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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第6話 一臣さんの溺愛ぶり

 着替えを済ませ、私と一臣さんはパーティに行くことになった。

 緊張する。一臣さんの顔を見るとまったく緊張をしているどころか、欠伸までしている。

「は~~あ、面倒だよなあ」

 愚痴まで出た。


「それにしても」

 エレベーターの中、SPもいるというのに一臣さんは私を見て、

「弥生、可愛いな」

と鼻の下を伸ばした。でも、私はそれどころじゃない。何も返事をしないと、

「や・よ・い。俺は?」

と聞いてきた。


「は?」

「このスーツどうだ?」

「一臣さんは何を着ても決まってます。今さらです」

「なんだよ、つまらない反応だな」

 そんなことを言ってる場合じゃない。なんだか、どんどん緊張してきた。


 途中、京子さんと龍二さんと合流した。ああ、京子さんは今日も女らしいドレスだ。私なんて子どもっぽいし、色も赤だし。七五三みたいじゃない?でも、一臣さん可愛いって言ってた。だけど、最近一臣さんの言葉はあてにならないことを思い知っているし。この人に言わせたら、なんでも可愛いらしいから。

 多分きぐるみ着ていたって可愛いって言うと思う。


 パーティ会場に着いた。中に入ると、すぐに圧倒された。外人の皆様、背が高い!それに皆さん、スタイルもいい。背中の開いたドレス、スリットの入ったドレス、胸の谷間の見えるドレス。

 それに比べると、本当に私は小学生並み。


 一臣さんはずっと私のそばを離れることなく、アマンダさんもボブさんもそばにいてくれた。そして一臣さんは何人かの外人さんに私を紹介した。英語で何を言っているかわからない。とりあえず、にこにこ微笑み、お辞儀だけして歩いた。


 京子さんを見ると、英語でちゃんと会話をしている。さすがだ。


「カズオミ!」

 そうでっかい声をあげながら、背の高いブロンドの女性が近づいてきた。その横には黒髪のナイスバディの女性もいて、

「リュウジ!」

と手を振りながらやってきた。


「ゲ…」

 小声で後ろから龍二さんが言ったのが聞こえた。会いたくなかった人たちのようだ。

「弥生、俺から離れるな」

 ん?一臣さん、私の腰に手を回して私を引き寄せたけど…。


「カズオミ」

 そうブロンド女性は微笑み、何やら早口で英語でまくしたて、一臣さんにハグをしようとしたが、一臣さんは私をさらに引き寄せ、英語で私を紹介したようだ。その女性の名前は「カミーラ」というらしい。私を見て、ふふんと鼻で笑った。


 その後、また早口で一臣さんに何かを言った。私は横にいたアマンダさんに「何て?」と小声で聞いたが、

「アマンダ。訳さないでもいい」

と一臣さんは怖い顔でそう言い、片眉をあげて、カミーラさんに言葉を返した。

 途端にカミーラさんの表情が青ざめ、その場を去って行ってしまった。


 黒髪の女性は龍二さんにハグをして、そのまま腕を掴み、嬉しそうに話をしている。龍二さんは顔が冷めているが、横で静かにしている京子さんのことはほっぽらかし。

「メリンダ」

 一臣さんが黒髪女性のほうに行き、京子さんを紹介した。だが、メリンダっていう人はなかなか龍二さんから離れない。


 もう!龍二さんも一臣さんのように、ちゃんと自分で京子さんを紹介したらいいのに。なんてやきもきしていると、その女性が龍二さんから離れ、一臣さんに引っ付こうとした。

「弥生」

「はい?」

「俺にくっついていろと言っただろ?こっちに来い」

 そそくさと一臣さんの横に行くと、私をメリンダさんに紹介した。メリンダさんはカミーラさん同様、私を見ると鼻で笑って何かを言った。


 聞き取れなかったが、龍二さんまでがムッとした。何か嫌味か、私の悪口なんだろうなあ。

 グイッと一臣さんが私を引き寄せ、自慢げに何かを言うと、ドヤ顔をして、そのうえ私の口にチュッとキスまでしてきた。


「え?!」

 何?なんで?!

「カズオミ…」

 メリンダさんは目を丸くして驚いているが、一臣さんはハハハと笑い、私の腰を抱き、メリンダさんをそこに置き去りにして、龍二さんと京子さんにも、

「向こうに行くぞ」

と声をかけた。


 メリンダさんから離れてから、アマンダさんがくすくす笑い、

「さすが、カズオミ」

と一臣さんを褒めている。いったい、どんなやり取りがあったかわからない。その辺のことは誰も教えてくれないが、

「龍二。お前もちゃんと京子さんを守れよ」

と一臣さんが真剣な目で訴えたから、どうやら京子さんのことまで何か言われてしまったのかもしれない。


「私でしたら大丈夫です」

 京子さんはにこりと微笑んだ。でも、手が震えているのがわかってしまった。それは龍二さんにもわかったらしい。

「あんな女の言うことを気にするなよな。俺も兄貴も、奥さん放って他の女と遊んだりしないし」

 んん?そんなこと言われていたの?


「はい」

 京子さんは小さく頷いたが、まだ顔が暗い。

「京子さん、信じていいぞ。龍二も俺も、そりゃ学生時代、アメリカで羽目を外したが、今じゃ奥さん一筋なわけだし。結婚しても、奥さんなんて放っていつでも遊ぶとかほざいていたのも、若気の至りってやつで、今はそんなこと思ってないから安心しろ」

 そういうことを今、あの人言ってた訳?


「弥生も安心しろよな。って、弥生はもうわかっているとは思うけどな。ただ、龍二、今後もどこで大学時代に遊んだ女と出くわすかわからないからな。京子さんにはちゃんとその辺、言っておけよな」

「言っておけって?」

「心配するなってことだ。それから、簡単に他の女にくっつかれるな。自分の奥さんを優先しておけ。そうしたら、向こうだってくっついて来れないんだからな」


「あ、ああ。そうするよ」

 龍二さんは不機嫌そうにそう答えたが、でも京子さんのことは優しく見て、

「さっきは悪かった。京子も俺に引っ付いていたらいいからな?」

と言葉をかけた。京子さんはその言葉でようやく安心したように笑った。


 龍二さんたちと別れ、一臣さんと少し食べものをつまんだ。

「カミーラさんに、何て言ったんですか?」

「ん?」

「一臣さんの一言で、カミーラさんその場から離れたじゃないですか」

「ああ。弥生のことを馬鹿にしたふうに言うから、俺の最愛の妻だ。とっても可愛くて素敵な女性だろう?と思いっきり褒めまくった。俺にはやっぱり日本人のほうが合うし、日本人の女性はおくゆかしくて可愛らしいんだとも言っておいた」


 そんなにたくさんのこと、言っていたっけ?

「メリンダには、龍二を誘っても無駄だ。龍二は京子さんという、とても素敵な日本人女性に惚れ込んで結婚を申し込んだんだ。見てもわかるように京子さんも弥生も素敵な女性だろう?とそう言った」

「それでキスをしてきたんですか?」

「そうだ。俺と弥生はものすごく仲のいい夫婦なんだと思い知らせた」

「……。一臣さん、そんなことまでして恥ずかしいって言うか、抵抗はないんですか?」


「なんだと?!恥ずかしいだと?弥生は恥ずかしかったのか?」

「い、いいえ。えっと、ほんのちょっと」

「俺だって恥ずかしいというか、日本だったらしないぞ。だが、ここはアメリカだ。夫婦でキスくらいどこでもしているだろうが」

 そうなの?!


「いいんだよ、あのくらいアピールしておいて。そのあと、誰も女が寄って来なくなっただろ?」 

 そう言えば…。なんだか、遠巻きに見ている女性はいたけれど、直接話しかけて来なくなったかも。


 でも、龍二さんのところには、また外人の女性が話しかけ、それも必要以上に接近している。ああ、横で京子さんが困ってるよ。

「一臣さん、龍二さんにまた言い寄っている人がいますよ」

「あいつのほうがアメリカに長くいたから、遊んだ女も多いんだろ」

「じゃあ、彼女も?」

「俺の知らない女だな」


「ああ、龍二さん、なんだって引っ付かせたままにしているんだろう。京子さんが困ってるのに」

「弥生が気にすることじゃないだろ。あの2人の問題だ。それにさっき、一応忠告してやったしな」

「でも…」

「放っておけ。龍二がなんとかするだろ」

 冷たいなあ、一臣さん。たまにすっごくクールになっちゃうんだから。


「それより、そろそろ帰るか」

「え?いいんですか?」

「主要な人物には挨拶したし、弥生も疲れただろ?」

 私のために?


「俺も疲れた。壱のことも心配だしな」

「そうですね」

 ごめんね、壱弥。しばらく君の存在忘れてた!一臣さんは気にしていたんだ。

「こういう会はいつまででも続く。案外大物のほうがさっさと引き上げるもんだ」

「大物?」


「社長、会長クラス。年もいってたら、疲れるだけだしな。適当に挨拶したら、あとは下のやつらに任せてとっとと帰ってしまうんだ。残っていても面倒なことが起きても嫌だろ」

「面倒って?」

「媚売ってくるようなやつとか?こういう場でなんとか自分を売ろうとするような面倒くさいやつもいるんだよ。さ、俺もそういうやつにつかまらないうちに帰るぞ」


 そうなんだ。昔付き合ってた女性だけじゃなくって、そういう人も近づいてくるかもしれないってわけね。


「アマンダ」

 一臣さんはアマンダさんとボブさんを呼び、私を引きつれ会場を去った。そして、車に乗り込んでから、

「は~~~あ」

と蝶ネクタイも外し、第1ボタンも外した。いつもなら第3ボタンくらいまで外すのに、そこはちょっと控えているのかしら。


「腹減ったな。あんまりバクバク食えなかったし、弥生も遠慮していたのか?あまり食べていなかったな」

「緊張していたんです」

「へえ。お前でも食べられないことがあるのか」

「あります!」


 もう。失礼しちゃう。アマンダさんが笑ってるよ。

「ホテルに着いたらルームサービス頼むか」

「そういえば、龍二さんたちはおいてきちゃって良かったんですか」

「あのなあ、あいつらも自分で判断できる年だ。俺が世話を焼かなくてもいいだろが。俺は弥生の世話で精一杯だ」


 ひどい。私の世話って…。でも、そう言われてみたら、ずうっとエスコートしてくれていたんだよね。

「ごめんなさい。私いっつも一臣さんに頼りっきりで」

「なんだ?しおらしくなったな。だが、別にいいんだぞ?弥生は俺の奥さんなんだから、気にすることはない。俺にいつでもべったりと甘えていてもかまわない」


 そう言った一臣さんの顔がにやけていて、またアマンダさんが笑い出した。

「なんだよ、アマンダ」

「一臣がそんなことを言うなんて、本当に弥生を愛しているのね!」

「仲良いい夫婦だってわかったほうがいいんだよ。他のやつらだって、本当は仲悪いのかもしれないが、パーティでは仲良さそうに振舞っているだろ?」


「ここでは仲良く振舞わなくてもいいわよ?一臣」

「俺は振舞っているわけではなくて」

「本当に仲いいのよね?ふふふ。前に社長が溺愛しているって言ってたわ。その意味がわかったわ」

「親父が?!あんの馬鹿親父。誰にでも変なことを言いやがって」

 そんなことを眉間にしわを寄せて言っているのに、私の太ももは撫でている。


「でもね、一臣。弥生にべったりくっついていたのは正解だわ。弥生のことを狙っているおじさんたちもいたでしょうからね」

「狙ってる?」

 私が驚くと、

「そうよ。弥生は可愛らしくって日本人形みたいで、アメリカ人受けするのよ。特におじさんたちは弥生に注目していたわよ。おじさんだけじゃなくて、若い人もだけどね?」


「私が?こんな赤いドレスを着た七五三みたいな私が?」

「七五三?」

 アマンダさんにはわからないか。

「弥生は自分を知らなさ過ぎる。弥生はめちゃくちゃ可愛いんだ。俺が目を離した隙にどこのおっさんにつかまるかわかったもんじゃないからな。いいか?俺から絶対に離れるなよ」


「は、はあ」

 今、めちゃくちゃ可愛いとか言わなかった?うわ~~~。さすがにテレを通り越して引いちゃう。アマンダさんも目を丸くして驚いちゃってる。呆れているんじゃない?


「でも、今日のパーティって上級階級のパーティではなかったんですか?」

「どこの世界にだって、スケベなおやじはいるんだよ」

「……」

「カミーラとメリンダ、あの2人だって、アメリカの財閥の娘だ。2人ともフィアンセがいる。それなのに俺や龍二と遊んでいた」

 そうなの?


「旦那が一緒で声をかけてこなかった奥様方もいる」

「え?不倫していたってことですか?」

「ああ。みんな遊びでだ。あ、俺はそんなに遊んでいないぞ?だいたいが龍二だ」

「龍二さん…?」


「あいつは留学中、日本にいるより自由だし、遊びまくってたんじゃないか?特にあの頃あいつは荒れていたし」

「じゃあ、あのパーティにも何人もそんな女性が」

「いただろうなあ」

 ますます京子さんが心配になってきちゃったな。


 そして、私の心配どおり、翌日京子さんは具合が悪くなり、ホテルの部屋に引きこもってしまった。




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