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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第10話 お義母様の優しさ

 翌日の午前中。またもや私と京子さんは、ブティックへと足を運んだ。どこも名の知れているブランドの店ばかり。

 気後れしている私と違って、京子さんは堂々としている。もちろん、いつものおくゆかしさはあるんだけど、私みたいに挙動不審じゃない。


「弥生さん、もっと堂々としていたらいいのよ。私たちのほうが客なの。それもVIPですよ?」

 今日はお義母様も一緒。隣でそんなことを言われた。

「あ、は、はい」

 そう言われても、慣れない場所だからしょうがない。だいたい、堂々とっていうのは、どんな態度でいたらいいのか。


 お義母様を見習おうと思って観察してみたが、無理そうだ。何しろ私は英語ができない。愛想笑いしかできない。


 もしかして、私ってアメリカだとまったく役立たずなんじゃ?あ、ちょっとへこんできた。


 お昼はお義父様も加わり、家族水入らずの時間となった。それも和食のレストランで、かなり嬉しい。

「アメリカにくるとなぜか、和食が食べたくなるんだよね」

 このお店はお義父様の行きつけの店らしい。そこまで高級感はないものの、どうやら有名店らしく、ハリウッドスターも来ちゃうとか...。


 そして、そんなお店でも私たちはVIPルーム。だけど、今日は秘書の方々もいない、お義父様、お義母様、一臣さん、龍二さん、京子さん、そして私。本当に身内だけ。


 京子さんを見ると、ほんのちょっと緊張している様子。


「弥生さん、ここのお料理もおいしいですよ」

「はい。楽しみです!」

 そう思わず元気に言うと、龍二さんが、

「弥生は食べるのが本当に好きだよな。花より団子だな」

とちょっと馬鹿にした。


 ムッ。

「美味しいものを食べるのが好きなんです。悪いですか?」

 言い返してみた。するとなぜか、京子さんが驚いたように私を見た。

 ん?なんで驚いたのかな?


「別に悪くはないけど、あんまりぶくぶく太って兄貴に嫌われないようにな」

「ははははは」

「ははははは」

 うわ。笑い声はもった。一臣さんと同時にお義父様まで笑った。


「なんだよ、親父」

 一緒に笑ったお義父様を一臣さんが睨んでる。

「いや、ぶくぶく太ったところで、一臣が弥生ちゃんを嫌うとは思えなくてつい...」

「ふん!弥生はぶくぶく太ったりしない。その辺もちゃんと俺が調整するから大丈夫だ。まあ、嫌ったりはしないけどな」


 調整?えっと、それってどういうこと?


「ほほほほ。本当に面白いわねえ」

 お義母様まで笑ってる。えっと~~、お屋敷だと食べる時に私語も厳禁くらいな雰囲気もあるのに。アメリカだからとか?


「京子さんは無理しないでもいいですよ?普段から食が細いのに頑張って食べようとしないでも」

 お義母様がそう言うと、京子さんは申し訳なさそうな顔をして「はい」とうなずいた。

「そうだぞ、京子さん。こいつに合わせていたらえらいことになる。弥生が大食漢ってだけで、普通の女はこんなに食わないから安心しろ」

「大食漢って、そんなに食べないですっ」

 そうむくれて言うと、またお義父様とお義母様が笑った。龍二さんもプッと噴き出している。


「それから京子ちゃん、そんなにかしこまらないでもいいからね。何しろここにいるのはみんな家族だ。かしこまる必要なんてないんだから」

「は、はい」

「なんですか、その京子ちゃんっていうのは」

 龍二さんがお義父様にむっとしながら聞いた。


「なんだよ、いいじゃないか。娘なんだからちゃんづけしたって。なあ?弥生ちゃん」

「ふふふ。あなたは娘も本当は欲しかったのよね」

「そうだぞ。だけどこんなに可愛い娘ができたんだ。これからも仲良くしてくれ。こんな老いぼれだけど、はははは」


「老いぼれだなんてそんな…」

 京子さんはそこまで言うと、なぜか顔を赤くして、

「嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」

とほほ笑んだ。


 それからも和やかにみんなで笑いながら、昼の時間は過ぎていった。


 午後は少し時間が空いたので、一臣さんと私はホテルに帰り、壱弥を連れてショッピングに行くことにした。もちろんSPさん付きで。それもいかつい黒人さん。ボブさんとあと二人もついてきた。

 私たちとはちょっと間をあけて歩いているものの、けっこう目立つ。でも、案外周りの人はじろじろと見たりしない。目立っていると思うんだけどなあ。


「壱、見慣れないところでも、喜んでるな」

「そうですね。さっきからキョロキョロしながら見ているけど、目が輝いています」

 ベビーカーに乗った壱弥は身を乗り出して周りを見ている。


 それからベビー用品や、ベビー服の店に入ったりした。ベビー服は買わなかったが、おもちゃを壱弥が気に入ったから買うことになった。

「ベビー服はカランのほうがいいな。可愛いし肌にも優しいのが揃っている」

「あ、カランも販売開始したんですよね!」


「ああ。アメリカのビルにも入る予定だ」

「楽しみですね!」

 確かに、壱弥はカランのベビー服やタオルを使っているけど、肌に優しくって吸収性もいいから、赤ちゃんにはぴったりなんだよね。


 デザインはシンプルだけど、色合いが優しくて可愛い。値段はちょっと高めだけど、いい素材を使っているからか、けっこう販売当初から売れ行きがいい。まあ、それなりに派手に広告もしていたから、飛びついたママさんたちも多いみたいだ。

 

 何しろテレビCMには、売れっ子俳優と女優さんが起用されていたし、雑誌にもたくさん広告載せていたしなあ。


 買い物を済ませ、ホテルに戻りカフェでお茶をした。壱弥の面倒を見てもらうため、日野さんとモアナさんも呼んだが、先に紅茶をさっさと飲んでから、私が壱弥の面倒を見て二人にゆっくりをお茶をしてもらった。


「日野さんもモアナさんも、こっちに来てからずっと壱弥の面倒を見るだけで、どこにも行けなくてすみません」

「いいえ、そんな!今日は少しだけホテルの周りを散歩したり買い物したりしました。モアナちゃんが英語話せるから安心して出かけたんです」

「そうなんですね、良かった」


「でも、ニューヨーク、どこに行けばいいかもわからないし、特に行きたいところもないので、壱弥様のお守をしているほうが楽しいですから、気を使われないでくださいね」

 日野さん!なんだか大人な発言。さすがだ。メイドの鏡だ。


 壱弥は私の腕の中で、すやすやと寝てしまい、しばらくの間カフェでみんなでのんびりできた。


 夜は、大手ブランドのパーティに呼ばれ、お義父様、お義母様、一臣さん、私とでパーティ会場に向かった。龍二さんと京子さんは別のパーティに出席するらしい。


 アマンダさんが通訳についてきてくれて、安心は安心だが、周りはみんな外人さん。やっぱり緊張してしまう。それも、どうやらダンスもあるとか。一応それなりのドレスも着たけど、ヒール高いし、着慣れないドレスだし、落ち着かない!


「弥生さん、こちらに」

 お義母様に呼ばれた。そして、それからはお義母様がみんなに私を紹介してくれた。でも、私はにこりと笑ってお辞儀をするだけ。情けない。


 お義母様は、英語でべらべらと何か話している。みんなが私を見てほほ笑むから、それに私はただただほほ笑み返すだけ。


 隣にアマンダさんもいて、少し私に通訳をしてくれる。でもどうやら、全部を訳してくれていないようだ。もしや、私が傷つかないよう気を使って、全部訳さないようにしているのかなあ。


 一通り挨拶が終わると、お義母様は私と部屋の隅にある椅子に腰かけ、ウェイターを呼んだ。そして、飲み物を手にして、

「疲れたでしょう?少し休みましょうか」

と言ってくれた。


「はい。ありがとうございます」

 実は足が慣れないパンプスで痛かった。

「アマンダも休んだら?」

「ありがとうございます。奥様」

 へえ。アマンダさん、さすがにお義母様には敬語なんだな。


「それにしても、くすくす」

 ん?なんでお義母様笑い出したの?私があまりにも英語も話せず、ダメダメだったから呆れた?

「弥生さんはみんなに気に入られていたわねえ」

「へ?!」

 あ、あまりの言葉にへんな声出ちゃった!


「弥生は、あ、いえ、弥生様はお人形のように可愛らしいし、笑顔もお辞儀も可愛らしくてみんなが喜んでいましたね」

 アマンダさんの言葉にも目が丸くなってしまった。えっと、今、本当のことを言った?実はみんなに馬鹿にされていたけど、私が傷つかないよう嘘ついてない?


「ですが、奥様の紹介の仕方もよかったと思います」

「そりゃ、自慢の嫁ですよ。ほめまくるに決まっているでしょう」

「は?!」

 あ、やばい。また変な声が出ちゃった!


「弥生、わかってなかった?奥様はずっとみんなに弥生がどんなに素敵で可愛らしくて、一臣が溺愛しているかを話していたのよ?」

「えええ?」

 溺愛?そこまで?


「みんなが、弥生だったら頷けるって、そう言ってたわ。あ、すみません。弥生様でした」

「ふふふ。アマンダも弥生さんのことが気に入っているのねえ」

「弥生様を気に入らない人なんていないでしょう。あ、いるとしたら、一臣様を狙っているいけすかない女たち…。あ、すみません、奥様。余計なことを…」


「それが心配だったんですけどね、どうやら一臣もべったりとひっついて、弥生さんのことを守っていたようですし。今日も見ていると、寄ってくる女性をものの見事に冷たくあしらっているようですし」

「え?そうだったんですか?」

 自分のことで精いっぱいで一臣さんのことまで見れなかった。


「大丈夫ですよ、弥生さん。ほら、一応あの人もいるしね」

 指さすほうを見ると、お義父様が見えた。一臣さんの近くにいる。

「お義父様も、女性が寄ってこないようにしてくれているんですか?」

「いいえ。あの人そういうことには無頓着だから。ただ、さすがに社長の目の前でいちゃつく勇気のある人はいませんから」


 そうなんだ。へえ。知らなかった。

「一応、外では威厳がある雰囲気を醸し出していますから」

 そういえば、会社で見せるちょっと怖い雰囲気のお義父様だ。あ、そうか。あれは社長の時の顔なんだ。一臣さんも社員がいると変わるけど、お義父様も変わるのね。


「お義母様、ありがとうございました」

「何がですか?」

「私のこと褒めてくださって。すごくうれしいです。あ、でも、全然わかっていなかったのは、申し訳ないです」

 ぺこっと頭を下げると、またくすくすと笑われた。


「私はね、弥生さん、お世辞とか苦手なんです。本当のことを言ったまでで、そんなにお礼を言われる筋合いもないんですよ」

「え、は、はい」

「それにね、自慢できるぐらいの嫁が来たって喜んでいるんですから」

 う、うれしい!うれしすぎて泣きそう!


「くす。目が涙目ね。それ、うれしいからかしら」

「はい!」

「ああ、それね。一臣が可愛いがっているところはそこなのね。くすくす」

 また笑われた。アマンダさんまで笑ってる。


 でも、本当にその日はうれしかった。お義母様の優しさにも触れられ、緊張していたパーティも一気に気持ちがほぐれた。



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