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続・ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 アメリカの生活
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第5話 疲れている私

「では、これからは気を使うことなく買い物してからお昼にしましょう。あと1時間ありますから」

 細川女史がにこやかに私たちに言ってくれた。

「先ほどのお店ははっきり言ってお二人には似合いませんでしたが、これから行くお店は可愛らしいですよ」


 ついてみると、そこまですんごいブランド店ではない。若い人に人気の流行のお店らしい。私にはわからないが、日本にもあるブランドだとか。


「この店好きです。六本木にもありますね」

 そうなんだ…。京子さんの言葉に黙り込んでしまった。

「上条グループのビルに入っているお店ですよ」

 細川女史にそう言われたが、こういうのに疎い私は何も返せなかった。


 店内に入るとにこやかに店員さんが声をかけてきて、アマンダさんや細川女史が私に合うものをと言ってくれた。京子さんは他の店員さんと直接英語で話している。


 何点か用意してくれた服を着て、

「それ、似合っています」

と京子さんと細川女子が勧めてくれた服を買った。


「一臣様も喜びますよ」

「え?そうですか?」

「ええ、とっても可愛らしいから」

 そうか。ちょこっと子どもっぽいかなって思ったんだけどな。京子さんの買った服は女らしいものだったからなあ。


 12時前にホテルのレストランに着いた。一臣さんと龍二さんがそこにいて、私と京子さんも席に着いた。ここでは細川女史と樋口さんは別席のようだ。でも、通訳としてアマンダさんは私の横に座ってくれた。


「どうだった?弥生」

 私が答える前に、

「一臣、あそこのダイアン、相変わらずやな女」

とすんごいことを一臣さんに向かって発してしまった。アマンダさんって一応、アメリカでの秘書だよね。


「ダイアンもいたのか?そうか。社長夫人だけって話だったから、安心していたのにな」

「まあ、私が守ったから大丈夫ですけどね!」

「アマンダ、悪かったな」

「まったく、一臣のまいた種、弥生にかえってくるなんておかしな話!」

「悪かったって。弥生も大丈夫だったか?俺がいてあげたらなあ。これからは、そういう女がいる場には一緒についていくからな。樋口にもスケジュール変えてもらうからな」


「だ、大丈夫です。アマンダさんも京子さんもいてくれたんですから。特に何かされたわけじゃないし」

 嫌味も英語だと、あんまりわからなかったし。

「…でもなあ」

「あ、そのあと、みんなで洋服を見に行きました。楽しかったです」

「…う~~ん」

 あれ?なんだか、まだ気にしているの?ダイアンさんのこと?


「服も可愛いものばかりで、今度着せてみせますね」

「ああ。わかった」

 一臣さんはそれだけ言うと、黙り込んだ。


 だが、龍二さんのほうを見ると、

「お前も気をつけろ。京子さんに被害が及ばないようにな」

と小声で注意した。

「兄貴ほどニューヨークで遊んでいないから大丈夫だ」

 龍二さんはそうぼそっと呟いた。


 あ、今の、京子さん聞いてた。ちらっと見ると、京子さんは何も気にしていませんっていう顔をしていた。さすがだなあ。


 しばらくすると、

「遅くなって申し訳ありません」

とアジア系の30代の男性と、金髪の30代だろうスーツ姿のにこやかな男性が現れた。その横にはナイスバディな黒髪の女性が来た。やっぱりアジアンチック。


 アジア系の30代男性は通訳さんで、金髪男性が副社長、アジア人女性はその奥さんだった。奥さんは日系らしいが、日本語は得意ではないらしい。


 副社長はお話好きで、食べながらもベラベラ話す。一臣さんはそこまで話さず、相槌を打つか、時々質問に答える程度。意外と龍二さんのほうが話していた。


 京子さんはにこやかに話を聞いていて、私はさっぱりわからんちんだから、時々小声でアマンダさんが訳してくれた。それを聞きつつ、食べつつ、でも、緊張して喉を通らず、まったく食べた気がしなかった。


「なるほどな」

 全てを食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら、一臣さんは頷いた。一臣さんはずうっと落ち着いている。

 時々日本語でも相槌を打つが、ほとんどが英語。一臣さんも龍二さんも留学経験あるんだもんね。そりゃ、ベラベラだよねえ。


 ここでも、差が歴然と現れてしまった。私は通訳してくれないと、ほぼわからない。

 そう言えば、副社長の奥さんも静かだった。あんまり仕事について詳しくないとか、口を挟まないようにしているのかな?


 なんて思っていると、コーヒーを飲みつつ、お店にはどんな服が並んで、今後の新作はどんなものなのかという一臣さんの質問に、奥様のほうがベラベラと答えだしたのだ。

「奥様は、トップデザイナーらしくって、新作はほぼ、奥様がデザインされたようですよ」

 え?!


 驚きを隠せず、びっくりしていると、そんな私を見て奥さんがふふんと鼻で笑った。

 あ、もしかして馬鹿にされたのかなあ。それとも、ドヤ顔されたのかなあ。今まですんごい静かだったし、話についていけないのかって、親近感が湧いていたのに。


 そうか。デザイナーさんなのか。すごいな。

 あ、京子さんが奥さんに、何やら英語で話しかけ、奥さんはにこりと微笑み、京子さんにお礼を言った。もしかして、京子さん、奥さんのことを英語で褒めたのかな。

 なんてそんなことを考えていると、アマンダさんが小さい声で、

「京子は、日本で副社長夫人のデザインのファッションショーを見たことがあるようです」

と教えてくれた。

 すごい。そうなんだ。そういうのを京子さん、見に行っていたんだ。


 また差が出てしまった。


 食事も済み、私と一臣さん、龍二さんと京子さんは別行動のためそこで分かれた。

 車に乗り込み、私と一臣さんは次の場所に向かった。


「はあ…」

「疲れたのか」

 あ、いけない。また無意識にため息が。

「だ、大丈夫です」

「まったく。こんなに弥生までスケジュール詰め込んで、どういうつもりだ」


「申し訳ありません。次も一応夫婦同伴ですが、弥生様、ホテルにお帰りになりますか?」

「いえ。大丈夫です」

 とか言いつつ、次はいったいどんな場所なの?とか聞けない。聞く元気も出ない。


「ニューヨーク支社長と、その奥さんに会いに行く。簡単な挨拶だ。弥生、そんなにかしこまるな。2人とも日本人だから言葉も通じる」

 そう一臣さんは言いながら、私の太ももを撫でた。


 リムジンの助手席に細川女史が座り、後部に私、一臣さん、樋口さん、アマンダさん、ボブさんが乗っている。なのに、私の太ももしっかりと撫でてきた。わあ。見られた。


「それにしても…」

 はあっと一臣さんはため息を吐き、

「アメリカでは、ほんと、プライベートの時間が持てないんだな」

とぼやいた。


「申し訳ないですが、ホテルの部屋に行ったら、親子水入らずでのんびりして下さい」

「…それまでの我慢ってことか。あ~~~、早く日本に帰りたい」

 わあ、出た。また一臣さんの我が儘発言。でも、誰一人なんにも言わない。


 もしかして、一臣さんの我が儘発言、みんな慣れているのかなあ。


「ふっ」

 あ、アマンダさんが笑った?

「昔はハワイやアメリカでは、羽目が思い切り外せて、日本に帰るのを嫌がっていた一臣が、今は日本に帰りたいだなんて!」

 え?


「よほど、弥生と2人っきりになりたいんですね。仲いいことはいいことですね」

 それからアマンダさんは声高々に笑い出した。


「恥ずかしいことを言うな、アマンダ」

 うそ。一臣さん、照れてるし…。その横で樋口さんが嬉しそうな顔しているし。


 あ、一気に気持ちがほぐれたかも。そうか。この車内では私、リラックスしていてもいいみたい。

 なんだか救われた。いつでも樋口さんも、笑っていてくれたら嬉しいんだけどなあ。



 緒方商事のニューヨーク支社長は、恰幅のいい頼もしい感じの40代後半の男性。その奥様も同じくらいの年齢かな。優しそうな人だ。何かアメリカで困ったことがあったら、何でも言って下さいねと言ってくれた。二人にも娘さんがいて、大学生でオーストラリアに留学しているとか。すごいなあ。でも、私が娘のように見えて、心配してくれたようだった。


 そんな年齢でもないのに、若く見えたってことかしら。それとも、頼りなげに見えちゃったかな。


「お子さんも一緒に連れてきてくださったら良かったのに。ぜひ、ニューヨークにいる間、我が家にお子さんを連れていらして。とっても可愛らしいって噂は聞いています。それも、副社長が可愛がっているって」

「はい。是非、機会があれば伺います」

 そんな話をして別れた。


 2人と会ったのは、すでに出来上がっていたニューヨーク支社の支社長室。あと半月でニューヨーク支社は活動する。建物自体はもう出来上がり、あとはすぐにでも仕事が始められるように、猛スピードで準備が進められているらしい。


 すでに、日本からも他の支店からも、ニューヨーク支店に人がやってきていた。数人の重役クラスの人も挨拶に来て、すぐに戻っていった。

 

 その後、一旦ホテルに帰り、夜のパーティの準備をする。小1時間はあるから、ホテルで少し休めそうだ。

「はあ、疲れた」

 ホテルの部屋のソファに座り、つい口から出た。

「疲れたな」

 一臣さんもソファに座った。


「お茶を入れますね」

 私たちが帰ってきたことを知って、アリーさんが来てくれていた。モアナさんと日野さんは、これからは時間を交代して壱弥の面倒を見てくれるらしく、今の時間はモアナさんだった。


 何しろ、朝9時から、夜の9時ごろまで見てもらうことも日によってはある。毎日パーティがあるわけではないが、パーティがある日はどうしても遅くなる。


 交代交代で休んだり、ベビーシッターをしてもらう。部屋の掃除には、アリーさんとアリーさんのお母さんが交代できてくれる。この2人に早くから壱弥は慣れてくれたようで、人見知りしないで本当に良かった。


 あ、そう言えば、そのうちこのホテルにお義母様とお義父様も来るんだよね。そうしたらもっと心強くなるなあ。

 って、私気弱になっているんだなあ。


「ああ、ほっとするな」

 紅茶を飲んで一臣さんはそう一言言った。アリーさんは喜んでいる。

 私も紅茶を飲んだ。

「ふ~~~」

 本当だ。ほっとする。


「パーティも大変かと思うが、俺もついているし、アマンダもいるし、大丈夫だからな」

「…はい。でも、私、全然会話が英語で出来なくって。やっぱり、一臣さんと練習した程度では聞き取れないし、話せないですね」

「話せなくてもいい。堂々としていろ。な?」


 そう一臣さんが優しく言ってくれた。

「モアナ、壱は寝ているんだな?やけに静かだが」

「はい。つい5分前まで起きていたんです」

「ああ、いい。寝かせておいて。モアナも一回部屋にもどれ。疲れたろ。アリーもいいぞ」


「はい、失礼します」

 2人が出て行くと、一臣さんはそっと壱弥の寝顔を見に行った。私も覗きに行って、2人で寝顔に癒された。そして、ぎゅっと一臣さんは私に抱きついてきた。


 私も思い切り一臣さんを抱きしめた。あ~~、一臣さんのコロンの香り。癒されるよ~~。

「今日は疲れているから抱けないか…。でも、早くに帰ってこれたら抱くからな」

 またそんなこと言ってる。どっちでもいいけど、私は早くに一臣さんの腕枕で眠りにつきたい。


 って、そんなことを思うほど、2日目からニューヨークで私は疲れてしまっていた。




 

 

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