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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第8話 一臣さんは頼りになる

 お昼は、またもやどこかのブランド店の社長との会食だった。今回も社長と奥様が同席していたが、とても気のよさそうな上品な方だった。


 二人はどうやら、一臣さんとも何度も面識があるらしく、とってもフレンドリー。私に対しても、まるで孫に嫁が来た。くらいの感じで優しく接してくれた。


「あの社長と奥さんには、子どものころから世話になっているんだ」

「世話?」

「おふくろが好きなブランドで、アメリカに行くとしょっちゅう本店に行っていた。俺と龍二もビップ室に連れていかれ、お菓子やおもちゃを出してくれたんだ。実際あの二人にも俺らくらいの孫がいて、たまに一緒に遊んだな」


 帰りの車で一臣さんはそう教えてくれた。あんなにすごいブランド店の社長と奥様なのに、そんなに気さくなんだ。

「もともと小さな店から始まったからな。今でも客と接する機会を多く持つようにしているようだぞ」

「素敵ですね」


「そういえば、昼も京子さんは来なかったな。龍二、寂しそうだったぞ」

「…実は、私たちの部屋にいるんです」

「京子さんが?なんでだ?あんなうるさい壱がいる部屋、かえって具合が悪くならないか?」

「体が悪いわけではないらしくって」

 私は首をかしげている一臣さんに、京子さんと話した内容をそのまま告げた。


「龍二には無理。あんな女の扱い方もわからない男」

 それを聞いて、アマンダさんが怒りながら私たちの話に割り込んできた。

「アマンダは黙って。龍二だって昔とは変わったんだ」

「そんなに簡単に男は変わらない」

「へ~~~。俺は変わったけどな?」

 そうドヤ顔で一臣さんが言うと、アマンダさんは笑った。その横で珍しくボブさんまで笑っていた。


「そうですよね。龍二さんだって京子さんのこと大事に思っているんだから、変わりますよね?」

「龍二だって京子さんに嫌われたくないだろう。そうか。俺から見ていたら、龍二のほうが尻に敷かれている感じだったが、そうじゃなかったんだなあ」

「尻に敷かれているのは一臣じゃないの?」


「アマンダ。俺が弥生の尻に敷かれているように見えるか?俺は弥生を溺愛しているだけだ」

 うわ~~~。自分で言ったよ、この人。ああ、アマンダさんも今度はあきれて何も言えないみたい。


「京子さんのほうが強く出てもいいくらいだ。龍二を顎でこき使うくらいでも大丈夫だと思うけどな」

「ええ?そうなんですか?」

「あいつ、そういう感じしないか?」

「そういう感じ?」

「女性は従順なほうがいいとか口で言っているやつに限って、本当は強い女性を望んでいるもんだ」


 そうかなあ。

「情けなさそうだろ。あいつ」

「そんなことないです。私、龍二さんと攫われたとき、私のことを守ろうとして頑張ってくれました」

「でも、お前が全部やっつけちゃったんだろ?」

「その話、本当?弥生はそんなに強いの?!」


 アマンダさんが目を輝かせて聞いてきた。一臣さんは、

「弥生の武勇伝聞きたいか?」

とアマンダさんとボブさんにその時の話を聞かせた。

「一回、弥生と勝負してみたいわ」

「え?アマンダさん、何か武道習っているんですか?」


「私もSPの訓練を受けたことがあるから」

「緒方財閥の秘書はみんな、SPの訓練を受けるからな。でもアマンダ。弥生とは戦わないほうがいい。絶対に負けるぞ」

「私が?!」

 アマンダさんが目を丸くした。


「ああ、こいつは辰巳氏すらやっつけられる」

「OH!!!」

 相当驚いたのか、そう言ったきりアマンダさんはしばらく口を縦にあけていた。


「弥生、今のは冗談じゃないのね?何も否定しないってことは、本当なのね?」

「合気道だったらですよ」

 そう慌てて言うと、

「アイキドウ!!!」

と、なぜだかわからないけど、そう叫んだ。


 午後からの予定まで時間があるので、いったん私たちはホテルに戻った。そして部屋に行くと、

「おかえりなさい」

とモアナさんが出迎えてくれた。京子さんは壱弥をおもちゃであやしていたが、一臣さんが近づくと、

「あ!ごめんなさい。勝手にお邪魔しています」

と慌てて立ち上がった。


「いい、いい。壱も遊んでもらって嬉しそうだ。それより、京子さん、具合はどうだ?」

「はい。心配かけてすみません。壱弥君と遊んで、元気になりました」

「そうか。よかった」

 一臣さんはそう言って、壱弥を抱っこした。


「いい子していたようだな?」

「パ~~~~!」

「パパと遊ぶか?」

 高い高いをしたり、飛行機だと言って、一臣さんは壱弥のことをグルグル回している。壱弥は声を上げて、喜んでいる。ああいう体を使った遊び、私には無理だもんなあ。壱弥、最近重いし。


「龍二は午後一でもアポがあったようで、会食後そっちに向かったぞ」

 疲れたのか壱弥を床におろし、自分もソファに座ってから一臣さんは京子さんに伝えた。

 その間、モアナさんが私たちみんなに紅茶を入れてくれた。


 私と京子さんもソファに腰かけ、お茶を飲みながら静かに話を始めた。

「実は、弥生さんには悩みを聞いてもらったんです」

「ああ。ざっくりと聞いた。龍二のことだろ?だけど、安心していいぞ。龍二はああ見えて、京子さんに頭が上がらないくらいまいっているからな」


「まいる?」

「京子さんのほうが強く出ていいんだ。外では一歩引いて見せておいて、実は龍二のことを掌で転がす。そのくらいでいいと思うぞ」

「掌で転がす?」

「龍二は甘えん坊だからな。甘えさせておけばいいんだ。だから、他の女が龍二に言い寄ってきたら、他の女と仲良くしたら、別れますくらいの脅しを言ってもいいくらいだ」


「そんな!本当に別れることになったら嫌です」

「そうならないから安心しろ。龍二が京子さんを手放すわけがないだろ」

「…そうでしょうか」

「俺から奪いたいくらい、京子さんに惚れたんだろ?」

「奪うって、そんな」


「まあ、俺には弥生がいたんだけどな。でも、俺のフィアンセ候補だったころから、京子さんにちょっかい出していたじゃないか。ほかの女性には興味も示さず」

「…そうでしょうか」

「いい加減、自信持て。案外京子さんも、自分を信じられていないんだなあ」

 一臣さんはそう言うと、紅茶をゆっくりとすすった。


「弥生さんが羨ましいです」

「俺が溺愛しているからか?」

 また、この人、堂々と言ったよ?

「はい」

 わあ。京子さんも頷いた。


「弥生、そういえば、いつからか俺に甘えてくるようになったよな」

「え?私がですか?」

「京子さんも甘えてみたり、すねてみたり、いろいろな自分を龍二に見せたらどうだ?遠慮はいらないと思うけどな。何しろ夫婦なんだから、どんどん素を見せたらいいじゃないか」

「はい。もっと素直になるってことですよね」


「ああ、そうだ。な?弥生」

「はい」

 一臣さん、なんだか自慢げ。じゃなくって、嬉しそう。なんでかな。

「わかりました。私そろそろ部屋に戻ります」

「そうだな。モアナも休んでいいぞ。3時まで暇なんだ。壱は俺らが見るから」

「はい」


 SPを一臣さんは電話で呼んで、京子さんとモアナさんを部屋まで送っていくようにと命じた。


 二人が部屋を去り、一臣さんはいきなり私を抱きしめてきた。

「弥生」

 甘えてきたのかな?

「1時間寝るか」


「え?何を言ってるんですか。壱君もいるのに」

「壱も眠そうだ。みんなで昼寝しよう」

 あ、昼寝か。びっくりした。違う意味で受け取っちゃった。

 

 壱弥は一臣さんが抱っこしているうちにすぐに眠ってしまい、ベビーベッドに寝かせた。一臣さんはシャツ1枚になると、ベッドに入り込み、私を呼んだ。

 私もワンピースを脱いで、下着になると一臣さんの横にもぐりこんだ。


「そんな気にはなれないぞ?それとも襲ってほしいのか?」

「違います。ワンピースが皴になるから脱いだんです。一臣さんだって、シャツ1枚になっちゃったじゃないですか」

「ははは。冗談だ。とにかく1時間だけ寝よう」

 疲れているのかなあ?


「今日はおやじたちが来るからな。多分また遅くまでパーティが続くだろ。今のうちに休んだほうがいい」

 ああ、そうか。そうだよね。また壱弥を遅くまで、日野さんにみてもらうことになるのか。

 お風呂すら、モアナさんと日野さんが入れてくれているもんなあ。申し訳ない。このやんちゃ坊主大変だろうなあ。


 スウ。寝息が聞こえた。一臣さんの顔を見たら、すでに眠っている。わあ。相当疲れていたのかな。私よりも午前中のスケジュールがタイトみたいだもんね。

 っていう私もすぐに眠くなり、寝てしまった。


 1時間したら起こしてくれと、樋口さんに一臣さんは電話で頼んでいたが、その前に壱弥の声で私たちは起こされた。どうやら、壱弥のほうが先に目が覚め、ベッドから降りたい様子だった。

「なんだよ。こいつ1時間も寝なかったのか」

「あ~~~」

 遊びたいみたいだなあ。


 一臣さんが壱弥をベビーベッドから床におろすと、

「タ~~~~~!」

と早速壱弥はハイハイしまくった。なんて元気なんだ。


「ずっと部屋にいるんだもんな。体力も有り余るんだろうな」

「ですよね。こんなの毎日続いたら、さすがに壱君、飽きちゃいますよね」

「そうだな。スケジュールを調整させて、壱もどっかに連れていけるようにしないとな。SP総動員になるだろうけどな」

 そうか。日本でだってお屋敷と会社の往復しかさせてないんだもんね。


 ただ、お屋敷は広いから、いくらでも遊べる。だけど、ニューヨーク、マンハッタンじゃそうはいかないよね。

「壱君を連れてきたのは、失敗だったのかなあ」

「珍しい。弱気になってるな」

 一臣さんが私の顔を覗き込んでそう言った。


「ホテルでも遊べる場所はあるし、大丈夫だ」

「そうなんですか?」

「ああ。そうだな。どっかのレストランに行ってもいいし、おもちゃ売り場とか行ってもいいな。子どもが遊べる場所もあるだろ。アマンダに聞いてみるか」


「SPに迷惑かけますね」

「そのためのSPだ。仕事なんだから迷惑じゃない。あと侍部隊、忍者部隊もたくさんいるからな。大丈夫だ、弥生」

 にこりと一臣さんは微笑んで、私の頭を撫でた。ああ、私は思いっきり一臣さんに甘えている。一臣さんがいたら、なんにも心配いらない。すんごい頼りになる。


 でも、龍二さんはどうなんだろうなあ。京子さんのほうが強く出てもいいくらいだって言っていたけど、京子さんはどうなんだろう。一見しっかりして見える。でも、実は精神的に弱かったりしないかな。


 そんなことを私が心配してもしょうがないことだけど、なんとなく私は気になっていた。



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