分の記憶に出てくる村だとしたら、やはり近辺にあるのだろうか。自分の住む県にA村という村があるにはあるが、行ったことなどない。

散らかした漫画だらけの部屋、ベッドに寝っ転がって考えるうちに眠気が襲ってきた。


夢で、ある村の景色を見た。どこだかはわからない。

まどろみから覚めた頃、時計の針は正午の時刻を越えていた。


「行ってみようかな」


何故か、その場に答えがある気がして、私はA村に行くことにした。

中編に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ