指紋認証
夕方にTwitterを眺めていたところ、間抜けなツイートがあった。
「左人差し指の認証登録がうまく行かない助けて」
意外に色々と回答があって、他の指で登録したら、という声が大勢だった。俺も気軽に「右で登録した良いのでは」と書いて寝た。
翌朝見ると「右人差し指もダメです助けて」とあった。昨日リツイートしていた奴が「右中指で登録したら良いのでは」と書いてあった。俺も何となくリツイートだけして寝た。
三日目。また「右中指でも登録できません助けて」と書いていた。よく見るとこの人物の写真は両手のイラストで、登録できないと言っていた指が描かれていない。本気ではなく、このイラストでからかっているのかもしれない。どうせストレスもあるので、引っかかったふりをして「左中指を試してみろよ」と返事した。
ちょっと忙しいので放置していたら七日も経ってしまった。久々にTwitterを見るとまた、「親指でも登録できませんでした」と書いており、本人写真のかわりに指の無い手を描いている。
「ようドラえもん、何か便利道具を使ったら」
からかって書き込みしたところ
「もう誰か指を貸してくれよ」
と回答が来たので、俺は「早く借りに来いよw 金は貸さねえよw」と書き込みをした。
そして翌日。俺は水産加工場に出張し、マスの缶詰製造を視察することになった。マス缶はマスを輪切りにして、その輪切りを巴の形になるよう缶に詰めて加熱して作る。
俺はマスを輪切りにする工程を覗き込んでいたところ、危ないという悲鳴が聞こえ、俺はマスを輪切りにする切断機に手をついた。
——約束通り、借りるぜ——
不気味な嗤い声が聞こえた後、俺の指は十本とも喪われた。