『大東エキスポ開催まで、あと7日』(平成31年4月20日)
会期まであと1週間──。
俺は各会場を順に回って設営に立ち会い、不備がないか入念にチェックすることが日課となっている。大東エキスポでは、既存の施設を使い、極力設備投資はしないことにしている。しかしながら俺が確認に訪れた『深北緑地』は別である。
歌と音楽で綴る『夢の大東・ミュージックフレンド』会場となるこの公園には、コンサートを実施するための設備がなにもない。今は大型野外ステージ設営の真っ最中である。クレーン車が入り、ステージバックに高さ10メートルのトラストを組み立てている。ここに大型映像を組み込み、さらに屋根を付けて照明を何台もぶら下げるのだ。
大東初の大型野外ステージである。会期中は、『エゴラッピン』や『ベンチャーズ』など大東に縁のあるミュージシャンが連日揃い踏み大集合しての凱旋ライブを開くのだ。
「おはようございます。久しぶりですわ。こんなでっかい野外ステージ組むのん!」
俺がステージから少し離れた場所から組み立て風景を監察していると、いつの間にか舞台装飾会社のチーフが俺のそばに立っていた。
「ほんまに『金はない! 大東エキスポ』ですかぁ!?」
「ほんまに金はない! このステージに金かかるから、運営費が出てこん。タレントや出演者のギャラはみんなタダや! あんたとこともあとで要相談せなあかんしな」
その時、エンジン音を唸らせて、荷台に巨大な発電機を積んだトレーナー、電源車が2台入ってきた。まるで、小さな発電所がそのままそっくり引っ越してきたような仰々しさである。
「始める前から、下請け泣かしてどないしまんのん! 大川さんとは長い付き合いでんがな。これでも濡れ雑巾絞って絞って、もう1滴も雫も垂れんくらい絞ってますねんで!」
「冗談、冗談、チーフにはいつも無理ばっかりきいてもろてること、ようわかってます。たまには俺にもちょっと上から目線でもの言わせてえや」
「了解! ただし、エキスポの間だけでっせ!」
チーフは俺に挨拶がわりに念を押すと、指示を出すために、電源車に向かって駆けだした。2台の電源車は客席から見えないように、ステージ裏に並んで駐車した。
「いよいよやな……!」
『大東エキスポ開催まで、あと3日』(平成32年4月24日)
カウントダウンが秒読み段階に突入した──。
事務局のある住道本通り商店街でも、『地産地消・大東EXPOバル』ブースの設営が始まった。アーケードには『祝・大東エキスポ』の看板がぶら下がり、エキスポ開催ムードが一気に高まってきた。
俺は連日会場を回り、漏れ抜けがないか最終確認作業の真っ最中である。現場によって消防警察の立ち会いが入ることもあり、彼らへの対応だけでも気を使う。これに各現場の運営、進行ディレクター達と打合せがあり、時間も体もいくつあっても足りない。
今朝も朝イチで、『大東中央体育館』へ出向いた。ここには数年ぶりに復活したバドミントンの女子ダブルス、オグシオこと小椋久美子と塩田玲子が登場する。一斉を風靡した美人ペアが地元の中学生や高校生と交流を深め、試合形式のデモンストレーションを行う。
その足で、もう1カ所『サーティーホール』へと足を運んだ。ここは『大東エキスポ』のメイン会場のひとつだ。音響、照明機材の搬入に立ち会い、進行ディレクターから進捗状況の報告を受けた。考えてみたら、よくこのかき入れ時のゴールデンウィークを挟んでホールを開放できたものである。大東市長も公約通り、やる時はやるものである。
ここ『サーティーホール』は全国各市町村単位で分不相応の『箱物』が増えすぎたなかにあって、よく健闘していると思う。ほとんどのホールはバブル崩壊で予算がなくなり、継続して人を呼び込む企画を打てなくなり行き詰まっている。要はしっかりした事業計画もなく、ただ見込みだけで、とんでもない『箱物』を拵えてしまった報いである。
話は少しそれるが、その代表的な失敗例が大阪市の土地信託事業だ。『ビッグステップ』や複合娯楽施設『フェスティバルゲート』など6施設を建設したが、そのうち4施設の信託事業をすでに中止した。『フェスティバルゲート』の負債は380億円あったが、その売却額はわずか14億円というからびっくり仰天! しかも、損失はこれだけにとどまらない。複合ビル『オーク200』と商業施設『オスカードリーム』の2施設の負債が920億円もあり、大阪地裁から当時の大阪市に対し銀行への支払い命令が出た。
これらの事業はいずれも前市長以前の市長たちの置き土産である。この天文学的な数字をどうやって解消するのか? 箱物行政の大失敗例であるのに、大阪市民が負債を受け継がされているだけで誰かが責任を取ったという話を未だ聞いたことがない。
夜になっても、事務局はばたついていた。開催がいよいよ秒読み段階に入り、皆、最後の追い込み確認作業に追われていた。黒田も奥の実行委員長席に陣取ったまま動かない。名刺入れを繰りながら、ずっと電話している。
突然、事務局内に女性スタッフの甲高い金切り声が轟いた。
「しゅ、しゅっ、しょう……、ほ、ほっ、さ、さかん……!」
女性スタッフは、心底驚きあたふたしている。おまけに呂律も回らない。
「お、お、落ち……、落ち着いて……! は、はーい、し、しーん呼吸!」
黒田は女性スタッフを落ち着かせようと、一緒になって深呼吸をした。
「はい、落ち着きましたね。では、ゆっくりしゃべりましょう。どうぞ」
黒田はゆっくり両方の手の平を下にして小さく上げ下げしながら女性スタッフを宥めた。
「……首相補佐官から、黒田実行委員長にお電話です!」
「首相補佐官?」
今度は黒田が怪訝な表情を浮かべている。とにかく黒田は電話を代わった。
「はい、お電話代わりました。黒田です。……えっ! 明々後日ですよ。……ほんまですか! では、日本国代表ということで……。よろしくお願いします」
黒田が電話を切った。
「おい、皆聞いてくれ! どえらいこっちゃ! ほんま、えっ、えらいこっちゃ、ほんまにえらいことですよ、これは! で、ど、どないしよう!」
黒田は急に取り乱しだした。
「黒田、落ち着け! はーい、しーん呼吸!」
今度は俺が黒田を落ち着かせるため、一緒に深呼吸を始めた。
「首相や!」
「首相? 首相って、日本国総理大臣のことか!?」
「来る言うとる!」
「来る? いつ?」
「明々後日!」
「しあさってと言うたら……、開会式セレモニーやんけ!」
今度は、俺が心底驚いた。
「おい、皆、えらいこっちゃ! 日本国総理大臣が視察に来ると言うとるぞ!」
「ええっ──────────────────────────────────!」
俺の言葉に居合わせたスタッフ全員が素っ頓狂な声を同時にあげた。
「とにかく、これはすごいこっちゃ! 黒田、時の総理大臣も俺らの博覧会を認めているというこっちゃ。ひょっとしたら、おまえ、これって国民栄誉賞もんかもしれんぞ!」
「国民栄誉賞!」黒田の目が輝きを増した。
「とにかくバンザイや! 黒田、前祝いのバンザイ三唱や!」
「せやな……。よっしゃ。ほな、皆、いくでぇ!」
「皆さん、どうぞ、ご起立、ご唱和をお願いします」
黒田の呼びかけにスタッフ一同立ち上がった。
「『大東エキスポ』の成功、日本国総理大臣の大東初訪問を祝しまして、バンザイ三唱です」
黒田は呼吸を整えるため一拍おいた。黒田に続いて、皆が唱和した。
「バンザーイ! 総理大臣」
「バンザーイ! 大東エキスポ」
「バンザーイ! 国民栄誉賞」
商店街の端から端まで、その合唱の声がいつまでも鳴り響いた……。
時刻は、すでに午前0時──。なのに誰も席を立たない。最後の追い込み作業に皆、俄然熱が入っている。俺と黒田は会議室に移動し、開会式セレモニーの打合せをしている。
「ほんまに、総理大臣、来るんやろか!?」黒田はまだ疑心暗鬼である。
「来るんちゃう……」
俺はそう答えたものの、「ほんまかいな?」と、実は疑心暗鬼である。そう考えたくなるのも、総理官邸からの申し出があまりにも急で唐突だったからである。
「そもそも官邸から直接電話が入るかぁ! 普通、党の大阪支部からとか、段階踏むやろ! ひょっとして、がせ?」
「俺もそこだけ気になってる。せやから確認するために、産朝の真田記者に、明々後日、厳密に言えばもう明後日やけど、首相の行動予定調べて欲しいと電話入れてある……」
「なんで日本国の総理大臣自らがわざわざこんな大阪のど田舎、大東くんだりまで来る気になったんやろ? ようわからんなぁ」
俺と黒田は顔を付き合わせて、これまでの経緯を振り返った。
「……各界にPR大使が続々登場し、年末恒例の流行語大賞にも選ばれた。『大東』の地名が全国に広がり始めると、政権与党としても、だんだん見過ごせんようになってきた。安保に憲法改正……、国にも問題が山積みや。それをひとつづつ処理していくには……」
「時には、敵の陣地に打って出る! 袖手傍観しとるだけやったら、大阪府知事、市長を抱きこんだ前市長連合にここ『大東』を含む北河内から大阪の票ごっそり持っていかれてしまうわなぁ……。それよりも前市長らと仲良うしといた方が……。あかん! 俺には、そんな火中の栗を拾いに行くようなクソ度胸はあれへん。やっぱ……」
黒田は一人でぶつくさ言っている。
前市長にしたところで『大東エキスポ』は、まさに棚からぼた餅である。大阪市長時代の平成25年秋の堺市長選で公認候補が政党結成以来、初の敗北を喫し、さらに特別区の区割りで頼みとしていた協力野党にも反旗を翻された。大阪市長出直し選挙で再選されたもののまさに満身創痍。最後の望み、大阪都構想の是非を党う住民投票で僅差とはいえ、痛恨の敗北を喫している。
それでも諦めの悪い前市長は、平成27年暮の府市ダブル選で知事はそのまま続投、大阪市長選には弁護士出身の現市長を国政から呼び寄せ、立候補させるという新手を繰り出した。あとは皆が想像する通り前市長は陰で院政を敷き、府市両首長を傀儡政権のごとく動かした。
そんな折、現市長が発令した【OSAKAダブル条例】があっという間に効力を持ち始めるや、まだまだ妄想にすぎなかった政策『大大大阪都構想』を一気に押し上げた。さらに、ひょんなことから俺たちが企画した『大東エキスポ』が地方再生、大阪復活の象徴として、あれよあれよという間に日本中から大注目、脚光を浴び出したのだ。ま、ある意味、俺達大東市民が前市長を勝手に担ぎ出してお膳立て、権力を与えたといっても過言ではないか!? 今では前市長にとって『大東』とは、スーパーマンが生まれたクリプトン星、ウルトラマンが元気を回復する『光の国』のような存在になったのだ。
前市長連合は、今や完全に“大阪”を掌握した!?
このままでは大阪の基盤は壊滅状態になる! 国の方針、舵取りが使命の首相にとって、いちいち地方都市の命運などにかまっていられないが……。しかし、前市長は一種の地雷みたいなものである。踏めば死ぬし、そのありかを知れば恐れずに足らず! それより協調できれば、政権運営もさらにうまくいく。首相訪問の裏には、本当に二人だけの黙約のようなものがあるのかも……?
その時、俺の携帯が鳴った。着信は真田記者だった。
「うちの番記者にあっちこっち当たらせたところ、総理の今週のスケジュールだけはわかりました。明々後日、時間的にはもう明後日ですね。午後から大阪入りです!」
俺は深夜にも関わらず、調査してくれた真田記者に丁重に礼を言って電話を切った。
「間違いなし! 総理大臣、大阪に来るや!」
前市長連合のお膝元に総理自らが足を運び、『大大大阪都構想』にドカンと風穴を開けてやろうという気になったのか? いずれにしろ……!
「官邸まで食いついてきよった! 黒田、明後日の開会式、直ちに警備の人間増員や! 警察にも応援部隊増やすように直談判や! すぐ手配や!」
「今からかぁ!」
黒田は壁の時計を見つめたまま、居残りさせられている子供みたいに拗ねてみせた。
『大東エキスポ開幕!』(平成32年4月27日)
『……5、4、3、2、1、大東エキスポ、ただ今開幕しました!』
午前9時、協力をお願いしていた大東市内のパチンコ店の大型映像や不動産、居酒屋などの電光ボードが『祝・大東エキスポ開幕』の文字を表示した。各会場周辺には、大東EXPOのロゴが入ったカラフルな幟が幾重にも立ち、賑わいを演出した。
この朝、大東全体が早朝から異様な熱気と興奮に包まれていた。普段土曜の朝、JR学研都市線の上り電車は降車客が極端に少なく空席ばかりが目立つのに、この日に限って上下線とも始発からギッシリ満席満員、乗車率200%状態である。電車が住道駅に到着するたびに、大量の乗客を吐き出した。駅前デッキの特設ステージでは春場所を終えた力士、それから大東各地区のだんじり保存会の祝い太鼓と鉦の演奏が人々を歓迎した。おもしろかったのはPR大使に任命したタレント、芸人たちが予想以上に多数来訪したことだ。もちろんノーギャラである。朝から大東市内をあっちこっちウロウロ、ファンの追っかけもあってこれが、ひと昔前に流行った絵本『ウォーリーを探せ』を連想させた。大東の街を隅から隅まで使ってタレント探しの隠れんぼ大会として男女年齢を問わず盛り上がり、予想以上の賑やかしとなった。
それからもうひとつ、取材陣が殺到した。総理が開幕セレモニーに参加することがいつの間にか報道機関に漏れ知れ渡ったのだ。我々は真田記者に情報を流しただけである。ほかに誰がこの情報をリークしたのか? 考えられるのは官邸サイドである。とにかく俺は朝からこの報道記者達の整理に振り回された。開幕セレモニーは、博覧会としては珍しいナイター、夕刻5時からである。なのに、記者達は朝早くから大挙して押し寄せた。
その頃、事務局のある住道本通り商店街では大東出身のタレント、彦摩呂がカメラに向かってしゃべっている。『地産地消・大東EXPOバル』のレポート、取材第一号である。
「懐かしいなぁ。僕は昔、この商店街の先にある『シャツストーリー』という店でバイトしてました。ママのカレーおいしかったなぁ。ところで、ここのお薦めはなんでっか?」
彦摩呂がオシャレなカフェスタイルのお店の前で立ち止まり、スタッフの女性に尋ねた。
「きょうは、バーニャガウダです。地元農家の方が丹精こめて作られた蓮根やトマト、きゅうりなど野菜をサラダ感覚で食べていただきます。おひとつどうぞ!」
女性スタッフがセロリをバーニャガウダのソースに浸して、彦麻呂の口に運んだ。
「うわぁー! バーニャガウダというよりも、お口の中が和と洋、味のてんこ盛り。これぞまさに『大東・お口の博覧会』やぁ! お楽しみはまだまだこれから! テレビの皆さんに、僕のお薦め、『大東エキスポ』のおもろい見所いっぱいご紹介します。さぁ、次ぎ、行こ!」
時刻は午後3時──。
開幕セレモニーまであと2時間。事務局に戻って、とりあえずひと息つこうと弁当を広げた矢先、黒田の携帯が鳴った。黒田の顔に一瞬、緊張が走る。
「えっ? あと10分で到着! その前に視察? どちらへ、は、はい、わかりました」
黒田は電話を切るなり、叫んだ。
「大川、サーティホールまでダッシュや!」
「な、なんで!?」
「開幕セレモニーの前に、総理が『大東エキスポ』の視察したいって言うてはる」
「そんなアホなぁ。勝手にスケジュール変えてもろたら困るがなぁ! 黒田、お前、先に行っといてくれ! 俺は記者連中に連絡や。うるさいで、あの連中!」
黒田は俺の話が終わる前にもう事務局を飛び出している。俺は無線で、末広公園の広場付近にいる運営スタッフを呼びだした。
「チーフに連絡。大至急、記者席にいる記者達に伝えてください。総理の予定が変更になり、『サーティホール』に間もなく到着します。繰り返します……」
俺は無線機に叫ぶと、広げたばかりの弁当をほっぽり出して黒田に続いた。
時刻は午後3時20分──。
到着予定時刻より10分遅れで、総理を乗せた黒のリムジンが、パトカーに先導されて到着した。最後尾の車からSPたちが飛び出してきた。その一人が後部座席のドアを開けた。スラリと伸びた足がスッと地面に降りた。中から現れたのは、お待ちかね、正真正銘本物の日本国総理大臣であった。総理は群衆に向かって軽く手を振った。
「お疲れさまです。ご多忙にも関わらず、ようこそいらっしゃいました……」
「ありがとうございます。私は民衆の爆発をどうしてもこの目で見て確かめたかったのです。民衆の躍動なくしてローカルミクスの改革、さらには成長もなし! 今日はよろしくお願いします」
総理と黒田がガッチリ握手した。カメラのシャッター音が鳴り響き、何台もの報道カメラが囲んだ。総理を鋭い眼差しの男達、SPが取り囲み、さらに警察官、ダブルキーパーの屈強な制服組が警護するという仰々しいお出迎えとなった。
総理はまず『市民ギャラリー』を訪れ、大東の歴史や文化を紹介する『大東の昨日・今日・明日展』を見学した。続いて住道本通り商店街の『地産地消・大東EXPOバル』へ徒歩で向かった。当初の予定では午後4時頃に到着したあと、軽食休憩を経て開幕セレモニーに来賓としてご臨席いただく予定だったのだ。
俺の嫌な予感的中──!
総理を追って、記者だけでなくやっぱり野次馬連中も一緒に移動した。総理は沿道の野次馬にしきりに愛想良く手を振って、歓迎に応えている。俺は横目で確認しながら無線で、屈強な警備ダブルキーパー達を呼び集めた。以前、前市長らが来訪した時の経験を教訓に、先回りして商店街入口すべてをガッチリガードして固め、入場制限をした。
それでも、人、人、人、おばちゃん、オバハン、おバァ、オッサン、観光客……!
商店街のカフェで、総理は店のスタッフたちと気さくに会話を交わしている。
「これとこれ、ください」
総理は野菜を練り込んだ種類の違うイタリアンジェラートを指した。女性スタッフがアイスクリーマーでジェラートを丸く掬って差し出した。総理は代金を差し出したが、スタッフは右手を振って受け取ろうとしない。
「ダメですよ。ちゃんとお代を受け取らなければ……。なんと言っても、『金はない! 大東エキスポ』じゃないですか! はい、これ」
「あっ、はい、あ、ありがとうございます……」
女性スタッフは総理に諭され、赤面、おどおどしている。
俺は一連の総理の行動を見ていて、ハタと気づいた。総理は、これがしたかったのだ。パフォーマンスは前市長だけの専売特許ではない。自分だって、できる! 庶民派だという事を証明して見せたかったのだ。まして乗りのいい大阪である。
「総理、そうり、アイムソーリー、ベリーソーリー、こっち向いてぇ」
カメラを構えた大阪のオバハンが早くも本領を発揮した。いくら悪気がないとはいえ、ともかく一国の代表、総理に向かってこれはないだろう。
「いやぁ、大東市民は気さくな人ばかりで、実に楽しいところですね」
総理は囲んだ記者に答えた。総理の舌も、いつになく軽い。
「やっぱり『ユニバに寄ってから、大スポ』に来た方が良かったかな」
総理はキャッチフレーズまで覚えている。こんなパフォーマンスを総理が見せることはまずない。これも前市長をかなり意識しているに違いない。
「今日は、JKさんはいないのかな?」
待ってましたとばかり、事務局からDAITO・JK5が飛び出した。我ながら、なんと手回しがいいのだろう。
「はーい、ここにいまーす!」JKの5人が総理の前に並んだ。
「いやぁ、お嬢さん達にもこうしてお会いできて、大東市に来た甲斐がありました。僕にもお願いできますか、あれっ? ねっ!」
総理は両手で輪っかを作って見せた。JKのリーダーが笑顔で肯いた。
「はい、大丈夫です」
リーダーの女子高生が言った。彼女たちは一国の総理を前に、いっこうに動じていない。
「それじゃ、みんな用意はいいね」
JKの5人が総理の前に広がった。
「では、みんないくわよ。それでは日本国総理大臣様の地方行脚の安全と、ますますのご活躍、ご健康、そして我国のますますの発展、『大大大阪都構想』の実現を願って……!」
「元気ビーム注入!」
5人が声を揃えた。総理のパフォーマンスはあえてレポートしない。夕方のニュースでキッチリ報道されたから、見なかった人は勝手にご想像してください。
このパフォーマンスがきっかけとなり、JK5は会期中、数万人の人々に元気ビームを注入させられるハメになった。もちろん、無料である。だが、賽銭代わりに小銭を置いていく人々が後を絶たなかった。
時刻は午後4時──。
大東エキスポオープニングセレモニーに参加するVIP、来賓、タレント、文化人がぞくぞくJRで到着した。とりわけ住道駅前は、ハリウッドスター達がアカデミー賞授賞式に向かうようなセレモニーロードと化した。
笑っちゃったのは、名誉会長を兼ねる前市長が現市長、知事を引き連れJRに乗ってやって来たことだ。『大東エキスポ』などに顔を突っ込まなければ、阪和線と片町線(学研線)どっちが古い? どっちもボロい! と、昔から揶揄されてきたローカル線に乗ることなど一生なかったであろう。
セレモニーに参加する芸人、タレントの一団はすべてパビリオン『住道平和座』の野外ステージ横に設営した大型の仮設テントに押し込んだ。中は、楽屋さながらである。更衣室を設け、化粧鏡、姿見なども並んでいる。出演者はすべてPR大使に任命された者ばかりで、2色のエキスポのトレーナー、男性陣は緑、女性陣は赤に着替えてもらった。
「用意ができたら、二人で掛声かけたらよろしおまんねんな」
漫才コンビTKOの木本がディレクターに確認した。横では、相方の木下が2個目の楽屋弁当をつついている。
時刻は午後5時──。
ポ、ポッ、ポーン!
沈黙を突き破る爆音が轟き渡り、夕暮れの空いっぱいに光の花が広がった。『大東エキスポ』開幕を告げる打ち上げ花火の饗宴だ。
「♪大東の名前消えても、心の火は消えない。心で感じる大東♪ けったいな街・大東♪ 人がおもろい大東エキスポ……♪」
ステージにカラフルな照明が交差し、『無我夢酎』の二人、奥井君と豊田君による『大東EXPOテーマソング』のデュオが現れた。
「皆さーん、こんにちは!」
聞き覚えのある、おじいちゃんとおばちゃんの声がテーマソングに被った。大東出身の元MBSアナウンサー角淳一と、漫才コンビ『ピンクの公衆電話』の甲高い声の方、清水よし子である。
「いよいよ開幕しました、大東エキスポ! 2020年のこんにちは! 本日のメイン司会にご指名いただきました私、角淳一と……」
「数十年ぶりに大東へ帰ってきました、清水よし子で〜す!」
「ヨッちゃん、僕ら珍しい組み合わせですね。なんで僕らかと言いますと……」
「私も角さんも、この末広公園のすぐ西隣ある住道中学出身なんです。ただ、それだけ! 単なる年の離れた先輩と後輩という関係だけなんです」
「僕は今、四條畷に住んでて、住道はいつも電車から車窓の風景として見慣れてます。だから特に感想はないんですが、ヨッちゃんはどうですか?」
「いやぁ、ビックリしました。中学校も全部鉄筋になってるし、片町線が高架になって……! おまけに駅前の風景がぜんぜん変わってしまって……。駅に着いた時、ここ、どこ? 思わず不安になりました」
「でも、ヨッちゃん、街の風景は変わっても、変わらないものがありますね、ここには?」
「はい、人間です。ン十年ぶりに同窓生と再会しました。みんな姿、形は変わりましたが、人間性は変化なし。気づいたら私も“大東のおばちゃん”にしっかりとなってました」
「なるほど、ヨッちゃんも大東に帰って来て、本来の自分に戻ったというわけですね。さて前置きはこのくらいにして、大東エキスポ開会式セレモニーを進行して参りましょう!」
「はい、角さん、承知致しました。それでは最初に、本日、御祝いに駆けつけて下さいました、ゲストの方々、大東エキスポPR大使の皆様をご紹介しましょう!」
「松竹芸能所属、大東市赤井出身のTKO、木本武宏さん、そして木下隆行さんのご両人」
角さんに紹介されてTKOの二人がステージ上手から登場した。木下は得意ギャグ、笑福亭鶴瓶の顔まねをしながら客席に愛想を振りまいている。
「続いて御結婚当初、川中新町にお住いであった桂南光師匠……」
「スポーツ界からは元三洋電機所属、オグシオの愛称でバトミントン界で一世を風靡した小椋久美子、潮田玲子のダブルス……」
女性ゲストは、ヨッちゃんが紹介した。以下、長くなるので割愛。
出演者リストは、牛島和彦・元中日ドラゴンズ、建山善紀・阪神タイガース、東風万智子(旧名/真中瞳)・女優、中納好恵・EGO WRAPPINボーカル、彦麻呂・タレント、高山トモヒロ・漫才、なるみ・芸人、桂文珍、桂出丸・落語家、元大関把瑠都・大相撲尾上部屋、北田スミ子・元バトミントン全日本チャンピオン、長善和・元モスクワオリンピック自転車代表、宮里聖志・プロゴルファー、寺田千代乃・アートコーポレーション代表取締役、光新星社長・吉本興業/松竹芸能代表、OSAKAダブルキーパー会長、現大阪市長、大阪府知事、大阪観光局長、大東市長、それから『DAITO・JK5』に……。
「人間国宝・文楽の竹本住大夫さん、そして、もちろん、お染と久松」
最後に登場したのは文楽の重鎮である。三角関係に悩む人情話、お染と久松が登場する『野崎村』を特設ステージ『住道平和座』のこけら落としで上演する。
こじつけかもしれないが、消えゆくかもしれぬ大東の命運と文楽協会の顛末がどこかオーバーラップする。どちらも前市長という男が絡んで、宿縁を感じるのだが……。その三者がこうして、今夜この地、大東で相まみえるのは本当に不思議な因縁である。
ともあれステージいっぱいに、多彩なゲストがぎっしりと並んだ。
「そして、皆様に是非ともご紹介したい方がいます。我らが大東エキスポ名誉会長です」
万雷の拍手に迎えられて名誉会長が登場した。会長は人間国宝に深々と頭を下げた。
「『大東エキスポ』バンザイ! まったくのゼロからのスタートなのに、ここにいる皆さん、大東市民の取り組み心意気がこんなにも素晴らしい、人が主役! おもろい大東のエッセンスてんこ盛り、ある意味でハイブリッドエキスポともいうべきユニークな博覧会を実現させました。まさに『大大大阪都構想』の象徴“維新スピリッツ”の発揚と浸透です。皆さんのような元気溌剌、スーパー市民がいる限り、必ずや大阪は再生します!」
名誉会長の手には、俺たちのマイクに混じって、NHKや民報のマイクの固まりが握られている。さながら選挙戦の演説を見ているようだ。
「角さん、本日『大東エキスポ』開幕の御祝いにと、日本を代表する素晴らしい方がお忙しい中、東京から駆けつけてくださいました。ご紹介します。日本国総理大臣です」
ヨッちゃんが紹介し、総理がゆっくりと登壇した。
「『大東エキスポ』開幕、おめでとうございます。この地へ来て、肌で感じました。第三の矢、民衆の爆発です! 地方が元気である事は、なによりも日本をしっかり支えている証! 我が日本国が目指す方向性を、大東市の皆さんに教えられました。ありがとうございます」
総理が客席に向かって、深々と頭を下げた。続いて、角さんが現市長にマイクを回した。
「いやぁ、僕も改めて大東市民のものすごいパワー、エネルギーを感じました。特に、オバちゃんがすごい! その元気とパワーをすべて僕にくれたら『大大大阪都構想』など明日にでも実現できます。皆さん、とにかくいっぺん大阪を“洗濯”してみようじゃあ〜りませんか? その時には、お力を貸していただけますよね、総理!」
総理は黙って、ただ笑みを浮かべているだけである……。
「次は、いよいよお前の番や! 」
舞台袖で俺の横に並んだ黒田は極度に緊張している。ステージは知事のお祝いの挨拶に変わっている。
「……角さん、きょう、こうしてエキスポが開幕できたのも、この人の陣頭指揮の下、大東市民の皆さんが力を結集して頑張ったからです」
「そうです。この人がいたらこそです。さっそくご登場いただきましょう!」
俺は、舞台袖で黒田のケツをポーンと叩いて送り出した。
黒田は緊張を解くようにつばをゴクリと飲み込むと、ゆっくりと歩みだした。名誉会長、総理、現市長、知事らに深々と頭を下げてから、ステージセンターへと進み出た。
「皆様に改めてご紹介します。我らが大東エキスポ黒田崇実行委員長です」
角さんが客席に言った。黒田は緊張してはいるが、意外にも威風堂々としている。
「黒田実行委員長は住道中学出身で、僕の後輩に当たり、ヨッちゃんとは……」
「角さん、余計なことは口にチャックです。ちゃんとステージを進行してください」
ヨッちゃんが角さんをちょっとこずいた。
「はいはい、ちなみに黒田実行委員長と僕らは、同級生でも同窓生でもない、単なる同校生です」
角が黒田をちょっと茶化して紹介した。
「しかしまぁ、こんなけったいな博覧会、ようやろうと決意しはりましたね」
「最初は、ほんまにできるんか? と、侃々諤々議論がありました。後ろ向きな意見ばっかりで、埒あかん。それやったらいっぺん大東市民に問うてみたらどないやと、やってみたのが署名活動です。そしたら1ヶ月ほどで、大東の人口12万3千人を超える署名が集まりました。大東のためによっしゃ、一肌脱いだろと、市民が乗ってくれたんです」
黒田は、ちょっと一呼吸おいて会場内を見回した。客席はしきりに頷いている。
「しかし、それでもまだ、問題が山積みでした。なんちゅうても……!」
黒田は、心得ている。また、ひと呼吸置いた──。
「金はない! 大東エキスポ!」会場から、抜群のタイミングで合いの手が入った。
「そうなんです! 風呂敷だけは大きく広げたものの、資金ゼロ! あかんかったら皆で“缶拾い”したらええやんと、腹だけはくくってましたけど……」
「ほんまお金の苦労だけは、大変ですものね。わかるわ、その気持……」
ヨッちゃんが変なところで食いついてきた。
「それでも、皆さんが一丸となりはったから、こうしてこの日を迎えることができた!」
角さんがフォローした。
「本日、この時を迎えることができたのは名誉会長、大阪府知事に市長はじめ各界のPR大使、地元企業、そして日本国を代表して総理、なにより大東を愛してやまない、市民の皆様のもの凄いイチ押しがあったおかげです。本当にありがとうございました」
黒田は大粒の涙をぼろぼろ流している。俺も素直に感動した。終わればすべてはかなく消えてしまうが、今日この日をこの地で迎えることができたストーリーだけは、俺たちの中で永遠に残る。
「続きまして、大東エキスポ実行委員会並びにPR大使、御来賓の皆様にご参加していただいての、未来に託すモニュメントの除幕式を執り行いたいと思います」
スタッフが舞台下から除幕式で引っ張る紅白のロープを数本、ステージ上に伸ばした。ステージに俺や令子、吉村君など実行委員メンバーも上がった。ロープはステージ前に設けられた縦横1メートル四方、紅白幕がかけられたモニュメントに繋がっている。舞台上では、登壇者たちが事前に用意してあった白手袋をはめ、それぞれ伸びてきた紅白ロープを掴んだ。ステージに向かって左手、下手位置にファンファーレ隊も登場した。
「除幕式の掛け声は、TKOの木本君、木下君にお願いします」
角さんの進行で、TKOの二人も紅白ロープをつかんだ。
「それでは皆さん、用意はよろしいでっか?」
その二人の呼びかけで、ファンファーレ隊の勇壮なトランペットが鳴り響いた。暗転の中、ステージ上にカラフルな照明が激しく交差した。ファンファーレが終わると──。
「いきまっせ! よーいさ!」二人は、大東のだんじりの掛け声を模して発した。
「よーいさ!」
登壇者、客席一体となって唱和し、紅白幕にスポットライトが当たった。登壇者が一斉に紅白ロープを引っ張ると、紅白幕がはらりと落ちた。光の中から現れたのは、石碑であった。
『光は東方より、輝きは永劫に 大東に捧ぐ』
角さんが碑文を読み上げ、ヨッちゃんが由来を説明した。
「我が街、大東、地名の由来は大阪市の東に位置し、その衛生都市としての発展を期待して、1956年、昭和31年に、光は東方よりという古代ローマの諺に託して名付けられました。私たちは『大東』という都市の名前は消えても、その輝きは未来永劫に消えないものとその言葉のあとを綴りました」
「続きまして『大東エキスポ』の開会宣言です。黒田実行委員長、力強くお願いします」
ヨッちゃんに促されて、黒田は再び舞台中央に進み出た。黒田は客席に向かってヒットラーのように右手を大きく挙げた。
「ここに『2020大東エキスポ』を開幕することを宣言します!」
ポ、ポッ、ポーンッ! 再び轟音が鳴り響き、夜空いっぱいに光の花が何本も咲いた。花火が静まると、コンコンチキチン、コンチキチン……と、だんじりの鉦の音がどこからともなく流れてきた。
「さぁ、『大東エキスポ』只今開幕しました。これから2週間に渡って、大東の街を舞台にエキスポが開催されます。皆さん、ぜひすべての会場に足を運んでくださいね。さぁ、ここからは今夜一番のクライマックス『大東だんじりカーニバル』です!」
「角さん、大東の全だんじりが史上初めて集合したんですってね」
「そうなんです。ヨッちゃん、その数、全部でなんと34台。岸和田に次いで2番目のだんじり数なんですが、人口比率の数でいうと大東がなんといってもナンバー1です」
「へぇ、そうなんだ。凄い!」
「今夜は、夜曳きで大東市内を練り歩きます」
「総理はご多忙につき、このあとすぐ帰京されますが、名誉会長、現市長、知事には、だんじりにご登壇願います」
「それでは、私たちも実況中堅ポイントに移動して、皆様に素晴らしい『大東だんじりカーニバル』の模様をお伝えしましょう」
出演者達はすでに舞台から移動している。ステージでは、DAITO・JK5による、市民に向けての『元気ビーム注入式』が行われている。しかも客席から何度もビーム注入をせがまれ、彼女たちはなかなかステージを降ろしてもらえない。
だんじりはすでに末広公園周辺に待機している。あちらこちらで太鼓と鉦の音が一斉に鳴りだし、祭りのムードが一気に高まった。
司会の角とヨッちゃんが移動してきた。二人は乗り込み地点に設けた仮設テントの中継席に入った。これから順に各保存会のだんじりと、乗り込むゲストを紹介していくのだ。
俺と黒田はそんなVIPたちを見守りながら感無量であった。黒田はセレモニー終了後即、楽屋テントに飛び込むや、早変わりでいつの間にか、だんじり装束に着替えている。
「なぁ、大川、夢がホンマに叶ったなぁ! アントニオ猪木やないけど、ほんまにやる気と元気、あきらめんかったら、夢は必ず叶う! 俺、この年で始めて実感したわ」
黒田はパイプ椅子に座って行儀良く待機しているVIPや各界の錚々たるメンバーをちらりと見て、感慨深げに言った。
「そうそう、歩き続けるのはかまへんけど、立ち止まったらあかんちゅうこっちゃ!」
そういう俺も、黒田以上に達成感を実感している。
「すべてはALL FOR ONEいやONE FOR ALL いやいやALL FOR ALL 全部や」
俺も黒田もまったくのゼロからスタートし、ここまで辿り着けたことに言葉では言い尽くせぬ感動と気持の高ぶりを覚えていた。
「な、黒田、おまえも俺も、ようへこたれんと、ここまで頑張ったなぁ。たまには、自分で自分を褒めたってもええかぁ!」
黒田は俺に同意したかのように何度も頷いた。
「せやけど、大川、俺はもうこれっきりでええわ」
黒田が人差し指を1本立てた。
「俺も頼まれたって、金積まれたって、こんなしんどい事、誰がするかぁ! また続きがあるねんやったら、今度は客の一人として参加させてもらうわ!」
俺たちは照れ隠しに、お互いの肩を小突き合った。
しばらくして、進行ディレクターから準備OKの合図があった。
「皆さん、大東の夜を彩る『だんじりカーニバル』の準備が整いました。このだんじりには、本日ご来訪いただきましたPR大使の方々にも順に乗り込んでいただき、大東のだんじりの伝統と街の魅力を全身でご体験いただきます」
トップを飾る一番だんじりは、黒田が指揮する住道地区保存会のだんじりである。名誉会長と現市長、知事、大東市長の4人がだんじり正面に乗り込み、最後に黒田が乗り込んだ。黒田は3人の間に納まった。黒田は4人になにやら一生懸命説明している。
今夜のオープニングセレモニーの事で俺の頭はいっぱいだったが、3人の首長の揃い踏みをこうして間近にして……。今になって気づいた。
これってひょっとして、『大大大阪構想』の行方を占う前哨戦!?
「頭を飾るのは住道地区だんじり保存会、黒田実行委員長が会長を務めます……」
角さんが、だんじりの紹介アナウンスを入れた。
「さー、よいよい!」
「じょんやーさーじゃぁ!」
「よーいさじゃ!」
曳き手達の掛声がきっかけで、だんじりがゆっくり駒を進めた。
「続きましてご紹介するのは、御供田地区……」
それは大阪という海に沈みゆく小さな地方都市、大東の最後のもがきとも、懸命に浮かび上がろうとするあがきにも見えた。今はまだほんの小さなさざ波に過ぎない。それはやがて、日本を大きく変えようという大きなうねりとなっていくのか……。
暗闇の中、赤い灯、青い灯に揺れるだんじり行列がどこまでも、どこまでも続いた……。
それは消えゆく大東に別れを告げる送り火のようでもあり、同時に大東がもっとも輝いた瞬間でもあった……。
『大東エキスポ』を契機に、大阪が一気に動き始めた──。
新生、大阪都に隣接する都市をも巻き込んでダイナミックに大阪を改革する。『大大大阪構想』が論点である。現市長と知事がハッキリと連携を表明し、その設計図に当たる『協定書』を伝家の宝刀よろしく出してきた。これにより大阪市とその隣接都市を分割再編する特別区の区割り案に向けて、府市両議会及び大阪市に隣接する市議会で協議がヒートアップした。いち早く『大大大阪構想』参加を表明した大東市をはじめ、ほかの隣接8都市でも毎週のようにタウンミーティングが開かれている。各地域のダブルキーパーらの活動が功を奏したこともあるが、概して市民、府民とも関心度が異常に高い。
何もせんと、ぼぉ〜としているのもだんだんとしんどなってきた。ここらでいっぺん大阪をホンマに“洗濯”してみる事もええんとちゃうやろか!? そんな改革ムーブメントが大阪人の意識の中に怒涛のごとく渦巻き始めていた。
だけど、前市長の頭の中だけは誰にも覗けない。この秋念願の住民投票が実施され、賛成多数で可決された場合、初代・大阪都知事にでも立候補しようとしているのか? あるいは『大大大阪構想』を成功させるため未だ首を縦に頑なに振らない堺市を説得する工作員として、堺市長選に自ら打って出るのか!? それとも、予てより首相との蜜月を噂されているように、堂々と閣僚のポストに納まる、あるいは一気に総理の座へ──!?
俺はというと、ようやく奥歯に入れ歯を嵌めた。これでようやく焼肉もバリバリ食える! 還暦を前にもうちょっと踏ん張るかぁ〜と、元気もりもりの今日この頃である。
FMラジオから、長らく封印されていた声楽曲「おおさかカンタータ」が流れてきた。昭和45年の大阪万博後、沈滞気味であった大阪をもういっぺん元気にしたいと、歌謡曲の父、服部良一が作曲した。故朝比奈隆指揮、大阪フィル演奏の40分に渡る壮大な声楽曲である。大阪の活気あふれる街の風景が歌い込まれている。
「おおさかカンタータ」が歌ってる。
♪大阪は動くまち 夜明けから動く大阪 伸びるまち……。
(了)




