織田の新入り
世は戦乱。
血に染まらなかった川は無く、血を浴びなかった大地は無い。
天下を狙う強者が弱者を喰らい、罪無き者が死んでゆく時代。
後世では戦国時代と呼ぶ。
そんな時代の尾張にも天下を狙う者がいた。
名を織田信長。『天下一の大うつけ』の通称を持つ。
そんな男が統治する清洲の町に、
「おお!ここが清洲か!」
と、町のど真ん中で大声で話すガタイの良い男が居た。
その男の名は、松林 八兵衛という。
顔はそこら中にいる普通の顔だが、身体は前記の通り、鍛え抜かれており、出身の村では力仕事の全般をこなしていた。
そんな男の後ろで疲れた様子で膝に手をついている女が居た。
「はぁ…やっと…着いた。」
と、息を切らしている女の名前はお鈴。八兵衛の幼馴染で、身体は小柄で、顔は可愛らしく、運動神経が良かった。なので、村では弓を担ぎ、森で狩りを任されていた。
「やっぱり着いてきたのか…」
「あっったり前でしょ。あんな爺さん婆さんしかない居ない田舎で暮らすより、都会に来た方が楽しいでしょ。」
「まぁ、村へ返すのも面倒だしな。」
と、お鈴は「そうだろう。」と言わんばかりの顔をしながらも、
「まぁ、来たところで何したらいいか変わらないし、あんたに暫く付いていくよ。」
「まぁ、いいが俺は信長様の下に着く気だから、巻き込まれても知らんぞ。」
と、そんな発言を尻目にお鈴は商店街の屋台に目移りしていた。
そんなお鈴の様子を見ていた八兵衛は、
「…着くまで好きにしてていいぞ。」
「…しょうがないなぁ。」
と、言って、ものすごい速さで 町に消えていった。
八兵衛は溜め息を吐くと、
「信長様は功績を挙げて者は、身分に関わらず、出世されると聞く。早く出世して信長様を天下人にしたいもの…。その前に兵になるにはどうしたらいいか…町の者に聞いてみるか。」
と、言って、商店街に向けて脚を進めていった。
「と、言っても俺も何も食べてないから、何か食いに行こうか。」
と、意気揚々と町を進んでいくと、団子屋の前に、人集りがあった。
八兵衛はその中の1人の男に声を掛けた。
「何かやっているのか?」
「いや、あそこに団子屋があるだろう?そこの娘が山賊どもに絡まれているんだ。」
そう言われ、デカイ身体を使って、人集りの中心へ向かうと、そこには先程の男の言う通り1人の女の子が7人の男に腕を掴まれていた。
「止めてください!」
と、腕を振り回しながら女の子は抵抗するも、
「おいおい、人に熱い茶を掛けておいて、その態度はなんだ?服の弁償してもらいたいんだが、お前の店には金が無いらしいじゃないか。なら、体で払うしかないよな?」
「それは貴方達が私に脚を引っ掛けて…」
それを見ていた八兵衛の下にお鈴が来た。
「何やってんの?」
「アホが1人の女に集団で絡んでいるらしい。」
と、そんな声を聞いたアホの1人がこちらを向いて、
「おい、そこのデカ物。俺らがなんだって!?」
と、それを聞いた八兵衛は頭を掻き、
「お鈴。ここまで歩いてばっかで面白くなかっただろ?」
と、言われたお鈴は溜め息を吐いて、
「まぁ、脚しか使ってなかったから、上も使いたいけどねぇ。」
そんな会話を聞いた山賊達は
「俺らはこの娘、汚ねぇ茶で綺麗な服を汚されたんだぜ?」
と、そんな会話をしている脇で女の子は続けて抵抗していたが、「大人しくしてろ!」と言われ、八兵衛の方に押し飛ばされてしまった。
八兵衛は女の子の立ち上がる手伝いをしながら、
「何も投げ飛ばさんでも。」
「物分かりの無いバカだな!おい、お前ら!横にいるチビの女は上玉だ!傷物にするなよ!」
と、言われるとヘラヘラと笑いながら、周りに居た山賊達が刀を抜いて近づいてきた。